日刊スポーツ「フラッシュアップ」

2021年10月13日 (水)

減る感染者 増える若者ドタキャン

-無駄になるワクチン-

 コロナ禍をめぐって、ホッとするニュースが相次いでいる。最悪のころ1日2万5000人を超えた全国の感染者は1000人台、25分の1まで減っている日も出てきた。

 なぜこんなに減ったのか。先日NHKニュースでは、医学関係者がさまざまな要因を挙げる中、政府の専門家会議の脇田隆字座長が「若者で増えて、若者で減った」と解説されていた。活発で無症状が多い若者が感染すると一気に感染者が増え、一方で若者へのワクチン接種など対策が進むと全体の感染者が減るという。

 そんな中、私の地元、大阪・豊中のS医師からまたメールをいただいた。

 〈私の医院で予約者の中から6人のドタキャンが出ました。窓口予約ではめったにないのですが、6人はいずれもネット予約の若者で、しかも前日の夕か夜という直前のキャンセルです〉 

メールを読みながら数カ月前、東京で接種会場に列をなしていた若者を思い出した。その若者がなぜ? 

 〈急激に感染が収まりつつあるなか、迷っていた若者が「やっぱりやめとこ」と軽い気持ちでキャンセルしているようです。ただドタキャンですと、キャンセル待ちの人への手配も難しいのです。またワクチンは1バイアル(瓶)6人分ですので無駄にならないようにするのは至難の業です。そろそろこうしたワクチンは医療従事者の3回目接種にまわすということも考える時ではないかと思います〉

 1人ひとりの若者に悪気はないだろうが、いまも世界で数億の人がワクチンを心待ちにしていることを忘れないでほしい。いずれにしろ、油断大敵。コロナ禍対策はいまが正念場、という気がしてならない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年10月11日掲載)

|

2021年10月 6日 (水)

押し切られた県警本部長

-佐賀に続き滋賀県警-

 前回の佐賀県警に続いて、今度は滋賀県警がとんでもないことをしでかした。滋賀県の病院で患者が死亡、看護助手だった西山美香さん(41)が無実の罪で12年間服役。2020年再審無罪が確定した事件で西山さんが国と県(県警)を相手どった民事の国賠訴訟で県警が「犯人は西山さん」とする書面を、無罪を言い渡した大津地裁に提出していた。

 この事実に三日月大造知事は滝沢依子県警本部長を呼びつけ、その場で謝罪させる事態に発展した。滝沢本部長は「無罪を否定するものとは思っていなかった」としているが、そんなわけがない。キャリア官僚が地元採用警察官に押し切られ、決裁した光景が目に浮かぶ。

 憤りというよりは悲しくなる。先週書いた主婦暴行死事件で捜査を懇願する親族を追い返した佐賀県警は、遺族が再三、杉内由美子本部長の謝罪を求めたが、県警は面会を拒否。結果、杉内本部長は体調を崩して警察庁に引き取られていった。

 私が半世紀も取材している警察組織は典型的な男社会だ。都道府県警のトップ、本部長に初めて女性が就任したのはわずか8年前。その後、全国27万警察官の中から5人の女性本部長が誕生したが、このうち2人が滝沢さんと杉内さんだ。

 この人たちがいま、なすべきことは、どんな形で無実の人を再び殺人犯とする書面への決裁を迫られたのか。なぜ遺族への謝罪をかたくなに止められたのか。それを明らかにすることだ。

 それが市民県民への責務であると同時に、キャリア、ノンキャリアを問わず、自らの前に男性と同様のフィールドが開けていると信じて額に汗して働く後進に見せるべき姿だと思うのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年10月4日掲載)

|

2021年9月29日 (水)

佐賀県警に特別監察を

-殺人事件伝えぬ鳥栖署-

 ここ10日ほど九州の新聞、テレビからコメントの依頼が相次いだ。佐賀県鳥栖市で9月10日白昼、79歳の女性が隣家の庭先で頭から血を流して倒れているのが見つかった。13日になって、大分市の警察署に長崎市の長崎大4年の学生(25)が「佐賀で女性をハンマーで殴って殺した。相手はだれでもよかった」と自首、14日に逮捕された。

 この間、ほぼ5日。佐賀県警も鳥栖署もマスコミにはもちろん、近隣住民にも事件を一切伝えていなかった。犯人の学生は自宅で放火とみられる火災が起きたあと、福岡に出て鳥栖市中心部にはタクシーで移動。現場までの1・5㌔で襲撃相手を物色していたという。付近には小中学校6校があり、1校は下校時間直前だった。

 近所にも事件を伝えなかった理由として県警は、遺体の傷から殺人とはわからなかった。また大学医学部の都合で土日に解剖できず、死因が特定できなかった―などとしている。佐賀県警は、頭に2カ所もハンマーで殴られた骨折があっても他殺とは思わないのか。医学部が土日休みなら、凶悪事件の捜査も2日間空白。私の長い事件取材でこんな警察は見たことがない。

 佐賀県警と鳥栖署といえば2019年、主婦が暴力団を装う男女に脅迫されていた事件で、親族が10回以上捜査を懇願しても被害届さえ出させず、結果、主婦は凄惨な遺体で見つかった。

 今回の事件のあとも犯人が市民に無差別に襲いかかったら、県警はどんな言い訳をする気だったのか。2度あったことが3度になる前に警察庁がなすべきことは、一刻も早く佐賀県警の特別監察に入ることだ。メディアは今後を注視している。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月27日掲載)

|

2021年9月22日 (水)

桜井さん3度目の「勝った」聞きたい

-布川事件国賠訴訟勝訴-

 無実の罪で29年間服役。事件から43年後の2011年、冤罪が明らかになった布川事件の桜井昌司さん(74)が提訴した裁判で、国の責任を認め、7400万円の支払いを命じた東京高裁判決が先日、確定した。

 いまだ再審が開かれない袴田事件や冤罪が明らかになった志布志選挙違反事件、足利事件…。裁判や報告集会には必ずと言っていいほど駆けつけて「自分の裁判はどうなっているの?」と声をかけられていた桜井さん。自身の勝訴報告記者会見のこぼれる笑顔を見て、この春、獄中で書きためた詩をちりばめたエッセー「俺の上には空がある広い空が」を贈っていただいたことを思い出し、改めてページを繰ってみた。

 〈窓辺に来た鳩の行った先を見たいと思った。思った瞬間、見られないことが、息ができないくらいの苦痛に変わった。「出たい! 手が折れてもいい、鉄格子を破って自由になりたい!」 深呼吸をした〉

 表題の「俺の上には空がある…」はそのとき桜井さんの心を静めた言葉だった。

 その桜井さんは2019年秋、直腸がんが肝臓に転移していると診断された。医師の宣告は「手術は無理。治療しても余命は2年」。

 いただいたエッセーの一文が目に飛び込んできた。

 〈私の口癖は勝つ、必ず勝つ! だった。「無実なのだから勝てないはずがない。勝てる、必ず勝つ」と語り続けた〉

 再審無罪確定から10年。そして、がん宣告から3年目の秋に国家賠償訴訟に「勝った」。いま私は、桜井さんの「勝つ、必ず勝つ!」から今度で3度目の「がんに勝った!」が聞けると信じて、心待ちにしている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月20日掲載)

|

2021年9月15日 (水)

コロナ対策だけでも超党派でできないか

-総裁選〝劇場〟に思う-

 メディア、とりわけテレビは自民党総裁選劇場だ。1政党の総裁選びとはいえ、よほどのことがない限り次期首相となるのだから、それもまたむべなるかなだ。

 今週末には候補が出そろい、政策発表。ただ投票は国会議員と党員、党友だけ。一般の有権者は政策をじっくり吟味して1票を投じることはできない。どんなにおいしそうに見えても、絵に描いた餅なのだ。

 だけど本当に私たちは指をくわえて見ているしかないのか。ふと、やりようによっては総裁選を少しは身近に引き寄せられる、そんな気もしてくるのだ。

 特定の候補を応援する気はないが、たとえば岸田文雄前政調会長は感染症対策として「健康危機管理庁」の創設を打ち出している。感染者が減っているとはいえ、いまも7割近くの人が自宅に置かれたまま。コロナ禍は、この国の行政機構の破綻をあからさまにした。

 一方、総裁選で影が薄い野党は4党共闘体制を組むと同時に、立憲民主党は衆院選に向けて公約を発表。その中で首相官邸に「新型コロナウイルス対応調整室」の新設をうたっている。

 だったら、この点は岸田案に乗って超党派で健康危機管理庁設立に協力することはできないか。野党も賛同しているのだから総選挙後にすんなり設立が決まり、感染者が自宅でバタバタと死んでいくこの事態は少しは改善されるのではないか。

 それによって野党の公約も現実味を帯びるし、何より総裁選に票を投じる人たちがどの候補なら野党とも連携、政策を実現できるか考える、ひとつの指標になるはずだ。

 絵に描いた餅も、やりようによって、おいしくいただくことができるのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月13日掲載)

|

2021年9月 8日 (水)

人生終盤でのミス 絶対に認めたくない元エリートたち

-池袋暴走事故 実刑判決-

 東京・池袋で乗用車を暴走させて31歳の母と3歳の娘を死亡させ、9人にけがを負わせた旧通産省幹部、飯塚幸三被告(90)に先週、禁錮5年(求刑同7年)の実刑判決が言い渡された。

 飯塚被告は裁判で、亡くなった母娘には「申し訳なく思う」としながらも事故は車の欠陥で起きたと主張してきた。自分は悪くない。悪いのは車、とされた遺族はどんな気持ちだったか。

 同じようなことは3年前にもあった。東京・白金で早朝ゴルフのため女性を迎えに行った当時78歳の検察の元特捜部長が車を暴走させて店に突っ込み、通行人の男性をはねて死亡させた。この元特捜部長も「ブレーキがまったく利かない欠陥車が起こした事故だ」と主張。なぜか官界司法界の元幹部が事故を起こすと、原因は「車の欠陥」なのだ。

 この元幹部たちは自分なりのやり方でここまで上り詰めてきた。そんな自分が人生の終わり近くでミスを犯したなんて絶対認めたくない。それが、こんなかたくなな態度を取らせているように私には思えてならない。

 ちなみにこの元幹部たち、暴走死亡事故だったのに1度も逮捕されたことはない。

 もちろん被告に無罪主張も控訴の権利もある。だが、むなしさばかりが残る裁判。池袋の事故で瞬時に最愛の妻と、かわいい盛りの女の子を失くした男性は「判決が出たら、もう争いはやめませんか。それより事故をどうしたらなくせるかという視点を、ともに持ちませんか」と呼びかけている。

 人生の最終章での被告の5年間の刑期。その1日1日が1歩1歩、この男性の呼びかけに近づく日々であってほしい。いまはただ、そう願うばかりである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月6日掲載)

|

2021年9月 1日 (水)

組織犯罪摘発に一定条件「福岡基準」を

-工藤会トップ死刑判決-

 1990年代から2000年初めにかけて、現在、危険指定暴力団となっている工藤会が本部を置く北九州市は「暴力が支配する町」とまで言われ、市民や企業に向けて銃弾が乱れ飛んだ。私も何度も取材し、工藤会本部にも足を踏み入れた。

 先週、福岡地裁は、その工藤会総裁、野村悟被告(74)に死刑、会長の田上不美夫被告(65)に無期懲役の厳刑を言い渡した。起訴された4事件のうち漁協組合長射殺は実に23年も前の事件。しかも、すべての事件に直接証拠はなく、暴力組織の上意下達の人間関係から両被告の事件への関与、指揮命令があったとされた。

 「そんな間接証拠だけで死刑判決か」という批判もあるが、判決言い渡しのあと裁判長に「生涯後悔するぞ」と、声をあげる被告。こうした暴力的組織に壊滅作戦を展開した警察検察の努力は高く評価されていい。

 その一方で、こうした捜査手法、司法判断はどこまで認められるべきなのか、危ぶむ声があることも確かだ。

 弾圧や抑圧に抗議するデモ。あるいは反原発、反基地のピケや座り込み。そうした活動のなかで、だれかが逮捕されるたびに指揮命令があったとしてトップの責任を問われたら、組織は壊滅的な打撃を受ける。

 ここはどうだろう。今回の判決を受けて、万やむを得ず死刑を選択する条件として「永山基準」があるように、組織犯罪摘発について一定の条件をつける。例えば動機、残虐性、指揮命令体制、社会的影響…。こうしたものを組み入れた、いわば「福岡基準」のようなものは作れないか。それは必ずや、日本の司法界に多大なインパクトを与えることになるはずだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月30日掲載)

|

2021年8月25日 (水)

「見せる警備」で抑止するしかないのでは

-小田急線 無差別刺傷事件-

 通信社から「どうしたら、このような事件は防げるのでしょうか」とコメントを求められて、考え込んでしまった。今月初め、夜の小田急線で刃物を持った男が次々乗客を襲い、女子大生ら10人が重軽傷を負った。車内に油をまいて放火も図った36歳の派遣社員の男は「勝ち組っぽい女性に腹が立った」と供述している。

 大学中退後、定職もなく、生活保護を受けていたという犯人の男。格差社会を是正すべきといっても、すぐにできることではない。

 ではラッシュ時、身動きもとれなくなる通勤通学電車の安全はどうしたらいいのか。

 私は「JR東海などの新幹線を参考にしたら」と、提言させてもらった。

 2015年、小田原付近を走行中の東海道新幹線車内で71歳の男がガソリンをかぶって自殺。巻き添えで女性1人が死亡した。また2018年には、新幹線車内で22歳の男が女性2人を刃物で襲い、止めに入った38歳の会社員が殺害された。

 こうした事件で私は当時、「防犯カメラなどの機械警備では犯行そのものは止められない。全部の列車にガードマンを乗車させるべき」と、このフラッシュアップなどで提言させてもらった。

 そのせいでもないだろうが、数年前から東海道新幹線では全列車に制服姿で特殊警棒、無線機を持ったガードマンが乗車。最近は発着時、乗降口で手荷物にも目を光らせ、幸いにしてその後、凶悪事件は起きていない。

 もちろん通勤通学電車では簡単なことではないだろうが、せめて一部の電車やホームにガードマンを配置させることはできないか。
 身勝手な理屈の無差別犯行は「見せる警備」で抑え込むしかないと思うのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月23日掲載)  

|

2021年8月18日 (水)

若者に信頼できる情報を

-ワクチン接種への躊躇-

 新型コロナ感染は先週、専門家が「災害時並み」と警告する事態となった。そんな時、ここ1年、折に触れて情報をくださる地元のS医師からメールが届いた。

 一時、供給が危ぶまれたワクチンは必要量が届くようになったと記されたあと、やはりこんな心配が。

 〈そのような状況になりながら、(若者が対象の)大学キャンパスでの接種はワクチンが余ってしまって、近隣の会社の方や家族にも接種できたと聞きました〉

 大学ばかりではない。若い働き手の多い職種の接種に出向いた医師も「暇だった」と嘆いていたという。

 S医師も指摘する若者のワクチン躊躇。ただ、これには私たちメディアにも責任があると思えてならない。SNS上に飛び交う情報。「金属片を埋め込まれて行動が監視される」「遺伝子が書き換えられる」。 

 ちょっと考えればデマとわかるはず、と切って捨てるのは簡単だ。だが、「不妊や流産の話はやはり心配」という女性の声は根強い。ワクチン接種が日本で始まって半年。そんなデータがそろうはずがないと強調してみせたところで、悲しいかな、メディアよりSNSが信じられてしまっている。

 ただ、これはメディアだけのことではない。小出しの対策しかないこの国の政府。医師と学者で不協和音も聞こえてくる医学界。いずれにも若者の目や耳は向いていないのだ。

 ここはどうだろう。メディア、政治、医学界が手を携えた発信基地は作れないものか。若者がいま求めているのは、何にも増して信頼できる確かな情報のはずだ。

 若者は、ぜひワクチンを―。S医師のメールは静かな呼びかけで結ばれていた。



(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月16日掲載)

|

2021年8月11日 (水)

国家的棄民を繰り返すのか

-コロナ「自宅療養」に思う-

 東京五輪は、きのう閉幕。きょうは8月9日。その8月を詠んだ句がある。

 八月や六日九日十五日

 6日は広島、きょう9日は長崎の原爆の日。そして15日は、76回目の終戦の日である。だが長年、中国残留邦人の取材を続けてきた私はその9日に、ぜひソ連軍の旧満州侵攻を加えてほしいと思っている。

 敗戦6日前の1945年8月9日、ソ連軍は突如、ソ満国境を越えて満蒙開拓団の村々に襲いかかった。男手は国境警備に取られ、残ったのはお年寄りと女性と子ども。守ってくれるはずの関東軍はとっくに逃げ出し、老人と女性は惨殺されるか、辱めを受け、多くの幼子が中国残留孤児となった。国が名もなき市民を見捨てた国家的棄民だった。

 なぜ今夏、ことさら、そのことが私の胸をよぎるのか。コロナ対策をめぐって菅政権は、重症者と重症リスクの高い人、及び、中等症と診断されなかった軽症の患者は原則、入院させず、自宅で療養させる方針を固めた。

 昨年、国内で感染が確認され、「入院を拒否する者には罰則も」とした時とは正反対の対応。しかもウイルスの変異で感染力が1・5倍にもなっている時に、だ。

 政府は保健所が自宅療養者をケアするとしているが、3波4波の際、300回も保健所に電話してもつながらなかった。やむなく呼んだ救急車の中で息を引き取った。そんな例が相次いだことを忘れたわけではあるまい。

 はっきり言おう。助ける命、見捨てる命。またまた国家的棄民が始まったのだ。

 それが戦後76年の夏。五輪後のこの国の政府が私たちに見せてくれる、おもてなしの姿なのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月9日掲載)       

|

より以前の記事一覧