Webコラム

2019年1月25日 (金)

Webコラム 吉富有治

見えてきた都構想の終わり
荒れた法定協議会で維新と公明党との対立は決定的

「会長、動議! 動議!」

  大阪市議会で昨日23日午前に開かれた「大都市制度(特別区設置)協議会」、いわゆる法定協議会で、今井豊会長(維新幹事長)が開会を宣言した直後、委員である公明党の八重樫善幸府議が冒頭のように動議を求める発言を繰り返した。これが波乱の幕開けだった。なお法定協議会とは、いわゆる大阪都構想の制度設計をおこなうことを目的に、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長、また府議会と市議会から各党の代表議員の計20名が参加して議論を進める場のことである。

  さて、動議を提案した八重樫府議は用意していたメモを読み上げ、今年1月11日の第18回法定協議会は今井会長の一方的な通告で開催されるような異常事態であり、次回は改めるよう忠告したにもかかわらず、本日の法定協議会も強引な手法で開催されたと批判。断固抗議するとともに直ちに散会するよう訴えた。

  この動議を受けた今井会長は採択をおこなわず、「大事なことだから皆さんの意見を聞く」と受け流し、なぜか維新の委員ばかりを指名。そこに、この動議の採択を求める委員や維新の委員から「採択しろや」「やかましいー」「職務放棄だ」などと怒声が飛び交い、協議会は40分以上も紛糾。結局、1時間近くの休憩をはさんだ後、今井会長は散会を宣言し、この日の法定協議会は議論がおこなわれぬまま中止となった。

  これまで維新と歩調を合わせてきた公明党が180度も態度を変えたのには理由があった。大阪府の松井一郎知事が昨年12月26日、大阪府庁で記者会見し、維新と公明党が水面下で交わした密約文書を暴露したからである。「合意書」と題されたA4サイズ1枚の紙には、法定協議会において「慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中に住民投票を実施すること」と書かれ、2017年4月当時の公明党府本部幹事長と大阪維新の会幹事長が署名していた。ちなみに署名した維新側の人物が法定協議会の今井会長である。

  松井知事は市内のホテルで昨年12月21日、公明党の幹部らと面談。この密約文書を盾に、「任期」とは府議と市議のそれだと主張。4月の統一地方選と住民投票の同日実施が無理なら7月の参院選での同日実施を提案したが、公明党は「『任期』は知事と市長の任期であり、住民投票をするにも丁寧な議論が必要だ」と譲らなかった。怒った松井知事は途中で席を立ち、文書の暴露に踏み切った。また松井知事は、吉村市長と共に途中で辞任し、4月の統一地方選で知事選、市長選のトリプル選挙に打って出ることも示唆し、公明党を揺さぶる作戦に出た。

  しかし、公明党は折れるどころか、ますます反維新の態度を強めていく、業を煮やした維新側は、これまで慣例として各党の代表者が集って調整していた法定協議会の日程を会長権限で強引に決めてしまった。確かに日程は会長が決められると法定協議会の規約には書かれている。だが、これでは慣例破りとなり平穏な会議は望めない。当然、維新以外の各党が反発し、冒頭の動議騒動に発展したわけである。

  松井知事らは終了後の記者会見で「公明党は選挙目当ての私利私欲。慎重で丁寧な議論どころか完全な職責放棄だ」と批判した。だが、公明党の八重府議が提案した動議は会議をつぶすことが目的ではなく、正常な会議に軌道修正してほしいというものである。

  対立する意見を目の前にして慎重な議論を進めるためには、その会議の運営が公平・公正・中立であることが前提だろう。片方の主張、意見ばかりを聞き、反対する意見を顧みない会議の運営では、とても慎重な議論など望めない。こんな調子で時間を取って会議を進めても慎重で丁寧な議論などできるわけがない。そもそも密約文書に署名した人物が法定協議会の会長に収まっていること事態、協議会の公平な運営など期待できないし、ここにきて今井会長の議事進行にも強引さが目立つ。公明党は公平で公正な議論の場を求めたにすぎず、職責放棄でも何でもない。むしろ維新による法定協議会の八百長ぶりが目につく。

  いずれにしても今後、法定協議会はまともに開かれないだろう。となれば、「住民投票の実施」を大義に掲げた松井知事と吉村市長が任期を待たずに辞任し、統一地方選とのトリプル選挙になる可能性が非常に高い。だが、仮に知事と市長の椅子を維新が取ったとしても、中選挙区制の大阪市議会で維新が単独過半数の議席を奪うのは、まず不可能。結局、公明党の協力がなければ都構想など絵に描いた餅でしかなく、その公明党は支持母体である創価学会の了承を得て、維新と徹底抗戦の構えでいる。

  この日の荒れた法定協議会を維新の一部議員らは、自民、公明、共産を批判する材料として早くも宣伝材料に使いだした。しかし、あの法定協議会が都構想の終わりを伝えるものだと気づいた議員は何人いたのだろうか。4月の"最終決戦"まで、あと2ヶ月と少しである。 

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2018年12月24日 (月)

Webコラム 吉富有治

焦りの裏返し? 松井知事が出直し選挙に!? 党利党略の選挙など有権者には大迷惑

  大阪のクリスマスイブは早朝からきな臭い話から始まった。12月24日の毎日新聞朝刊は1面トップで「大阪知事・市長 辞職意向 統一選同日公算大 都構想住民投票問う」という派手な見出しをつけ、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長が来年12月の任期満了を待たず、来年春の統一地方選前に辞任するという記事を載せていた。記事のとおりなら統一地方選は府知事選と市長選のトリプル選挙になる。全国でもあまり例のない事態だろう。

  松井、吉村の両トップが任期前に辞職し、統一地方選と同日に出直し選挙することは以前から噂されていた。松井知事や周辺がせっせと噂をばらまき、担当記者などにも出直し選を臭わせていたからだ。当然、大阪の自民党や公明党、共産党、また市民団体や各種労組もその情報はつかんでいた。ただ、その段階では真偽不明の未確認情報だったが、今回の毎日新聞の記事で本決まりになったと私はにらんでいる。トリプル選挙は、まず実施されるだろう。

  私は前回12月21日のコラムで、いわゆる大阪都構想の住民投票を来年夏の参議院選と同日におこなうため、あの手この手で松井知事が公明党を揺さぶっていることを記事にした。また公明党にも住民投票のスケジュールをめぐって知事に弱みを握られているものの、表面的には同日選には応じない強気の姿勢であることも伝えた。今回、公明党はその姿勢を崩さなかったようだ。だから毎日新聞が伝えたように、破れかぶれになった松井知事が統一地方選との出直し選を言い出した。
 
  もっとも、毎日新聞の記事は出直し選のみに重点が置かれているのではない。最大のポイントは「このため、ダブル選は松井知事、吉村市長の出直し選とは限らず、吉村市長の知事選出馬案など、別の候補になる可能性もあるという」の部分。つまり出直し選ではなく、変則的な選挙になる可能性が高いのだ。

  予想されるのは、吉村市長は府知事選へコンバート。一方、松井知事は来年夏の参院選大阪選挙区に維新2人目の候補になるというものだ。このときは維新も市長選に新たな候補者を出す必要に迫られる。そうでもしないと、かえって維新に逆風が吹く。なぜなら、統一地方選とのトリプル選挙で松井知事が知事選に出馬し、吉村市長が市長選に出馬してダブルで再選しても、公職選挙法の規定で約7ヶ月後の来年11月には再び府知事選と市長選のダブル選挙がおこなわれることになる。これほど税金の無駄使いもなく、有権者から維新が批判を浴びるのは間違いない。それを避けるために両トップは変則的な選挙に打って出るのだ。これなら任期は一からスタートだからだ。

  もし松井知事が参院選の候補になれば、大阪における過去の国政選挙での維新の総得票数を見る限り、維新は2名の候補者を当選させることは十分に可能だと思われる。しかも、松井知事は2025年大阪万博の誘致を成功させた功労者だと世間は見ている。そうなると定員4名の大阪選挙区の中で割を食うのは2名の候補者を出すことを決めた自民党、そして候補者1名を応援する公明党だろう。もし維新が2名を当選させた場合、残りは2議席。自民党と公明党の計3名の候補者が残り2議席を争うことになるが、共産党や立憲民主党などの野党が1名でも当選者を出すようなら、公明党はさらに苦しい戦いを強いられる。

  公明党にとって次の参院選に勝つことは支持母体である創価学会からの至上命令。絶対に負けるわけにはいかない。そこを熟知した松井知事は「それが嫌なら参院選と同日の住民投票に賛成しろ」と公明党に迫る作戦なのだ。

  さて、一般的に知事や市長、町長らの「出直し選挙」というのは単なる首長選挙にとどまらず、信任投票の意味が強い。各自治体でおこなわれた過去の出直し首長選をみても、「私はこのような政策を実行したいのだが議会の反対に遭ってできない。そこで出直し選挙で有権者の皆さんの信任を得たい」というものが大半だ。だから先にも書いたように公職選挙法でも例外を設け、出直し選に出馬した前首長が当選した場合、その任期は選挙前のものと変わらないと定めている。一般の首長選と違って出直し選は信任投票の性格が強いから、わざわざ任期をリセットする必要はないだろうという判断からである。

  もし松井、吉村の両首長がそろって来年春の出直し選に臨んだとして、その根拠とはいったい何か。明らかに住民投票の実施時期をめぐる問題だろう。両首長が考える日程に維新以外の政党が反発し、だったら出直し選挙で民意を問い、両首長が訴える日程の信任を得るというものである。なるほど、これならまだ大義名分はある。

  だが、松井知事と吉村市長が任期前に辞任したとして、その結末が吉村市長は府知事選にくら替え、松井知事は参院選に出馬だとしたらどうなるのか。統一地方選で維新に追い風を送ることが本音だとしても、客観的に見れば両者は有権者から信任を得るために辞めるのではなく、首長の職を途中で放り投げたことになる。これでは大義名分もヘッタクレもない。自分たちの都合で選挙をおもちゃにしているだけの愚行だろう。

  なお、この事態について公明党大阪本部の関係者は「勝手にどうぞ」と冷めた目で突き放し、自民党大阪府議団の花谷充愉幹事長は「松井知事らの出直し選挙は想定済み。むしろ統一選との同時選挙は維新を終わらせる絶好のチャンスだ」と挑発に応じる構えだ。

  松井知事の党利党略にも呆れるが、そんな愚行につきあわされる大阪府民、大阪市民こそ大迷惑な話である。 

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2018年12月21日 (金)

Webコラム 吉富有治

出直し知事選を言い出した松井知事 繰り返される大阪のドタバタに有権者もうんざり!?

  大阪府の松井一郎知事が来年夏の参院選と同日に、いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票を実施したいと言い出した。それが無理なら、そのときは自ら知事を辞職し、来年春の統一地方選と出直し知事選のダブル選挙に出ることも選択肢の1つだと宣言した。

  松井知事のこの発言は12月11日付けの産経新聞のインタビューに答えたもので、産経は「万博誘致成功“追い風”狙う維新、強気発言で波紋」という派手な見出しをつけていた。

  もっとも、「強気」というのは勝算があってこそ。勝つ見込みがあるから強気な発言になるのであって、そうでなければ虚勢でしかない。私の見るところ、松井発言は強気と言うよりも、むしろ虚勢に近いと思っている。

  2025年万博の誘致に成功し、勢いに乗った松井知事。この機に乗じて念願の大阪都構想を一気に進めようという魂胆なのだが、あいにく万博誘致の成功は追い風になっていない。最初こそ世間も歓迎ムードだったが、その後はメディアも検証報道ばかり。「約2兆円と言われる経済効果や約2800万人の総入場者は大風呂敷を広げすぎではないのか」「1250億円の会場整備費は2倍、3倍に膨れ上がらないのか」などと万博に疑問符をつけることが増えてきた。これには松井知事も誤算だったようだ。

  そこに加えて、大阪維新の会が掲げる看板政策「大阪都構想」が頓挫しかかっていることもある。

  維新の会の議席は大阪府議会、大阪市議会ともに過半数には満たない。そこで公明党の協力を仰ごうとアメやムチを与えているわけだが、ここに来て同党の態度がどうも煮え切らない。そこで、公明党を揺さぶるため冒頭の「強気発言」に出たのだ。

  公明党にすれば参院選の勝利は支持母体からの絶対命令。そこに住民投票をやれば党員や支持者の活動が分散され、勝てる勝負も勝てなくなる。公明党の弱点を理解している松井知事は、「だったら住民投票に賛成しろ」と同党に迫った。だが、今のところ公明党は表面的には無視を決め込んでいる。

  過去を振り返れば、2015年5月17日の住民投票では反対票が賛成票を僅差で上回り、都構想は頓挫した。ところが、2015年11月22日におこなわれた大阪府知事選、大阪市長選のダブル選挙で維新の松井知事と吉村洋文市長が自民党が推す候補を破って当選。両名は「民意は再度の住民投票を望んでいる」として、都構想の制度設計をおこなう大都市制度協議会、いわゆる法定協議会を再開させた。

  さて、2度目の法定協議会を開いたものの、大阪市を廃止して特別区を作る案は前回に否決されたものと大差なし。維新は「バージョンアップした都構想」と宣伝するものの、どこからどう見ても中身はバージヨンダウン。熱心な維新の支持者ですら「お粗末すぎて話にならん」と言い出すものまで現れる始末である。

  焦った松井知事や維新は、都構想に"厚化粧"することを思いついた。第三者から「都構想の経済波及効果はウン兆円」とお墨つきをもらえれば、反対派を封じ込め住民投票にも弾みがつくと考えたのだ。そこで大阪市の税金を使ってシンクタンクに試算を作らせることを提案し、さっそく入札公募が実行された。

  ところが、1度目の入札は応募ゼロ。大手のシンクタンクからは無視された。2度目の公募でようやく決まったものの、相手はシンクタンクではなく、なぜか学校法人嘉悦学園。しかも同校から出された都構想の経済効果は「約2兆円」と、松井知事や維新が大喜びする内容だった。

  だが、大阪府議会と大阪市議会では現在、嘉悦学園が出してきた試算の信ぴょう性に疑いの目が向けられている。維新以外の会派からは「試算の前提になった数値に疑義がある」などとして、一部の会派からは嘉悦学園の学者を参考人として議会に呼んではどうかといった話まで出ている。

  このような背景の中で、公明党は都構想に対して冷たい態度を取り続けている。法定協議会では都構想に対して批判的な意見が相次ぎ、嘉悦学園が出してきた試算にも懐疑的だ。この状態が続けば、法定協議会で都構想の制度設計は不可能。住民投票をする前に法定協議会の段階で頓挫する可能性がある。

 ただし、松井知事にまったく勝算がないわけでもなさそうだ。府議会や市議会の各会派の幹部を取材してみると、住民投票の実施時期をめぐって松井知事は公明党の某議員と何らかの密約を交わしていて、それが同党の「弱み」になっているとの話も聞こえてくる。これには公明党も少々頭を抱えているという。

  とは言え、仮に公明党に負い目があったとしても裏取引に応じるべきではない。住民投票をやるかやらないかは政治の裏取り引きで決めることではないからだ。あくまでも法定協議会の場で決めることであって、その大前提として都構想の制度設計がまともか、まともでないかが大切だろう。

  目的達成ためには手段を選ばない松井知事。それを仕方がないと見るのか、やりすぎだと眉をしかめるのか。またまた繰り返される大阪のドタバタ劇。試されているのは議会の良心だけではない。私たち有権者の見識もまた、問われているのである。

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2018年11月28日 (水)

Webコラム 吉富有治

万博失敗なら府市のダブル破産 だからこそ都構想の議論は保留に

  1970年の大阪万博に続き、大阪では2度目の万博が2025年5月3日から11月3日までの185日間、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲で開かれることになった。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。会場では最先端技術を駆使したAI(人工知能)や仮想現実などが体験できるという。

  ところが高尚なテーマがあるにもかかわらず、聞こえてくるのはカネの話ばかり。経産省や財界からは「経済波及効果は2兆円以上」「目標とする総入場者2800万人は確実だ」といった声が聞こえ、直接的な恩恵を受けるゼネコンやホテル業界はニヤけた顔でソロバンを弾いている。

  だが、これでは趣旨があべこべだ。「国際博覧会条約」の第一条定義には「1.博覧会とは、名称のいかんを問わず、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは二以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。」と明記されている。

  あくまでも万博の目的は「公衆の教育」や「将来の展望を示す」ことであって経済波及効果は結果論にすぎない。それが口を開けば「2兆円は儲かる」「いや、それ以上だ」とカネの話ばかりでうんざりする。

  つけ加えておくが、万博で儲かるのは過去の話である。立候補していたフランスが辞退したのは採算が取れないと判断したからだ。万博がそれほど儲かるのなら、なぜロシア、アゼルバイジャン、日本の3カ国だけしか手をあげなかったかを考えればいい。

  一方、誘致を成功させた大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長は鼻息が荒い。ロシアとアゼルバイジャンに競り勝ったのは「府市が一体化した成果。やはり大阪都構想は必要」だと訴え、早くも万博を政治利用している。2015年5月17日の住民投票で一度は否決された都構想が、万博誘致の成功で大阪維新の会には追い風となり、ここで2度目の住民投票をすれば確実に勝てると見込んで強気になっているのだろう。

  しかし、私の意見は違う。現在、「大都市制度(特別区設置)協議会」(以下、協議会」)で議論されている都構想はいったん棚上げになるとにらんでいる。万博と都構想を同時に並走させるのは予算や人員配置の面からも難しいからだ。本気で万博を成功させるつもりなら、むしろ都構想の議論を中断しないといけないだろう。

  今は万博の誘致に成功したと喜んでいる大阪府と大阪市だが、これからは様々な問題点が浮き彫りになってくる。万博関連の予算などをチェックする大阪府議会と大阪市議会には難題が押し寄せ、そのうち両議会は衝突すると予測している。

  万博を成功させるためには様々なハードルがあるが、中でも最大の問題は財政的な裏づけをどうするかだ。

  まず、会場整備費の1250億円。果たしてこれだけで済むのだろうか。2020年東京オリンピックのように、いつのまにか2倍3倍と膨らむ可能性はないのか。

  1250億円は国と自治体、企業の三者で分担することが決まっている。それぞれ約416億円ずつだが、特に財政が厳しい大阪府には負担が重い。416億円がさらに膨らむと、「少しは財政に余裕がある大阪市が肩代わりしてくれ」と大阪府が言い出すとも限らない。そうなると市議会の反発は必死である。

  次に交通インフラだ。舞洲会場には既に地下トンネルが開通しており、ここに地下鉄を延伸させる必要がある。その総額は約640億円。この負担も大阪市だけで、大阪府は負担ゼロ。府市はIR・カジノ業者に肩代わりさせるつもりだが、確実に決まっているわけではない。また約640億円という数字も試算にすぎず、さらに増えることも考えられる。その場合、大阪市だけの負担でいいのかと、こちらも府と市の火種になる可能性が高い。

  2800万人の総入場者を目標とするなら、1日あたりの入場者数は約15万人。これだけの人数を地下鉄だけで運ぶのは不可能で、当然、夢洲へ渡る橋や道路の拡張整備も必要だ。その額は40億円以上と言われるが、大阪府と大阪市のどちらが負担するかも決まっていない。他にもJR線の延伸も計画され、府市が一部を負担することも検討されている。

  一事が万事、この調子。他にも課題はまだまだ山積しており、「万博が大阪にやって来た」と浮かれている場合ではない。そこに都構想を加えると、さらに最低でも700億円ほどの予算が必要となる。万博のコストに加えて都構想のコストまでが大阪府と大阪市に重くのしかかるのだ。両方が失敗なら府と市のダブル破産である。

  しかも、都構想の青写真を作る協議会では維新と自民、公明、共産各党との対立が激しく議論は停滞したまま。いつ設計図が完成するのか、まったく先が見通せない。そのうえ、協議会には大阪府と大阪市から優秀な役人が派遣され、人件費も加えるとこれまで莫大な税金が使われている。

  政府は近々、「25年日本国際博覧会協会」を立ち上げるという。そこには当事者である大阪府と大阪市から役人も派遣される。と同時に、大阪府と大阪市でも万博に向けた専門部局を立ち上げ、府市の両議会も普段の公務以外に万博のための議論が加わることになる。議員も寝るヒマがなくなるだろう。

  繰り返しになるが、2025年大阪万博を成功させたいのなら都構想の議論はいったん棚上げにし、そのマンパワーと税金を万博のために一点集中すべきだろう。二兎を追う者は一兎をも得ず。「万博も、都構想も」と欲張っていると、いずれ共倒れになるだけだ。

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2018年11月21日 (水)

Webコラム 吉富有治

果たして「逃げた」のはどちらか "私的サロン"で議論する茶番

  大阪府の松井一郎知事をはじめ大阪維新の会の一部議員らが、ある会議に大阪府議会と大阪市議会の自民党、公明党、共産党の各議員らが参加しなかったことに対して、「逃げた」「議員として自己否定だ」などとメディアやSNSを使って批判している。そこに吉本興業所属の某芸人も便乗し、「これ行かないのはホンマに腹立つ」などとツイッターに書き込み、それに賛同する人も増えている。だが、「逃げた」のは維新以外の政党ではなく、実は大阪府と大阪市の両行政であり、その2人のトップである。

  「ある会議」とは、大阪府と大阪市が設置した副首都推進本部会議だ。この会議の主催者は知事と市長で、有識者を招いて大阪が抱える諸問題を討議し、ときに提言を受けて政策に活かす諮問機関である。諮問機関だから、この場で決まったことが法的根拠を持つことはなく、もちろん議会が追認することもない。言ってみれば、府知事と市長の"私的サロン"でしかない。

  さて、この私的サロンである副首都推進本部会議で11月16日、いわゆる大阪都構想が及ぼすであろう経済効果の議論がおこなわれた。議論のたたき台になったのは、大阪市が約1000万円の税金を支払って学校法人「嘉悦学園」に試算を委託した調査報告書だ。

  この報告書は都構想の"経済効果"を数値化したもので、そもそもは維新側の強い求めに応じて大阪市が今年1月に事業者を公募したことがきっかけだった。ところが、1度目はどこの事業者も尻込みし、結果は応募ゼロ。4月におこなわれた2度目の公募で、ようやく嘉悦学園に決まった。

  ただし厳密に言うと、嘉悦学園が出してきた報告書は都構想の経済効果を示したものではない。示されたのは、大阪市を解体して4つの特別区になれば、年間で計約1000億円規模の財政が削減でき、それが10年間で最大約1兆1000億円の削減効果が期待できるとしたものである。したがって、経済効果と言うよりは「歳出削減効果額」と呼ぶのが正確である。

  そもそも経済効果とは、新しい産業が起こり、また企業誘致で消費や雇用が増えた結果、地元に落ちてくるお金の総額を示したものだ。大阪市が廃止されて特別区ができたからといって、どんな産業が生まれるのか、全国から多くの企業が大阪にやってくるなど占い師でもない限りわからない。そのため1度目の公募で実績のある大手事業者ですらさじを投げて入札には応じなかったのは当然で、ようやく嘉悦学園が「歳出削減効果」というアクロバット的手法で入札を果たしたのだ。

  だが、この報告書には府議会や市議会から批判が相次いだ。大阪市議会では大都市・税財政特別委員会などで自民党などの議員が「試算の根拠が恣意的であいまいだ」などと担当者に何度も問題点を質している。

  その内容を一部紹介すると、4つの特別区が年間で計約1000億円も歳出をカットすれば、その代償として住民サービスが確実に落ちるだろうと指摘。その約1000億円にしても、病院や下水道事業など、大阪市が廃止されたあと大阪府に移管する事務が含まれていることまで判明。このきわめてズサンな試算に対して大阪府と大阪市は「専門家の分析だから問題ない」と木で鼻をくくった役人答弁をオウムのように繰り返すのみ。松井知事や吉村市長にいたっては、「そこまで言うのなら報告書を作った学者に聞けばいい」と開き直る始末。結果、冒頭の副首都推進本部会議でのヒアリングになった。

  しかし、これは順番が逆だろう。学者から説明を受けるのは自民党や公明党などの議会ではなく、本来は行政の仕事である。

  大阪市は約1000万円の税金を使って事業者に報告書を作成させたのだ。ならば、納入された報告書の信ぴょう性をまっさきに検証する義務が行政にはある。ところが大阪市は報告書に書かれた「約1兆1000億円」という景気のいい数字に満足したのか、中身を十分に検証していない疑いがある。検証していれば、自民党や公明党の指摘くらいは正面から答えられるはずだからだ。その基本的な義務すら怠り、「学者に聞けばいい」という態度は、自分たちの不作為を棚に上げる行為でしかない。

  議員は行政が暴走しないか、税金をムダ使いしていないかをチェックするのが本来の仕事であり、その主戦場はあくまでも議会や各委員会なのだ。行政は当然、議会や委員会で決まったことには従わなければならない。私的サロンである副首都推進本部会議に議員が参加する義務などなく、議員の主戦場ですらない。そこで話し合われた内容に法的な拘束力などなく、議会や行政が追認する場でもない。だいたい「逃げた」と叫ぶほうがおかど違いなのだ。

  大阪府と大阪市の役人は、そして松井知事と吉村市長の両トップは嘉悦学園の学者からの説明を聞いて納得し、報告書には信ぴょう性があると確信したのだそうだ。では各政党は役人と両トップを議会に呼び、数々の疑問点を再度質せばいい。今度は真正面から答えてくれるだろう。答えなければ「副首都推進本部会議で居眠りしていたのか」と笑い飛ばすことだ。

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2018年10月26日 (金)

Webコラム 吉富有治

松井知事の公用車喫煙問題  身を切らない改革に唖然

  知事が公用車でタバコを吸うことは許されるのか。大阪府議会ではいま、この問題が本会議や委員会などで議論されている。

  ことの発端は10月2日の大阪府議会本会議でのこと。休憩中に松井一郎知事が府庁舎前から公用車に乗り込むところを自民党の府議が目撃。不審に思って府の関係者に確認したところ、松井知事は休憩と称して公用車に乗り、府庁舎の周辺を十数分間ぐるぐると周回。車内でタバコを吸っていたというものである。
 
  現象だけを取り上げれば小さな問題にすぎない。私もこの質疑を聞いたとき、はっきり言ってどうでもいいことだろうと思っていた。松井知事には、「少しガマンしたらどうなのか。吸いたければ喫煙所に行けばいいのに、こそこそと公用車で喫煙するのは、中高生が校内のトイレでタバコを吸うのにも似て格好が悪いだろう」と笑っていた。

  だが、よくよく考えてみると、そう単純な話でもない。松井知事の行動は、公用車を私物化していた問題よりも、普段から言っていることと実際にやっていることとの落差、チグハグさが見え隠れするのだ。
 
  橋下徹前知事から続く大阪維新の会による大阪府政、大阪市政においては、かつて喫煙で処分され、10分ほど喫茶店に寄っただけで処分を受けた府市の職員がいる。部下には厳しいモラルを求めるのに、なぜか自身には甘い。これがチグハグさと言行不一致の正体である。

  この問題を最初に取り上げたのは11日の総務常任委員会でのこと。公用車での喫煙の事実を質した自民党の密城浩明府議に対して、松井知事と府の幹部は、「公用車には禁煙のルールはない」「目的は息抜きであり喫煙ではない」などと答弁した。だが、この主張は論点のすり替えでしかない。

  そもそも「ルール違反じゃないから問題にはならない」と弁明できるのは、ルールに縛られる側だろう。法律や社会規範などに縛られている私たちであり、大阪府なら憲法や地方公務員法、また職員基本条例などに従わなければならない府の職員たちが言えるセリフなのだ。

  ところが松井知事がこれを言っても説得力はゼロだ。なぜなら、知事は大阪府においてはルールを作る側の人間であり、場合によっては自身をルールの対象外にすることが可能だからだ。公用車を禁煙にするルールだって国が作るわけではない。府職員のトップに立つ知事自ら作ることができるのである。

  そんなこともせず、松井知事は自身をルールの外に置いた。喫煙ルールなどに関しては知事と府職員の関係は非対称であり、「ルール違反じゃないから問題にはならない」は組織のトップに立つ人間が述べる言葉ではないだろう。これでは府民や府職員の反発を買うだけで、トップの姿勢としても失格。他人に厳しく自分に甘いなどと文句を言われても仕方がない。
 
  またプライベートカーと違って、公用車とは文字通り役所などの公的機関が公的な仕事のために使用するクルマである。その意味で公用車は、同じく公的機関が公的な仕事のために使用する庁舎の延長だと解するべきだ。両者の違いは動くか動かないかだけで、本質的な差はない。
 
  大阪府は庁舎内を全面禁煙にするルールを定めた。だとしたら、同時に公用車も役所の延長だとして禁煙にするのが筋のはず。ところが、大阪府の公用車には禁煙ルールがない。府庁舎に禁煙ルールを定めた側(この場合は府知事)が、なぜか自らを律するルールを作らなかったからだ。自らが"ルールブック"であるのをいいことに、部下には厳しく臨んで自分には甘いルールで対応する。これで府職員や府民は納得するのだろうか。

  大阪維新の会は「身を切る改革」をスローガンに掲げている。そのために知事や市長、また維新議員の報酬を減らし、府市の職員にも給与カットなどを求めている。けれど、「身を切る改革」とは報酬を減らすことだけでないだろう。

  自分自身に厳しいルールを課すからこそ他人にも厳しさを求めることができる。これが「身を切る改革」の本質ならば、公用車に乗って本庁舎をぐるぐる回りながらタバコを吸うことが府のルールに違反しなくても、自ら定めた自主規制、自己犠牲の精神には反しているのではないか。この問題、単に本会議の休憩中だから公用車での喫煙もOKという話ではない。
 
  松井知事は22日、府議会の総務常任委員会で公用車を「喫煙室代わり」として使ったことを否定しつつ、「誤解を与える行為はやめる」と弁明。さらに今後も「禁煙しない」と言い切った。

  その大阪府トップが誘致を進める2025年大阪万博のテーマの1つは「健康」である。世界中から人を集めようというのに、これほど人を喰ったブラックジョークもない。

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2018年10月 5日 (金)

Webコラム 吉富有治

大型台風が連発する今年の日本 一貫性のない松井知事の対応に議会も苦言

  今年の日本は、まるで台風に好かれているかのようだ。1961年に襲来した「第二室戸台風」に匹敵する台風21号は9月4日、非常強い勢力を保ったまま日本に上陸し、13人の尊い命を奪い去った。台風21号の勢力に劣らぬ24号は9月30日に和歌山県田辺市付近に上陸し、そのまま列島を横断。関東地方では交通機関がマヒし、静岡では大規模な停電が発生。4人の犠牲者を出し、各地で床上浸水や停電などの被害も発生した。

  台風24号が上陸する前日の29日、大阪府の松井一郎知事はこれ見よがしに防災服を着込んで緊急の記者会見を開き、「24号も21号と同程度の強い勢力を保ったまま接近、上陸する恐れがある」と強調、「まずは自分の命や身体を守ることを第一に行動してもらいたい」と府民に警戒を呼びかけた。

  災害への備えと対策をいち早く住民に伝える姿勢は自治体トップとして至極当然であると思う。だが、台風24号より勢力が強い21号のときはどうだったのか。前回の緊急コラム「知事失格! 台風被害がまだ残る大阪を離れ沖縄県知事選に首を突っ込む松井知事」で書いたように、その行動は首をかしげたくなるものではなかったのか。このとき知事は台風の前日も当日も府民に向けて注意を呼びかけるメッセージは発しなかった。むろん防災服など着てはいない。それどころか、台風が大阪を襲った当日の午後6時半にはさっさと退庁していた。

  台風翌日の9月5日の時点で関西電力の管内では約218万3000軒が停電し、関西の空の玄関口である関西国際空港では高潮によって空港機能は完全にマヒ。空港内では6日未明まで職員と利用客の約8000人が取り残されていた。にもかかわらず松井知事は9月7日、日本維新の会代表として政務で県知事選のために沖縄入りし、9日には万博誘致運動のために、こちらは府知事の公務として欧州へと旅立った。松井知事は「24号も21号と同程度の強い勢力」という認識があるのなら、どうして21号と24号とで対応に差が出てくるのだろうか。

  筋も通っていなければ一貫性もない松井知事の対応について、自民党大阪府議団の杉本太平府議は10月2日の大阪府議会本会議で府の対応を批判した。

  杉本府議は、超大型の台風21号が大阪を襲うことは予報されていて事実そのとおりになったのに、なぜ大阪府は災害対策本部を立ち上げなかったのかと何度も質問。対して松井知事をはじめ府の危機管理室の幹部は、「地震と違って台風には災害対策本部を立ち上げる明確な基準はない」「適切に対応した」と繰り返すのみだった。

  明確な基準がないから災害対策本部を立ち上げなかったというのなら危機管理など不要である。危機管理の基本とは、最悪の事態を想定して最善の策を講じることだろう。たとえ「明確な基準」はなくても、万が一に備えて危機管理本部を立ち上げ府民の命と財産を守り、そのために備えることが行政の役割ではないのか。

  杉本府議は質疑の最後に、「知事は台風24号のときは前日に防災服を着て府民向けのアピールをした。まさか誰かから『ウソでもいいから防災対策に乗り出している姿を府民に見せてください』と釘を差されたわけではないと思うが、21号の対応がまずかったと知事みずから認めたということではないのか」「多くの死傷者が出ているにもかかわらず、9月7日には沖縄県知事選に応援に行った。府知事として優先すべき公務はなかったのか。府民、被災者の気持ちに寄り添うことが本来の府知事として本来のあり方ではないのか」と府と知事の対応を厳しく批判したが、松井知事には蛙のツラに小便だったようである。

  台風21号で大阪を留守にした松井知事について「ありえない」と驚く府議や府職員は多く、ネットでも批判が集中した。それで慌てたのか、「災害対応は基礎自治体の仕事。知事の役割は国との折衝などで、事実、松井知事は早々に政府関係者と面談して関空の早期回復が実現した」などと擁護する維新の議員がいたほどである。

  なるほど、この主張が正しいとしよう。だったら、なぜ松井知事は台風24号で同じ態度を取れなかったのだろうか。防災服を着て府民にメッセージなどを出さず早々に政府関係者と会い、ついでに沖縄へ飛べばいい。自ら推薦状を渡した佐喜真淳候補が破れたことについて日本維新の会の馬場伸幸幹事長に謝罪させず、自分の努力が足らなかったと支持者に頭を下げていれば、まだ一貫性はあっただろう。

  この週末には大型で非常強い台風25号が列島を襲おうとしている。台風の影響や被害も心配だが、まるで一貫性のない府知事がトップにいることのほうが、もっと不安である。

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2018年9月 8日 (土)

緊急Webコラム 吉富有治

知事失格!
台風被害がまだ残る大阪を離れ沖縄県知事選に首を突っ込む松井知事 

  猛烈な勢力を持った台風21号は4日昼ごろ、徳島県南部に上陸し、その後は全国各地に大きな傷跡を残して過ぎ去った。

  特に大阪の被害は深刻だった。府内南部では強烈な暴風雨で電柱が根こそぎ倒れ、飛んできた瓦や屋根が電線を切断し、台風翌日の5日午前9時の段階で、関西電力の管内では約218万3000軒で停電が発生した。関西国際空港では高潮の影響で滑走路や空港建物の一部に海水が入り込み、空港機能は完全に停止。タンカーが連絡橋にぶつかったことで、空港内では6日未明まで職員と利用客の約8000人が取り残されていた。

  かつてない規模の台風被害に遭った大阪府では、今も府庁や府内の各自治体の職員が、また大阪府議や府内43市町村の市議、町議らが政党を問わず住民のために必死に走り回っている。

  ところが、行政職員や議員が台風被害の状況把握とトラブル解決に奔走する一方で、なにをやっているのかまったく不明な行政トップがいたから驚いた。大阪府の松井一郎府知事である。

  府議会関係者の話によると、大阪に台風が襲った4日午後から松井知事の動きがまったく見えず、知事が指揮を執る災害対策本部も立ち上がらなかったという。また、いつもは饒舌なツイッターも、なぜか台風の間は沈黙。台風が過ぎ去った後の最初のツイートは、共産党批判と平松邦夫前大阪市長への罵倒という有り様だ。一部の自治体では、停電や断水に関する情報を市長がツイッターでこまめに伝えているのに、大阪府のトップが緊急時に何一つ情報を伝えないのは異常だろう。

  だが、驚くのはこれだけではない。7日午後15時47分に流れた産経新聞ネット版には、松井知事が大阪府内ではなく、なんと沖縄県那覇市にいることを報じていた。記事では、自民党の総裁選に触れた松井知事が「『もう消化試合の状況になっている』と評した。那覇市で記者団に語った」と書かれていたのだ。

  7日午後9時現在、府内では停電が続く世帯がまだ5万6000軒以上もあり、関空の機能も完全には戻っておらず、じわじわと関西経済や私たちの生活にも影響が出始めている。大阪府では8日昼までは大雨による土砂災害への警報も出ているのだ。それなのに大阪府の最高責任者が大阪を留守にし、沖縄に飛んでいるとすれば、これは知事として職務放棄にも等しい行為ではないのか。 

  なぜ那覇なのか。わが目を疑った私は、念のため取材先の国会議員や府議、また府政記者に確認を取ったが、誰も「知らない」「沖縄? まさか」と口をそろえ、中には絶句した議員までいた。私も当初、産経の記事は誤報ではないのかとさえ思ったほどである。だが、事実だった。松井知事は7日の午後、那覇市にいたのである。

  9月30日投開票の沖縄県知事選挙に立候補する予定の佐喜真淳氏(54)陣営の関係者に確認したところ、松井知事は佐喜真氏の事務所「沖縄県の未来をひらく県民の会」を訪れ、午後2時から日本維新の会の推薦状を手渡していたのだ。

  松井知事は大阪府知事と日本維新の会代表の2つの顔を持つ。理屈の上では、府知事の公務が終われば維新の代表としての政務に励むのは自由である。この日も維新の代表として那覇市に行ったのだろう。

  しかし、だ。府内には台風被害の爪あとがまだまだ残っているこの時期に、いくらなんでも大阪府知事より維新代表の仕事を優先していいわけがない。維新の府議、市議だって住民のために奔走している。推薦状を手渡すなら馬場伸幸幹事長が代行できたはずだ。政治家として目を向けなければならないのは沖縄知事選ではなく、今は府民の安全と生活を守ることだろう。松井知事はいったい、どこを見て仕事をしているのだろうか。

  また松井知事は6日、関空の機能がマヒしたことで、大阪国際空港(伊丹空港)と神戸空港を関空の受け入れ先にしたいと政府に要望した。だが、過去の言動を振り返ればこれは奇妙でしかない。

  そもそも橋下徹前府知事は2008年、伊丹空港の廃止を訴え、2010年4月に大阪維新の会が立ち上がってからも同会は伊丹空港廃止をぶち上げていた。その後、民主党政権の下で伊丹と関空は経営統合されたが、その原因は維新が伊丹廃止を訴えたからだけではない。むしろ政府や官僚らの思惑が大きく働いたからで、維新の本音はあくまでも伊丹の廃止だったはずだ。それが困ったときだけ伊丹空港に頼るというのは、ご都合主義もはなはだしい。

  9日からは大阪を離れ、万博誘致活動のため欧州を訪れる松井知事。大阪府民の安全よりも選挙とイベントにしか関心のない人物が、果たして大阪府のトップにふさわしいのかどうか。府民もいい加減、このデタラメぶりに気がつかないと、いずれ大阪は関空のように機能不全に陥ってしまうだろう。
 
 

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2018年8月31日 (金)

Webコラム 吉富有治

ますますブラック企業化する大阪市
ご乱心の吉村市長に専門家も苦言

  大阪市の吉村洋文市長が教育問題で筋違いな発言をし、教育関係者や市民などから猛反発を受けて収拾がつかなくなっている。

  事の発端は8月2日の記者会見。文科省などが実施する「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」の結果が7月31日に公表され、その中で大阪市が昨年度に続いて総合成績が政令市で最下位になったことだ。

  頭に血が上った吉村市長、「抜本的な改革が必要だ」「強い危機感を抱いている」と会見では怒った様子。学力テストに具体的な数値目標を設定し、達成できない校長や教員のボーナスなどを減らす人事評価を導入するなどと言い出した。ところが、市長に賛同する声より批判の方がはるかに多かったから、さあ大変。

  林芳正文科相は翌日3日の記者会見で、「調査で把握できるのは学力の一側面であることを踏まえ、適切に検討いただきたい」と吉村市長に釘を差し、教育現場や市民からは発言の撤回を求める署名運動がいまも継続中だ。また、「夜回り先生」で知られる水谷修さんからは「大阪の子の学力の背景に家庭や貧困の問題があるのは明白だ。十分な対策を講じてきたと言うなら、その成果が上がっていないということだ」と批判され、吉村市長に公開討論を求めている。

  ところが、これで市長が反省したと思ったら大間違い。最近では、市長の対応を批判した8月28日付けの朝日新聞社説「大阪市長 学力調査を乱用するな」に吉村市長は同日、ツイッターで噛みついた。まだまだ自説を曲げる気配はなさそうだ。

  ノルマが達成できなかったのは社員が悪いからで、だったらルールをより厳しくして社員を締めつけるしかない。ノルマ達成者にはボーナスや昇給などの褒美を与え、未達成者は減給かクビにする―。

  吉村市長が言っていることは、原因と結果を冷静に検証せぬまま精神論で乗り切ろうとする、どこぞのブラック企業と本質的に変わらない。そもそも教師を教育基本条例などで締めつけ、教員志望の優秀な大学生を大阪市から遠ざけたのはどこの政党なのか。教員のやる気を削いでおきながら教員にノルマを課す吉村市長のやり方は、まったくもって本末転倒と呼ぶ以外にないだろう。

  また、吉村市長は「結果に対して責任を負う制度に変える」「予算権をフルに使って意識改革をしたい」などと発言しているが、これは予算権を盾にした教育行政への政治介入ではないのか。「結果に対して責任を負う制度に変える」というのなら、多額の予算を使っても学力向上を達成できなかった吉村市政の結果責任を、まずは問わねばならないはずだ。

  教育学者の簑輪欣房さん(育英大学教育学部)は自身の論文『全国学力調査結果上位県の教育の考察』(東京福祉大学・大学院紀要 第7巻 第2号 2017年3月)の中で、ここ数年、学力の上位校と下位校は固定化しており、その差はどこにあるかを考察している。以下、結論のポイントのみを紹介すると、

  すなわち、「全国学力・学習状況調査において高い成果を挙げてきた県は、共通した要因」があるとして、それは「①教員の授業力向上に対する教育行政の積極的で計画的な指導や支援、②学校の外部の組織・団体の積極的な働きかけと研究活動の推進、③学校における管理職と教員の協力関係と熱心な取組、④児童生徒の素直さとまじめさ、⑤家庭の安定と家庭の教育力の均質な高さ、⑥厳しい自然を生き抜く勤勉で連帯感のある地域や風土がある」と指摘。生徒の学力は家庭環境や通塾の度合い、また生徒と教師の信頼関係など様々な要因が関係しているものの、多くは「学校教育の成果」だと結論づけている。

  この「学校教育の成果」を生み出すものとは、当然ながら行政トップが予算権を盾にして校長や教員を恣意的に操ることではないだろう。「成果」の背景にあるのは学校現場の熱意と積極性、創意工夫であり、それはボーナスや人事などで教員をコントロールしようとするものとは対極を成すものである。結局、生徒の学力を上げるには地域社会を含む総合的な取り組みが必要なのだ。

  残念ながら大阪市は貧困家庭が多く、生活保護世帯も少なくない。これらが生徒の学力向上を妨げる一因になっているのは否定できない。だとしたら、吉村市長が行政トップとしてやるべきことは、教員のボーナスや人事をチラつかせて教育現場に口をはむことではない。大阪市の貧困問題をどう解決するかが市長に課せられた急務の仕事のはずなのだ。

  ますますブラック都市へと突き進む大阪市。「強い危機感」を持たねばならないのは吉村市長ではなく、ブラック化の中で仕事と生活をしなければならない大阪市の教育関係者や市民の側だろう。

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2018年7月24日 (火)

Webコラム 吉富有治

生活保護制度は市の財政を圧迫する? 
実態を隠す吉村大阪市長に異議あり

  おもに関東地域や首都圏を取材エリアとする東京新聞が、大阪市の吉村洋文市長を批判的に取り上げていると聞いた。さっそく東京新聞の友人に連絡を取り、本紙を取り寄せて読んでみた。なるほど、これは問題だ。

  吉村市長を取り上げのは7月17日付けの東京新聞。同紙で定評のある企画記事「こちら特報部」に載っていた。生活保護法の一部改正案を審議中の衆院厚生労働委員会は今年4月24日、吉村市長を参考人として招致。市長が委員会で説明した生活保護費と市財政の関係が実態を正確に語ったとは言い難く、生活保護制度はひどいという印象だけが独り歩きすると「特報部」は批判した。

  この委員会で吉村市長は、「大阪市は全国の中でも生活保護世帯が圧倒的に多い」と述べ、「受給世帯は11万5000世帯で全国最多。受給率は全国平均が1.67%に対して大阪市は5.2%。歳出額は2823億円と一般会計の15%を占めている」「生活保護費は右肩上がりの状態だったが、橋下市長の時代から不正受給者対策に取り組み、ここ6年間で右肩上がりだった受給世帯の増加は減少傾向にある」と語った。

  大阪市が生活保護世帯のために2823億円(2018年度当初予算)を拠出したのは事実であり、受給世帯率が全国トップなのはその通り。けれど生活保護は本来、国の制度であり、地方交付税分を含めると国が4分の3以上を負担する。大阪市の持ち出しは2823億円の約2%、実際は60億円ほどだ。いくら全国で最多の生活保護世を抱えていても、生活保護費が大阪市の財政を圧迫しているかのような説明は誤解を呼ぶ。いや、むしろ悪意さえ感じる。この点について大阪市の某部局幹部は私の取材に対して、「生活保護世帯減らしを正当化するため、わざと数字を大きく見せたのだろう」と語っていた。

  市幹部の言葉を裏づけるものがある。「橋下市長の時代から不正受給者対策に取り組み、ここ6年間で右肩上がりだった受給世帯の増加は減少傾向」の部分だ。もちろん不正受給者を減らすことは大切だが、減らすことを重視するあまり、大阪市では本当に生活に困っている人が不合理な仕打ちを受けている事実があるのだ。

  大阪市では現在、生活に困窮して区役所に生活保護を申し込んでも追い返される事例は少なくないという。共産党大阪市議団の山中智子幹事長は、「大阪市による生活保護の締め付けは、総論として違法レベルという認識だ」と憤る。「全大阪生活と健康を守る会連合会」(大阪市西区)の大口耕吉郎会長は、「維新市政に変わってから特にひどくなった」と指摘し、具体的な事例として、仮に親族がいても法的には受給を認める必要があるのに、受給決定前に「親族がいるならそこに頼れ」などと、正当な権利がありながら門前払いされるケースが後を絶たないと市の姿勢を批判した。こんな調子で「生活保護世帯は減少傾向にある」と胸を張ったところで、実態は本当に困っている人から生活権を奪っているにすぎないのではないか。

  ウソは言わないが、一部の事実だけを語って真相は決して語らない。これが吉村市長の政治ポリシーなら大阪市民はたまったもんじゃない。吉村市長はまた、7月17日のツイッターでも次のように書き込み、弁護士など専門家から批判を浴びていた。
 
  >ちょっと待て。第二東京弁護士会、やりすぎだ。このアンケートは違法認定されたが、それ以外に野村弁護士が大阪市行政の適正化に果たしてくれた役割は大きい。日弁連、裁判所、現職の大阪市長である俺が公開の場で証言するから呼んでくれ。

  情報番組のコメンテーターでもある野村修也弁護士は橋下徹前市長時代の2012年1月、大阪市の特別顧問に就任し、全職員を対象に組合活動に関するアンケート調査を実施した。ところが、設問の一部に憲法が保障する団結権やプライバシー権を侵害する質問項目が含まれていたとして、大阪府労働委員会のほか中央労働委員会が2014年8月、市の不当労働行為(支配介入)と判断。また、大阪地裁に続いて二審の大阪高裁も2015年12月、22の設問のうち5問が憲法違反だとの判決を出し、大阪市に対して約80万円を原告に賠償するよう命じた。第二東京弁護士会は7月17日、同様の理由で野村弁護士を業務停止1ヶ月の懲戒処分とした。

  吉村市長の先の書き込みは、この処分に対して異議を唱えたものだが、中身は詭弁に満ちている。

  そもそも野村弁護士が第二東京弁護士会から懲戒処分を受けたのは、アンケート調査の一部内容が違憲と認定され、こんなアンケートを市職員に強制すること自体、人権を守る弁護士の使命に反するからである。仮に野村弁護士が大阪市に何らかの貢献をしたとしても、だからといって懲戒処分まで免罪されるわけではない。貢献もあったのだから違法行為を却下しろという言い分など筋が通らない。功は功、罪は罪という峻別すらできないようでは、法とルールに従って行政を運営する自治体トップとしては失格だろう。

  話を大げさに誇張し、市民を煙に巻く。身内には甘く、そうでないものには厳しく臨む。このような市長が「大阪に万博を」「大阪にカジノを」と叫んでいる。万博やカジノの経済効果が「ウン千億円!」と宣伝したところで、いずれも誇張だらけ。何の根拠もない。儲かるのはカジノ業者や土建屋で、ギャンブル依存症や借金問題など、いずれ国民がツケを払うことになるだろう。吉村市政の本質を、大阪市民もそろそろ気がついたほうがいい。

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