日刊スポーツ「フラッシュアップ」

2018年10月11日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

後味悪い相撲協会の取り口
‐変わらずに生き残る道はない‐

  またしても貴乃花である。

  幕内優勝22回を誇る大横綱が相撲界を去っていった。昨年、弟子が暴行された事件が発覚した折、親方とは数年前、旧知のスポーツライターの方たちと一緒に食事をした、とこのコラムに書かせてもらった。その親方がまさかの引退である。

  私はテレビ番組や週刊誌のコメントで何度か映画、「山猫」の中のせりふ、「変わらずに生き残るためには、変わらなければならないのです」を使わせてもらった。1961年制作、63年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したこの作品はイタリアの没落していく貴族階級を描くなかで、この名せりふを生み出している。

  食事の席、当時、貴乃花一門を率いていた親方が熱く語る話の大半は、相撲道と相撲界の大改革だった。だが一門の親方衆はひとりふたりと去って、ついには部屋も消滅。貴乃花自身が、変わらなかったがゆえに生き残ることできなかった、そんな思いが去来する。

  とはいえ、内閣府への告発状をめぐって、「有形無形の圧力に屈して協会に残ることはできない」とする貴乃花と、「圧力は一切ない。協会に残るよう説得した」と真っ向から否定する相撲協会。平行線をたどったままなのに、こと今回の件では第三者委員会を立ち上げる気配もない。白星か黒星、2番後取り直しをしてでも引き分けがないはずの大相撲が、なんとも後味が悪い。これが大横綱を送り出す相撲協会の取り口なのか。

  ならば親方を見送った相撲協会は、改革も先送り、自身が変わらなくていいのか。後を絶たない暴力事件、不透明な親方株の売買、降って沸いたような一門への加入義務づけ。相変わらず外国出身力士頼みで、7月の名古屋場所新弟子検査はついに応募者ゼロを記録してしまった。青少年が誰ひとり見向きもしないスポーツが、この日本で、ほかにあるだろうか。こうして見てくると、相撲協会自体に変わらずに生き残る道はない、としか言いようがない。

  折しも貴乃花騒動と相前後して行われた第4次安倍内閣改造。おお、なんとこちらの方は、表紙を変えただけで4回も「変わらずに生き残って」いるではないか。土俵が違うとはいえ、こんなこともあるんだ。オット、今回は最後の方で、話の筋が違っちゃったかナ。
 
(2018年10月9日掲載)

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2018年10月 4日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

メディアの川上は澄んでいないと
‐伝統ある出版社の「新潮45」廃刊‐

  メディアの中の川上、川下論を唱えたのは、亡き筑紫哲也さんだった。山奥に源を発し、細いけれど清冽な流れ。その川上に位置するメディアが伝統ある出版社の総合雑誌。岩波書店の「世界」だったり、「月刊文藝春秋」、それに季刊や旬刊の論壇誌、学術誌。そこでささやかに展開された主張や論調は、やがて野に下り、源流にくらべてはるかに多くの人々の耳目にふれる。それが新聞であろう。

  そこから流れはゆったりとした川下に。真水に海水が流れ込み、広い河口には俗っぽいものも入り込んでいる。それが筑紫さんも深くかかわったテレビであり、時には週刊誌だろう。だからこそ源に湧き出る水は澄んでいなければならない。清冽な源流に邪悪なものを流し込んではならない。

  総合雑誌のひとつ、月刊の「新潮45」が休刊となった。新聞の休刊日とは、わけが違う。再び刊行されることがない、廃刊である。性的少数者を罵倒、誹謗する女性国会議員の寄稿を擁護する特集を10月号で展開、ついに廃刊に追い込まれた。

  私たちメディアにかかわる者にとって、ペンを奪われる事態はあってはならない。だが今回ばかりは私もコメントで廃刊を主張し続けた。女性議員擁護の寄稿の中から、「約束の日―安倍晋三試論―」などの著書のある文芸評論家の一文をかなりの方に読んでいただいた。

  〈満員電車に乗った時に女の匂いを嗅いだら手が自動的に動いてしまう、そういう痴漢症候群の男の困苦こそ、極めて根深ろう(中略)彼らの触る権利を社会は保障すべきでないのか〉

  ラジオのスタジオでこの一文を聞いてくれた女性アナは、許されるなら席を立ちたい気配だった。小学生の女の子を電車通学させているお母さんは読むなり、顔を青ざめさせていた。男性とてメモを破らんばかりに突っ返してきた人もいた。

  メディアの川上でこんなものを流し込まれてはたまらない。川は腐臭を放つ。ここは廃刊の道しかなかった。だが同時に私は廃刊ですませてはならないとも感じている。コメントを依頼されたりして知り合った新潮社の編集者には素晴らしいセンスの方が多い。そんな編集者が源流に澄みきったしずくを一滴注ぎ込んで、新たな潮流に乗った総合雑誌を発刊する─。いまは、その日を待ち望んでいる。

(2018年10月2日掲載)

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2018年9月27日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

Photo_12  Photo_13  ほのぼのとした納税もいいな
  ‐ふるさと納税 名古屋バージョン‐

  別段PR大使を仰せつかったわけでもないが、テレビのコメントや週刊誌の原稿では喧伝にこれ努めてきたのに、オット、このコラムでは1度もふれていないことに気がついた。いま何かと騒がしいふるさと納税、その名古屋バージョンだ。

  住民税を住んでいる自治体ではなく、生まれ育ったふるさとや大好きな町や村に納めたい。そんな思いに寄り添って10年前にスタートしたふるさと納税。当初は80億円程度だったものが、昨年度は、なんと3600億円、納税者300万人というフィーバーぶりだ。だけどこの人気の源は、ふるさとへの熱い思いは吹っ飛んで、豪華豪勢破格の返礼品にあることは間違いない。

  「納税額の3割以内、地域ゆかりの産品を」という総務省の通達なんて知るものか。冷蔵庫にテレビといった家電製品に航空券、さらにはすき焼きセット。なかにはケーブルテレビの1日キャスターといった「?」だらけのものまである。

  業を煮やした総務省。通達違反の市町村には、この税制を認めないとする法案を来年、国会に提出すると発表した。とはいえ、「これといった産業もないわが町わが村に、どうしろと言うのか」と反発も強く、当分、総務省と市町村のにらみ合いが続きそうだ。

 で、話は最初に戻って、私が喧伝に、これ努める名古屋バージョン。名古屋市は2年前からこのふるさと納税を利用して、動物愛護センターが「目指せ殺処分ゼロ! 犬猫サポート」を始めている。寄せられたお金は預けられた犬猫の餌代やミルク代、それにペットシートの購入に当てられるので、これまで一定期間を過ぎると命を奪われていた犬猫が気長に新しい飼い主を待つことができるのだ。

  ネコちゃんは残念ながらまだだが、ワンちゃんは数年前まで年に数十匹が処分されていたものが、ふるさと納税を利用し始めた2016年から、きょうまでゼロを達成し続けている。この“偉業”を「人生、いつでも、どこでも、ワンちゃんと一緒」の私が、どうして黙って見ていられようか。

  もちろん航空券もすき焼きセットもありがたい。だけど安心しきったワンちゃん、ネコちゃんのつぶらな瞳、やがて静かな寝息。それを囲んだ家族のはじける笑顔。そんなほのぼのとした納税もいいな、と思うのだ。

(2018年9月25日掲載)


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2018年9月20日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

どの面下げて「廃港」伊丹増便
‐関空危機広げた政治行政‐

  先週のこのコラムに猛烈な台風21号の直撃、その直後の北海道大地震、つくづく私たちは災害列島の中にいると思い知らされると書いた。その災害から市民を守り、防災、減災につとめるのが、この国の政治、行政の大きな役割であることは言うまでもない。だけど時として政治や行政の思慮の浅さ、愚かさが災害をより深刻なものにしている。その典型が台風禍の関西だ。

  滑走路が高波で水没、加えて鉄道道路併用橋の空港橋にタンカーが激突、完全にマヒ状態となった関西空港。総理のご意向もあって2日後に飛行機は飛ばしたが、アクセスは橋の片側車線のみ。完全マヒが、ほぼマヒに変わっただけだ。この関空、昨年度は訪日外国人の実に26%が利用していたというから、関西だけでなく国にとっても大打撃だ。

  そんな基幹空港が道路も鉄道もガス、水道もみんな1本の橋に頼る綱渡り。そのもろさがもろに出た。そこで手っとり早い解決策として国と府が出してきたのが、伊丹、神戸両空港の増便だが、はっきり言っていくらあっけらかんとした関西人でも、「どの面下げて」と言いたくなるはずだ。

  なんと言ったって、わずか8年前のこと。国が巨費を投じて開港した関空は飛行機よりも日がな閑古鳥が飛んでいるさびれぶり。私もそうだが、大阪の中心部までわずか30分の伊丹空港に国内線の客が集中するのは自明の理。なんとかしたいと焦る国と、その尻馬に乗った当時の橋下徹知事。あろうことか、府議会で「伊丹をつぶしてまえば、しょうことなしにみんな関空に来るやろ」と、なんと「関空のハブ化実現、伊丹の中長期的廃港を考える」決議案を可決してしまったのだ。

  だけど、車でも電車でも大阪市内から1時間半はかかる関空に国内線の客が足を向けるわけがない。伊丹はその後も新装、改装で大発展。とはいえ、もし決議通り伊丹が中長期的に廃港となっていたら、今回、日本第2の都市、大阪は空の便すべてが遮断されるところだった。羽田にも成田にも飛行機が来ない首都圏を想像してみてほしい。

  政治や行政の思慮の浅さ、その場限りの思いつき。それが災害をどれほど、より深刻なものにしてしまうことか。

  災害は、忘れたころに、忘れもしない政治の愚かさを連れてやってくる─

(2018年9月18日掲載)

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2018年9月13日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

府警現場は疲労…幹部が頭下げれば
-大阪北部地震 富田林逃走 台風‐

  6月の大阪北部地震のとき、このコラムに大災害の被災地にはたいてい取材に行っているが、まさか豊中市のわが家が被災地になるとは思っていなかったと書いた。その大阪が今度は台風21号で、私が知る限り、これまでにない大きな被害。そんな恐怖も覚めやらぬまま、北海道で震度7の大地震が起きた。つくづく私たちは災害列島のなかにいることを思い知らされる。

  台風被害で何より困ったのは長時間の停電。台風が駆け抜けた翌日夜、東京から戻るとわが家の一帯は真っ暗。作動しなくなった信号機の下で5人ほどの警察官が赤色灯をかざして懸命に車を誘導。近くに止めた車には交代要員の警官の姿が見えるが、どの顔も疲弊しきっているように見える。

  決して私の気のせいではない。新聞、テレビの記者に聞くと、大阪府警の一線の警察官の疲労と緊張は、ほぼ限界にきているという。西日本豪雨禍の応援派遣がまだ続いていた8月12日、富田林署の留置場から強制性交罪などで勾留中の樋田淳也容疑者(30)が逃走。行方がわからないまま、この台風被害となった。

  その樋田容疑者が逃げ出して、あすでまる1カ月。この間、府警は全警察官2万4000人のうち連日3000人、これまで延べ10万人の一線警察官を動員している。だけど、私が不可解でならないのは、これまでただの1度も府警幹部から府民に向けた説明と協力要請がないことだ。

  逃走翌日に実家付近に現れた、兵庫県尼崎市の知人の自転車に置き手紙をした─。そんな情報を小出しにしていれば、メディアは飛びついてくると思っているかもしれないが、それもせいぜい1カ月。報道量は日増しに減っていく。
 
  ここは幹部が打ちそろってカメラの前でおわびするとともに、空き倉庫やガレージをお持ちの方は、ぜひ見に行ってほしい、コンビニやスーパーなどは、毎日、防犯カメラの映像をチェックして情報を寄せてもらいたい、といった協力を求めるべきではないか。

  自らの失態は自ら解決するという幹部の意地はわからなくはない。だが、ことここに至って880万大阪府民、2100万近畿圏のみなさんの目と耳をぜひ貸してほしいと頭を下げるのは、決して恥ずかしいことではないと思うのだ。

(2018年9月11日掲載)

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2018年9月 6日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

法律や数字では解説しそうもない
‐中央省庁の障害者雇用水増し問題‐

  この件に関しては、どうしてもこの人の考えが聞きたくて一夜、グラスを重ねた。5歳のとき両目の光を失って全盲に。いまは都心のIT関係の会社に勤め、月に一度は私としたたか飲んで、吉祥寺まで白杖を頼りにスタスタ帰る、本人いわく、百戦錬磨の障害者、服部新兵さん(46)だ。

  いうまでもなく「この件」とは、法で義務づけられた障害者の雇用を実に27の中央省庁が水増し、6900人のうち半数が障害者ではなかったという一件だ。

  服部さんは、雇う方も雇われる方も、まず最初にこの障害者だったらどんな仕事ができるのか、そこにばかり目が行ってしまう、それが大間違いだという。

  「ぼくたちですと、まず鍼灸師の資格を取らせる。でも朝、目が覚めたら鍼灸院にいるなんてことはないんです。自分で身支度をしてつえを頼りに電車に乗って、鍼灸院に行って、はじめて働いたことになるのです」

  車いすの人は1人で満員電車に乗り込み、知的障害の方は乗り継ぎもしっかり覚え、精神障害者はギュウヅメの車内でもパニックを起こさない。そうやって職場を往復してこそ、雇い、雇われたことなる。
 
  「障害者はドローンに乗っかって職場にやってくるわけではないのです」

  この問題、どうやら法律や数字では解決しそうもない。原点に返って考え直す必要がありそうだ。

  折しも服部さんと飲んだ夜、東京は雷鳴とどろく強烈な雨。落雷で吉祥寺まで帰る井の頭線はストップしてしまった。だけど、こんなときJR中央線なら動いていると考える障害者や雇用主は大間違いだという。

  「慣れない路線の、しかも何時間も待たされて殺気だった乗客の渦に巻き込まれる。そういう状況こそ、障害者にとっては何よりも危険。ぼくだってパニックになるかもしれませんし、雇用主は絶対にやらせてはならないことなんです」

  そういうこともわかり合えないまま、政府は各省庁に再発防止を厳命したという。この先、障害者はどんな働き方になるのだろうか。

  深夜、服部さんから「井の頭線の復旧を待って、いま自宅に帰り着きました。ご安心を」というメールが入った。

  服部さんがドローンに乗って吉祥寺に帰り着いたわけではないことは確かだ

(2018年9月4日掲載) 

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2018年8月30日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

五輪ホスト国がこれでいいのか
‐バスケ日本代表買春行為‐

  新聞、テレビ、雑誌からコメントを求められるのも大事な仕事である。ただ、たいていは国内で起きた事件、事故、災害についてだが、それが「いまジャカルタにいるんです。この件で、ぜひとも大谷さんの考えを聞きたくて」と電話がかかって、ちょっとびっくり。

  中日新聞のバンコク特派員で、いまアジア大会の応援にきているという。「水泳やバドミントン、日本のメダルラッシュに水を差すわけではないのですが、あのバスケットの買春4選手の問題、日本国内はともかく現地インドネシアに対して、あの対応でいいのか、気になるのです」

  バスケットボール日本代表の4選手が試合後、ジャカルタの歓楽街、ブロックMに出かけ、現地の女性を相手に買春行為をしたとして、日本選手団の認定を取り消され、翌日、帰国した不祥事。

  「あそこは警察も知っているそういうエリアです。ただ、そうであっても、ジャカルタ特別州条例で買春行為は禁錮刑または罰金となっています。日本代表にあるまじき行為だ、即刻帰国、でいいのでしょうか」

  記者の声を聞きながら事態発覚後の関係者の言葉を思い起こしていた。「公式ウエアで出かけて選手団行動規範に外れた行為」で「日本国民の期待を裏切った」(山下選手団団長)「日の丸を胸にした選手の行動ではない」(三屋裕子日本バスケットボール協会会長)

  そこには、インドネシアもジャカルタも出てこない。たしかにアジアに限らず、中南米など発展途上国では、そうしたことで生きていく女性がいる。だが、国民の86%が戒律厳しいイスラム教徒というインドネシアでは、それを悲しい光景と受け止めている人が大半だ。

  記者は、警察が捜査するかはともかくとして、ジャカルタの法規を犯したことを申し出たあとで帰国させるべきだったのではないかという。

  すっかり長くなった電話。私は、まず大会を心待ちにしていた2億6000万インドネシア国民と、OCA(アジア・オリンピック評議会)に心からおわびするべきだったのではないか、とコメントさせもらった。

  「日本代表」「日の丸を背負って」の報道ばかりが目につくなか、「2年後、東京五輪のホスト国になる日本がこれでいいのかと思いまして」という記者の声が、いまも耳に残っている。

(2018年8月28日掲載)

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2018年8月23日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「気をつけろ」戒め 語り継がれているか?
-留置場から容疑者逃走-

  今週は終戦の日に合わせて取材したテーマにふれるつもりだったが、そうは言っていられない。大阪府警富田林署の留置場に強盗や強制性交罪で逮捕勾留中だった樋田淳也容疑者(30)が逃走してすでに9日たつ。

  私は逃走発覚直後から、富田林署長をはじめ府警幹部から事情説明と謝罪がないのはどういうことだ、と語気を強めていたが、発生から3日後に紙1枚のコメントを出しただけだった広田耕一本部長は、昨日になって、府民に不安を与えていることを公式におわびした。だけど不安は、樋田容疑者の犯行が疑われるひったくりやバイク、自転車盗で、すでに現実のものになっているではないか。面会室のブザーの電池だけでなく、いまの警察組織に何かが抜けている気がしてならない。

  「気をつけろ! こいつは飛ぶぞ!」。若い警察官だけでなく、私たち事件記者の耳にも古参刑事のこんな胴間声が残っている。「飛ぶ」は、もちろん「逃走、脱走」するという意味。調べ室に入れたときにさりげなく格子の間隔を見る。署の裏庭の塀の高さを目で量る。護送時の署員の配置を気にする。被疑者のこれらの動作が古参刑事の勘を刺激して、「気をつけろ」の声になり、私たち事件記者までピリッとさせるのだ。

  もうひとつ、ベテラン刑事の言葉がある。「飛ばす(逃がす)くらいなら、捕まえるな!」。もちろん警察官の仕事は凶悪犯をはじめ窃盗犯、振り込め詐欺グループ、悪いやつを捕まえるのが仕事だ。それが「捕まえるな!」とは尋常ではない。だが、この言葉には捕まえた犯人を逃がすことが、どれほど市民を不安に陥れるか。警察組織にとって、どれほど恥と思わなければならないことなのか、その戒めが込められている。

  部外者の事件記者の髄にまで染み込んだこの言葉、若い警察官だけでなく、果たして刑事たちにも語り継がれているのだろうか。全国28万警察官の、実に7割が平成以降の拝命と聞く。ただ、世代交代の波はひとり警察組織だけに押し寄せているものではない。先輩たちが、こけつまろびつ身につけてきたことがらは、いま後輩たちの中に脈々と生きているのだろうか。

  紙1枚のコメントではない、「気をつけろ!」の野太い声を、もう1度さまざまな組織に鳴り響かせたい。

(2018年8月21日掲載)

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2018年8月 9日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

許しがたい 権力かざし選手抑え込む組織
‐ボクシング連盟 告発状に思う‐

  ボクシングの取材というと、はるか四半世紀も前のことになる。1992年夏、宮崎県で行われたインターハイ(高校総体)。東京朝鮮高級学校が東京都大会で優勝していたのに、出場したのは2位になった別の私立校だった。当時の高体連は朝鮮初中高級学校を学校と認めていなかったのだ。

  だけど、このときの朝鮮学校の生徒、先生は悔しいけどメソメソしていなかった。よし、だったら夏合宿をかねて宮崎に行って都の代表校を応援しよう。そうしたら、ぼくらの全国でのレベルもわかるはずだ。

  宮崎では自分たちが負かした選手を応援し、勝てば一緒に肩を組んだ。そんな彼らとともにすごした楽しい取材。高体連がインターハイの全種目に朝鮮学校の出場を認めたのはその数年後だった。

  この取材で監督やコーチから何度も聞かされた言葉は、ボクシングほどメンタルが大事な競技はない。リングに上がれば、たったひとり。闘うのは相手ではなく自分自身。だからみんなストイックに自分を見つめ、まわりのことは目に入らない。アマ、プロ問わず、それがボクサーだという。

  だけど、それをいいことにまわりの人間が彼らの純粋さを利用し始めたらどうなるのか。およそスポーツの指導者とは言い難い振る舞いでまわりの者をかしづかせ、独特の集金マシンでカネを吸い上げる。それとてとんでもない話だが、許し難いのは、その日のためにトレーニングを積んできた選手に到底、承服しがたい判定を下し、異議を唱えればどう喝、威迫をもって泣き寝入りさせる。

  このところ私たちの報道番組も情報番組も、333人の有志から告発状が出された日本ボクシング連盟の山根明会長一色である。12項目もある告発の内容は、どれもこれもとんでもないものだ。だけど告発状の宛先である文科省、スボーツ庁、内閣府、IOCなど8団体にも上る省庁、組織はこれまで何をしていたのか。

  それにしても権力にふんぞり返り、まわりの者をかしづかせ、だれが見てもおかしなことでも黒を白と言い倒す。そんな姿は、この国では果たしてボクシング連盟だけのものだろうか。

  代表の座を持っていかれた相手選手を声をからして応援していた若者たちの瞳が、まぶしく思い出される猛暑の夏である。

(2018年8月7日掲載)

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2018年8月 2日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

殺人事件の半数超が親族間
‐ 治安の良い日本だけど… ‐

  少し和らいだとはいえ、猛暑、極暑の夏。先週はテレビニュースも「暑っつ~い」一色。そんなとき私がコメントすることが多い事件の方も、被害者にはお気の毒だが、なんだか肌にべたつくような不可解、やりきれないものが多い。

  茨城県取手市で母親(63)と銀行員の息子(36)が、息子の妻の遺体を一緒になって自宅の敷地に埋めたとして逮捕された。同じく茨城・かすみがうら市では、アパートのクローゼットに33歳の夫の遺体をコンクリート詰めにして放置した44歳の妻が逮捕された。

  三重県鈴鹿市では25歳の男性が車の中で殺害されていた事件で、45歳のスナック経営の妻と交際相手の29歳の男が逮捕された。いずれも逮捕容疑は死体遺棄だが、殺人容疑に切り替わるのは間違いない。

  こうした事件を報道しながら私は「54・3% 」という数字を出させてもらった。警察庁が先日、2018年版警察白書を公表。昨年認知された刑法犯は91万5111件で、戦後初めて100万件を下回った前年より、さらに減っていることが明らかになった。殺人のような凶悪犯も減り続け、1億2000万人を超える国で殺人事件の被害者は一貫して300人台。世界各国から見たら信じられない治安のよさとなっている。

  なのに、この数字には「だけど」が付くのだ。

  昨年度の速報値は出ていないが、2016年でみると、殺人事件のじつに54・3%が夫婦、親子、兄弟といった親族間なのだ。これは一昨年に限らず、ここ十数年、常に親族殺が殺人事件の半数を占めている。

  なぜなのか。司法関係者も犯罪学者も頭を抱えるところだが、ひとつには「血は水よりも濃し」。他国に比べて家族親族の結びつきがより熱く、強い。だけどそれがひとたびこじれると、すさまじい憎悪嫌悪となって事件に発展するのではないかといわれている。

  それにしても愛し合い、抱きしめ合い、支え合うはずの夫婦、親子、兄弟が殺人の半数を占めるとは…。

  折しも下重暁子さんの著書、「家族という病」「夫婦という他人」がベストセラーになっているとか。家族、夫婦を少しばかりクールダウンしてながめてみる。それも暑っつ~い夏の、ひとつのすごし方という気もしてくるのだが─。

(2018年7月31日掲載)
 

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