Webコラム

2018年6月 1日 (金)

Webコラム 吉富有治

2度目の住民投票が延期に このまま自然消滅というシナリオも

  政令市である大阪市を廃止して、代わりに複数の特別区を設置する、いわゆる「大阪都構想」。その是非を問う住民投票は2015年5月17日に実施され、反対票が賛成票を僅差で上回ったことで都構想は頓挫した。だが、2015年11月の大阪府知事選、市長選のダブル選挙で大阪維新の会が圧勝したことで、頓挫したはずの都構想はふたたび息を吹き返し、早ければ今年の9月には2度目の住民投票が開かれる予定だった。

  ところが、大阪維新の会は5月31日に開いた党の会議で、都構想を設計する大阪府市・法定協議会で「十分な議論が尽くされていない」ことを理由に正式に延期を決定した。

  ただし、住民投票を延期する理由は維新が言うように、必ずしも「十分な議論が尽くされていない」からではない。そもそも前回の住民投票でも十分な議論を尽くしたとは言えず、大阪市民に中途半端な情報しか与えないまま半ば強引に実施し、その結果、市民感情を賛成派と反対派に二分するような事態を招いてしまった。政令市を廃止するかどうかの重要なテーマを扱うのなら、半年や1年くらいの議論で十分なわけがない。

  維新が住民投票を延期した本当の理由は3つあると思っている。1つは、以前に比べて大阪市民の関心が低いことである。

  今年4月にNHKが実施した都構想に関する世論調査によれば、都構想に賛成する大阪市民は28%なのに対して、公明党が提唱する総合区と都構想に反対する市民は42%もいた。つまり、大阪市の行政区の改革も、また市の廃止も望まず現状維持を求める声が圧倒的に多かったのだ。

  この調子では、都構想に興味も関心もない大阪市民を対象に住民投票を実施したところで反対多数になることは目に見えている。勝ち目がないなら、やらないほうがいい。維新がこう判断しても不思議ではない。

  2つ目の理由は、維新の内部にも住民投票の延期を求める声が強かったからである。特に、維新の会大阪市議団から先送りを求める声が強い。大阪市は廃止される対象で、回り回って、自分たちも議員の身分を失うからだろう。

  2011年4月の住民投票で「橋下チルドレン」と呼ばれた多くの地方議員が誕生してから、来年で丸8年を迎えようとしている。その間、大阪維新の会は大阪府議会と大阪市議会で第一党の地位を築き、もはや押しも押されもせぬ立派な既成政党になった。チルドレンたちもベテラン議員に成長し、議員バッチを付けることに慣れてきた。

  ところが、維新にとって「一丁目一番地」の最重要政策である都構想が否定されると、維新の存在まで否定され、自分たち議員の身分まで危うくなる。「身を切る改革」を訴える維新議員たちだが、本音では現在のポジションにとどまりたいようである。

  そして最後の理由が公明党だ。大阪維新の会は府議会と市議会で第一党とはいえ、維新だけでは単独過半数に満たない。そのため住民投票の実施には公明党の協力が不可欠である。ところが、その公明党が今年の住民投票実施に慎重な姿勢を見せたため、維新も諦めざるを得なかったのだ。

  もっとも、公明党の大阪府議、大阪市議たちの大半は都構想に反対で、本音では住民投票などやりたくもない。このままずるずると延長が続き、住民投票が自然消滅することを望んでいるようなのだ。その伏線は法定協議会でも散見された。

  法定協議会を事務方としてサポートする大阪府・市の職員が、都構想の財政シミュレーションを法定協議会に出しきても、公明党の議員たちはその都度、細かい点を突いてくる。挙げ句、「これでは納得できない」と突き返す場面も多々見られた。

  こんな調子のまま法定協議会が進めば、それだけで1年や2年経っても議論は煮詰まらない。おそらく公明党の狙いは、維新が住民投票延期の理由に掲げた「十分な議論が尽くされていない」状態を延々と繰り返すことではないのか。

  ただ、維新の会も指を加えて黙って見過ごすとも思えない。前回の住民投票では、当初は住民投票に反対していた公明党の態度をひっくり返すために菅義偉官房長官に泣きつき、支持母体の創価学会から公明党へ圧力をかけたことがあった。維新は今度も同じ手を使うことは十分に考えられる。

  だが、2015年の当時と違って、モリカケ問題などで内閣支持率が下がり続ける安倍晋三政権にかつての勢いはない。また、安倍首相も今年4月に来阪した際、自民党の国会議員や府議、市議たちの前で「都構想には反対する」と言い切った。維新が裏で手を回して公明党を揺さぶることは難しいだろう。

  以上のことから様々な情勢から見て、最終的に住民投票は開かれないのではないかと私は予想している。

  しかし、それでいい。来年のG20サミット首脳会議や2025年の大阪万博など、大阪には課題が山積みだ。貴重な税金と時間を使って無駄な議論をするよりも、眼の前の問題を片付けることが先決だろう。大阪市民の多くもそれを望んでいるはずである。

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2018年4月19日 (木)

Webコラム 吉富有治

自民党大阪の会合に安倍首相が出席 首相に「都構想反対」と言わせた真意はなにか

  安倍晋三首相は4月13日、翌日に大阪市内のホテルで開かれる自民党大阪府支部連合会(府連)の臨時党員大会に出席するため来阪した。首相が府連の大会に出るのは初めてで、きわめて異例のことである。森友学園問題や加計学園問題、さらには自衛隊の日報隠し問題で野党とマスコミから集中砲火を浴びて内閣支持率が下がるなか、また大阪維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)に近いといわれる安倍首相が地方の大会で何を語るかが注目された。

  さて、新聞やテレビでも報道されたように、真っ先に飛び出したのは「都構想反対」という首相の一言だった。これには自民党大阪の府議や市議らは大喜びし、その反対に松井代表は「リップサービスだ」と不快感を示した。

  なぜ安倍首相は「都構想反対」と語ったのか。その一言を引き出した自民党大阪府議団の花谷充愉(はなやみつよし)幹事長に話を聞いた。

  ― 13日の夜、大阪選出の国会議員や府連幹部の府議、市議らが大阪鶴橋の焼肉屋で首相と会食した。いわゆる"モリカケ問題"が再燃するなかで安倍首相が来阪することに複雑な気持ちだったのでは?

  安倍首相が4月14日の臨時党員大会に出席するのは今年2月半ばに決まっていたことだが、モリカケ問題などで内閣支持率は下がっており、首相の来阪は大阪府連にも悪影響が出るのではないかという不安の声が一部の議員から出されていた。ただ、最終的には国会議員団が判断し、来てもらおうということになった。

  ― モリカケ問題で、たとえば「地方議員が困っている」などと首相に直接、文句を言ったのか。

  焼肉屋での会食は約30人が参加したが、その話は出なかった。ただ、同じ日の夜には大阪・帝国ホテルで別の会合があり、テーブルごとに首相が挨拶に回ったが、そこでどんな話があったのかはわからない。

  ― なぜ、モリカケ問題を安倍首相に言わなかったのか。

 加計学園問題はともかく、森友学園問題は国政の問題であると同時に大阪府の問題でもある。この問題を追及している自民党大阪府議団が今後も百条委員会の立ち上げを目指し、なぜ大阪府が森友学園の小学校設置申請を認め、有識者からは「問題あり」とされたのに「(条件付き)認可適当」としたかを追及する姿勢は変わっていない。今後あらたな事実が出てきて百条委員会で関係者を呼び、結果として首相に火の粉が降りかかることになったとしても私たちは追及の手を緩めることはない。府議会は国政とは立場が違うので、大阪の問題は府議会で問いたい。だから安倍首相にモリカケ問題を問わなかったのだ。

  ― 既に報道されているが、焼肉屋の会食で首相は「都構想には反対」と語ったという。首相にそう言わせようという作戦があらかじめ決められていたのか。

 あらかじめというより、私たちは都構想を大阪の問題として共有していたので、いずれ首相には話そうという雰囲気は以前からあった。焼き肉を食べながらの楽しい雰囲気をぶち壊すようで恐縮だったが、最初に私が口火を切った。私が首相に説明したのは、なんとしても住民投票を阻止したいという話だった。住民投票を阻止するのは公明党の協力が不可欠で、いかに公明党が独自の判断で住民投票を止めてもらうかが、かねてからの課題だったからだ。というのは、公明党は常々「住民投票までは賛成してほしいと官邸から(間接的に)頼まれている」と内輪の席では語っていたからだ。官邸から"圧力"があるから公明党も住民投票には「NO」と言えない事情がある。むしろ公明党からは、「自民党府連から首相に状況を説明して、官邸からの圧力をストップしてほしい」と頼まれていた。そこで思いきって首相に説明した。
 
  ― 安倍首相の反応は?

 首相は「(官邸は)そんなことは言っていない」と断言した。そこで首相には「官邸の主は安倍首相。今後このような事態が官邸から起これば止めてもらいたい」とお願いした。また公明党に対しては、どこからか間接的にせよ「住民投票に賛成せよ」という圧力めいた命令があれば、そのときは「『官邸からの指示など安倍首相は知らないと断言した。いったい官邸の誰の指示で『賛成しろ』と言っているのか』とやり返してほしい」とボールを投げ返した。これで公明党も安易に圧力に屈し、住民投票に賛成だと言えなくなると期待したい。

  ― 公明党の本音は住民投票には反対?

  全員が反対のようだ。本音は、住民投票など止めてほしいのだろう。

  ― 繰り返しになるが、首相は「都構想反対」と言ったのか。
 
 はっきりと言った。言葉として明確に「都構想に反対」と言ったので周囲が沸き立ったのは事実。その様子を誰かがスマホで動画は取っていたようだ。ただ、私自身は安倍首相に「都構想反対」と言ってもらう必要はないと思っている。首相が臨時党員大会で語ったように、都構想の是非を問うのはあくまでも府連であり、府連が意思決定したことを党本部が支持するのは当たり前のことだ。仮に自民党総裁に都構想の賛否を問うのであれば、筋としては党本部が都構想の是非を問い、その結果を党本部の意志として府連に伝えなければならない。そんなことはナンセンスであり、大阪独自の問題を党本部があれこれ議論する必要などない。自民党総裁である安倍首相が是非を判断する必要も当然ない。 

  ― 安倍首相の「都構想反対」の一言を松井一郎知事は「リップサービス」だと言っている。

 リップサービスでもなんでもない。大阪の問題に対して府連が決定した方針を党本部が追認するのは組織として当たり前のことだろう。

 インタビューは以上のとおりである。読んでわかるように、「都構想反対」の一言は、自民党大阪のモチベーションを上げ、また世間に対するアピール効果を狙うというよりは、どうやら官邸と公明党に対する牽制の意味が強いようだ。なお、花谷幹事長が語っていた公明党が官邸から(間接的に)圧力を受けた件について私は複数の公明党府議、市議らに取材したところ、「住民投票に賛成してほしい」と頼んできたのは支持母体の創価学会関係者や公明党OBという違いはあるものの、事実関係についてはいずれも、ほぼ認めていた。

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2018年4月13日 (金)

Webコラム 吉富有治

モリカケ問題で急展開 - 「ない」はずの文書が出てくるなかで、もう片方の"主役"である大阪府は「ない」の一点張り  -

  どういうわけだか、なかったはずの文書が立て続けに出ている。森友学園問題では国会に提出された公文書が改ざんされていたことが3月2日の朝日新聞の報道で発覚し、逃げられないとみた財務省は、しぶしぶ改ざん文書を提出。事態の収集を図ろうと与党は佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問に同意したものの人を喰ったような証言で世論は反発し、かえって太田充理財局長や麻生太郎財務相は国会で相変わらず苦しい答弁を繰り返している。
 
  防衛省でも同じことが起きていた。自衛隊によるイラク派遣時と南スーダンでのPKO活動などの日報は当初、「不存在」などと説明していたのに、今になって「ありました」と続々と出てくる始末。航空自衛隊でも「存在しない」はずのイラク派遣部隊の日報が見つかり、小野寺五典防衛相や自衛隊の幹部は連日、頭を下げる異常事態へと発展した。 
 
  そして加計学園問題でも新たな展開があった。
 
  4月10日の朝日新聞は、愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画を説明するため県と今治市の職員、そして加計学園幹部が2015年4月、当時の柳瀬唯夫首相秘書官らと首相官邸で面会した際の記録文書が存在することをスクープした。愛媛県が作成したこの文書には、柳瀬秘書官が「本件は首相案件」と述べたと記され、文科省の前川喜平前事務次官が言っていた「加計ありき」の疑いはますます濃厚になってきた。

  そこに加えて愛媛県の中村時広知事は10日、記者会見で「県が作成したメモで間違いない」とあっさり認めたものだから、この一言で官邸はますます苦境に立たされている。

  国や地方で「ない」とされてきた公文書やメモが続々と出てくる中で、まだ表に出てこない文書の存在が気にかかる。財務省と共に森友学園問題の片方の当事者である大阪府。その府が作ったはずの記録文書である。

  私立学校の許認可権を持つ大阪府は2014年10月末、森友学園からの小学校の設置認可申請を受理した。それ以前に府は、幼稚園や保育園しか持たない学校法人には認めなかった小学校などの設置審査の基準を2012年4月に緩和し、森友学園の教育方針や財政状況などに不安を示す私学審議会の声をよそに、2015年1月には条件付きながら「認可適当」の答申を出した。

  その後、森友学園問題が国会やマスコミで騒がれたことから、学園側から小学校の設置申請は取り下げられたものの、「認可適当」に至るまで大阪府は、国有地の売却を担当した近畿財務局とひんぱんに折衝を重ねていたことが明らかになっている。

  さて、財務省の命令とはいえ、近畿財務局が国有地の売却で数々のインチキを重ねてきたのはご承知の通り。もともと存在しない地下のゴミを「トラックを何千台も使ってごみを撤去したと言ってほしい」と森友学園側に頼み込んだり、公文書の改ざんにまで手を染めたことを苦にした近財職員が自殺する事態にまで発展した。

  その近畿財務局と大阪府私学課は森友学園の件で何度も会合を重ねている。ところが、その会合記録が「ない」のだと大阪府は説明する。だが、これまで「ない」とされてきた公文書やメモが国や地方から続々と出てくるものだから、府だけ「ない」の一点張りが、かえって目をひいてしまう。

  大阪府が小学校の設置認可申請のハードルを下げたこと、また私学審議会の忠告を無視するかのような態度で「認可適当」としたことと、近畿財務局が森友学園に国有地をタダ同然で売り払ったことは、おそらく密接に関連しているはずなのだ。近畿財務局は府に「国有地の問題はこちらで解決するから、そちらは認可に努力してほしい」と頼み込んだ可能性も、あながち捨てきれない。それでも大阪府が「ない」と言い張るのは、内容が外に漏れると自分たちに火の粉が降りかかることを理解しているからではないのか。
 
  これまで私は取材で多くの公務員と出会い、交流を重ねてきた。そこでわかったことは、彼らは決して責任を取りたがらないことである。だからこそ大きなプロジェクトや府民、市民の生活などに影響が出るような重要な案件になればなるほど、記録文書は必ず残す。あとになって議会などから集中砲火を浴びないための証拠保全と保身のためであり、それが公務員の習性でもある。

  大阪府と大阪市の職員たちは口をそろえて奇しくも同じことを言っていた。

 「役所と役所の交渉を含め、あらゆる交渉記録を文書に残すのはわれわれの仕事では当然のことだ。特に、維新政治になってからは行政の透明化が図られているのでなおさらだ。もし記録が残っていないというのであればウソをついているか、それともわざと破棄したとしか考えられない。それだけ大阪府に不利な内容が書かれているからではないのか」

  国会で論戦が繰り広げられている森友学園問題。大阪府も"主役"であることを私たちは忘れてはいけない。

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