日刊スポーツ「フラッシュアップ」

2023年5月29日 (月)

思い出す10年前の類似事件

-千葉・浦安 相次ぐ不審火-

 千葉県浦安市で放火とみられる不審火が相次いでいる。大型連休中からマンションの駐輪場でバイクなどが燃やされる事件が3件立て続けに起きた。

 私が出演しているTBS系「ひるおび」でも5月16日に事件を取り上げたが、2日後の18日、第3現場と同じ駐輪場で不審火が起き、さらに21日深夜には約500㍍離れた別のマンション駐輪場でバイクと自転車が焼かれる5件目が起きた。

 市民にとって、夜間、どこに火をつけられるかわからない放火事件への不安は大変なストレスになる。

 そんなとき、2013年、愛知県安城市で23件も起きた連続放火事件と、当時の東海テレビ取材班の見事なスクープを思い出した。

 10年前の3月、県営団地を取り囲むようにして連続放火事件が発生。最初は稲わらなどだったが、やがて民家に及び、4月半ばには事件現場のまん中に当たる県営団地の駐輪場が夜間、相次いで放火された。

 私も取材班と一緒に現地に足を運んだが、現場の記者の感触は、民家などに放火した犯人がついに団地に入り込んだのではなく、団地内にいる犯人が周辺の町内会の警戒が厳しくなったため、犯行直後に自室に戻れる団地内に放火したのではないかというものだった。

 そこで取材班が自治会の夜警団に密着すると、1週間後、団地の踊り場で古タイヤが燃え、直後に警官が団地の1室に逃げ込んだ男を逮捕。取材班の見事なスクープとなった。警察も同じ見立てをしていたのだ。

 浦安の犯人もまた、犯行直後に逃げ込める部屋がある当初のマンションにいるのではないか。ふと、そんな思いがわいてくる。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年5月29日掲載)

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2023年5月22日 (月)

29歳の友梨さんへ「絶対諦めないからな」

-大阪の小4女児不明から20年- 下校時に姿消す

 5月20日は大阪府熊取町で小学4年生の吉川友梨さん(当時9)が行方不明になって20年。私は何度も現場を取材したが、下校時、友だちと別れて自宅まで400㍍。こつぜんと姿が消えたまま、手がかりはない。

 発生日に合わせて大阪の毎日新聞などは改めて直前まで一緒だった3人の同級生を現場で取材。私も「少しでもお役に立つなら」と、長時間、事件への思いをお話しし、紙面では〈犯人に対して「諦めていないぞ」というメッセージを送り続けることが大切〉とコメントさせてもらった。

 言葉は短いが、私はそこに1つの思いを込めたつもりだ。友梨さんのご両親もそうだが、こうした未解決事件では発生日に合わせて現場や駅前で警察官とともにビラを配り、協力を呼びかける。だが年月とともに、「いまさら手がかりと言われても」という声が聞こえてくるのも事実だ。

 そんなとき私が思い起こす事件がある。2014年、埼玉の女子中学生が千葉の大学生に誘拐された。男は少女を「親から見放された」とだまして中野のアパートに監禁していたが、2年後の2016年、男の留守中に少女は部屋を飛び出して親に電話、警察に保護された。

 駆けつけた署員によると、少女は隙を見て男のパソコンで自分の名前を検索。ネット上に駅前で少女の名を必死で叫んでいる父親の映像を見つけ、以来、公衆電話をかける際の小銭をいつも持っていたという。

 29歳になった友梨さんの目に、ぜひともいまのご両親、そして同級生の姿が届いてほしい。加えて、われわれメディアからも犯人にひと言。

 「絶対に諦めないからな」

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年5月22日掲載)

 

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2023年5月15日 (月)

写真が語る消せない歴史

-満州国の近代建築遺産-

 手にも心にも、ズシリと重く感じる写真集を開いた。「満州国の近代建築遺産」。撮影された船尾修さんは、第42回土門拳賞を受賞した。
 どっしりとして重厚な中にも繊細で美しいデザイン。旧満州(中国東北部)に日本人が建てた400もの建築物を船尾さんは細部の装飾まで浮かびあがらせるモノトーンの写真に収めた。

 30年以上前、中国残留孤児(邦人)の取材で何度もこの地を訪ねた私も、なつかしさが込み上げてくる。

 肉親への手がかりを求めて、孤児たちが酷寒のなか十重二十重に取り囲んだ大連の旧ヤマトホテル。瀋陽の遼寧賓館。赤レンガに白い石を施した瀋陽駅は当時の東京駅をモデルにしたものだ。それらの建築物は、いまも人々の中で息づいている。

 船尾さんは、威容を誇るこれらの建物は日清、日露戦争に勝利を治め、「日本人はすごいんだ」と思い込んだ自信の表れだったとみる。だが170万人が暮らしたこの地に、日本がかつての清王朝の皇帝を引っ張り出して建国した傀儡国家「満州国」は、1932年からわずか13年で終焉を迎える。

 異国に取り残された人々は逃避行の中で数十万人が命を落とし、日本兵はシベリアに抑留された。女性と子どもばかりになった満蒙開拓団からはおびただしい数の人が残留孤児、邦人となった。

 だが船尾さんは、あとがきでも満州国について多くを語らない。すべてを、白黒フィルムがシミ1つ、汚れ1つ逃さず浮かび上がらせた建築物の姿に委ねる。

 それらの写真は、いつの日か建物がついえたとしても、私たちの国がかの地で何をしたのか、歴史は消せない、消してはならないと雄弁に語ってくれるに違いない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年5月15日掲載)

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2023年5月 8日 (月)

子どもの命をあずかる人の重い大きな責任

-通園バス置き去り女児死亡-

 先週、こども家庭庁への思いを書いて、5日の「こどもの日」を挟んで、また子どもにかかわる話。

 少し前、河本千奈ちゃんのお父さんが、私が出演している静岡朝日テレビの「とびっきり!しずおか」の取材に心の内を語ってくれた。

 「いま思えば大切な日々でした。入園の時や家族の誕生日。ケーキを買ってお祝いするのですが、本当にうれしそうで、楽しそうで」

 牧ノ原市のこども園「川崎幼稚園」に通っていた3歳の千奈ちゃんは昨年9月、猛暑の中、園長(73)が運転、76歳の派遣社員の女性が乗っていた通園バスに置き去りにされ、亡くなった。全身が赤く腫れ上がり、水筒は空になっていた。

 「お風呂から出て千奈の体を乾かし、千奈が『パパ大好き』と手を広げて、私も千奈を抱きしめて。たまにそんなことを思い出して」

 お父さんの言葉に合わせて、さまざまな映像が流れる。イチゴを頬張る千奈ちゃん。生まれたばかりの妹に上手にミルクをあげる千奈ちゃん。

 その千奈ちゃんが通った川崎幼稚園は、「園を閉じて」という両親の声は届かず、1カ月後に園長を息子が引き継ぐ形で再開された。

 「バスに安全装置をつけることが義務化され、事態はよくなると思います。だけど意識の低い職員に、どんな装置を提供しても同じことが起きるのではないでしょうか。それに、千奈は安全装置義務化のために生まれてきたのではないのです」

 当時の園長や派遣の女性は昨年末、業務上過失致死容疑で書類送検されている。だけど、車で人を死なせた事故と同じ刑罰でいいのか。子どもの命をあずかる人には、はるかに重い大きな責任があると思うのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年5月8日掲載)  
 
 

 

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2023年5月 1日 (月)

「こども家庭庁」健やかな成長を

-どこの国の子にもやさしく-

 5連休のまん中、5日の「こどもの日」に今年は、いつもと違う思いを抱いている。4月に「こども家庭庁」が誕生した。省庁間の管轄や責任が複雑にからみ合う子どもと家庭の問題。私は10年以上、「1つ屋根の下で起きることはみんな持って来い、と言ってくれる省庁が欲しい」と訴えてきたが、やっと実ったのだ。

 そんな折、最高裁は先日、死体遺棄罪に問われ、1、2審有罪となったベトナム人女性のリンさん(24)に逆転、無罪判決を言い渡した。リンさんは熊本で技能実習生として働いていた3年前、自室で双子の赤ちゃんを死産したが、そのまま段ボール箱に入れて遺棄したとして逮捕、起訴された。

 だが最高裁は、赤ちゃんはタオルにくるまれ、箱に「ごめんね、天国へ」などと書かれた紙が添えられていたことなどから遺棄には当たらないとしたが、事件の背景に妊娠、出産がわかったら、退職、帰国を迫られるというリンさんの怯えがあったことは明らかだ。

 こうした事件にも、さまざまな省庁が絡み合っている。その一方で今国会では、難民申請を繰り返すなどして不法滞在を続ける「送還忌避者」を、すみやかに強制退去させるための法改正が審議されている。だが忌避者を親に持つ15歳以下の子どもは201人。強制送還の親について行くか、子どもだけで日本に残るのか、選択を迫られる。だけど15歳以下の子どもがどうやって日本で生きていくのか。

 こういう時にこそ新しい組織が力を発揮してほしい。どこの国の子どもにもやさしく、どこの国の人々の家庭にも温かく。こども家庭庁の健やかな成長を願う2023年こどもの日である。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年5月1日掲載)

 

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2023年4月24日 (月)

「病気になっても病院がある」論法

-大阪のカジノ計画-

 「3日にあげず」とは辞書によると「間を置かず」とある。大阪のカジノ計画はギャンブル依存症防止のため、日本人は7日間で3回、28日間で10回までと決められている。紛れもなく「3日にあげず」。朝日新聞の「天声人語」ならずとも、みんなが不安に思うはずだ。

 2029年、大阪湾の埋立地「夢洲」に開業予定の、このIR統合型リゾートという衣をまとったカジノ施設。きのう終わった統一地方選前後半戦のど真ん中、同じ夢洲で2年後に開かれる大阪万博の起工式があった翌14日、政府が計画を認定した。

 カジノは万博と並んで、この地方選で破竹の勢いを見せた大阪維新、日本維新の会の目玉政策。政権のすり寄り、ご祝儀認定と言われても仕方あるまい。

 カジノをめぐる不安は日本人客の入場日数ばかりではない。リゾートでカジノが占める面積は全体のわずか3%とされているが、その面積で国際会議場やシアターなど施設全体の年間売り上げ5200億円の8割、4100億円を稼ぎ出す算段という。そんなうまい話があるのか。捕らぬカジノの皮算用としか思えない。

 その一方で、大阪府が全国初となるギャンブル依存症対策推進の条例を制定したことや、依存症になっても治療や相談を一括して受けられる拠点施設を設けるとしたことが認定につながったという。そもそも「病気になっても病院があるから大丈夫」という論法がなぜ評価されるのか、さっぱりわからない。

 私はギャンブルそのものは否定しない。だが政権が党利党略のために進めることではない。まして国が音頭をとり、旗を振ってやるべきことではないはずだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月24日掲載)

 

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2023年4月17日 (月)

なんともむなしい無投票当選

-統一地方選 前半終了-

 統一地方選の前半で9道府県の知事選と41道府県議選は終わった。道府県議選の投票率が過去最低の41・85%ということにも驚くが、不可解でならないのが無投票選挙区の多さだ。全体の37・1%、3分の1の選挙区、員数にして25%。4人に1人が審判を受けずに無投票で当選している。

 私が住む大阪でも定数削減で激戦と言われながら、53選挙区のうち11選挙区15人が無投票当選だ。全国では9議席の甲府市が無投票。島根県では10回連続、40年間無投票の選挙区もある。

 出演しているテレビ番組で告示日に無投票当選が決まった候補を追ったが、立候補届け出締め切りの午後5時が来ると、それまでそわそわしながら「できたら有権者の審判を」と言っていた候補者が満面の笑みで花束を抱え、「私の実績を見たら対抗して出てくる人なんていないでしょう」。

 選挙報道のたびに投票を呼びかけている側からすると、なんともむなしい話だが、投票できない有権者にしてみれば支持しない候補者でも議席を得ていく。そのことに憤りさえ感じるのではないか。〝1票の格差〟どころではないはずだ。

 ここは制度を抜本的に改革する時ではないか。たとえば立候補者が定数以内だったとしても無投票とせず、○×をつける信任投票を実施。不信任が過半数となった候補は落選。1人区でそうなった場合は議席を失う。そうした改革をすれば、みんながなんとか選挙戦へと力を入れるのではないか。

 毎日新聞の「余録」欄は「地方自治は民主主義の学校」と書いている。ならば、この事態は学校崩壊ならぬ、民主主義崩壊の危機ではないだろうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月17日掲載)  
  

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2023年4月10日 (月)

坂本龍一さんの遺言

-神宮外苑 再開発問題-

 社会部記者だった私は、音楽とはあまり縁がないが、坂本龍一さんは10年ほど前に1度取材させていただいた。森を守ろうと、自身が代表をしていた「モア・トゥリーズ」が銘木、東濃ヒノキの産地、岐阜県の2つの森林組合と協定を締結。東白川村に長く続く地歌舞伎の木造の芝居小屋で地元の方たちと交流会を開いた。

 伊勢神宮の神殿にも使われる東濃ヒノキで作った棺桶に入ってみて木の香に酔いそうだったと話され、「でもね、棺桶なので、いついるか、予約をできないのが難点です」と〝教授〟のあだ名とは裏腹なユーモアで会場を沸かせていた。

 その坂本さんは、死の3週間前、交流のあった東京新聞の記者に神宮外苑の再開発について「取材してほしい」と連絡していたという。

 私も昨年2月、このコラムに「神宮球場では、子どもたちがバットの素材になるアオダモを植林している映像が流れる一方で、大人たちは樹齢100年の古木1000本を切り倒して高層ビルを建てる」と書いた神宮外苑再開発問題。

 病床にあって対面取材は無理だった坂本さんは「後悔しないように」と、記者も「これほどの分量が届くとは」と驚くA4用紙3枚に思いの丈を綴られていたという。

 さらに小池東京都知事に宛てた手紙も公表。そこには「経済的利益のために先人が100年かけて守り育ててきた貴重な樹木を犠牲にすべきではありません」「樹々を未来の子どもたちへと手渡せるよう、再開発計画を中断し、見直すべきです」と書かれていた。

 坂本さんは亡くなられたが、音楽と森の妖精は、なお静かに、力強く、舞い続けているようである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月10日掲載)

 

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2023年4月 3日 (月)

放送法文書めぐる危機感

-抗議声明出さないテレビ-

 安倍政権時代、当時の首相補佐官が特定のテレビ番組をめぐって総務省と交わしたやりとりを記録した「放送法文書問題」。当時の高市早苗総務相(現・経済安保担当相)が「怪文書だ」と強弁すると、野党は「公文書だったら大臣を辞任するのか」。そうこうするうちに、問題の本質がどこかに行ってしまったようだ。果たしてこれでいいのか。とりわけ私は問題発覚後のテレビメディアに大きな危機感を抱いている。

 この問題で私は朝日新聞電子版、「放送法文書 何が問題なのか」の取材を受けたほか、ポッドキャストでは東京新聞の望月衣塑子記者とトークを繰り広げた。

 もちろん、私がテレビでコメンテーターをしていることもあるが、もっと大きな理由は、首相補佐官とやりとりがあった翌2016年、高市総務相が「1番組ごとに判断。内容によっては電波を止める停波もある」と発言、そのことに憤りを感じた田原総一朗さんや鳥越俊太郎さん、青木理さん、それに私など6人のジャーナリストが「私たちは怒っています!」と書いた横断幕を掲げて強く抗議した。そのことをみなさん覚えていて、今回、取材を申し込んでこられたのだ。

 このたびも、またあのときのメンバーはそれぞれ発言されている。だが、その一方で、いまテレビ局の中にいる人たち、とりわけNHKを含む各局の報道局長はこの事態に一体、何をしているんだ。私が抱く危機感はそこにある。なぜ「真相を明らかにしろ。停波の流れには強く抗議する」と声明の1つも出さないのか。

 4月は各番組が衣替えする改編期。だが、この春は霞どころか、どんよりとした雲の中にいるようである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月3日掲載)

 

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2023年3月27日 (月)

検証されるべきなのは…

-再審開始決定 袴田事件-

 先週、「ここまで追い詰められても、なお最高裁への特別抗告で抵抗しようとする検察」と書いた袴田事件の再審開始決定。じつはこの特別抗告をめぐって、東京高検とメディアの間で微妙な動きがあった。

 東京高裁の決定直後から一部の新聞が「高検、抗告の方針」と書いたのをはじめ、抗告期限が迫るにつれ、通信社、テレビ局から「高検、抗告の構え」といった情報が流れ、私も何人かの記者に聞かれて「検察の観測気球。メディアを使って世論の反応を探っている」と答えた。結果、厳しい世論を前に検察は抗告を断念したが、私はあらためて捜査サイドとメディアのありように思いをめぐらせた。

 再審開始決定を受けて検証記事を書いている新聞も多いが、経済紙なのに、といっては失礼だが、日経の紙面にはさまざま考えさせられる。

 20日の紙面、「事件をめぐる初期の報道」では「『血染めの衣類』疑問呈さず」の見出しで、事件発生から1年2カ月たって発見され、今回の高裁決定でも捏造の可能性を指摘されている5点の衣類について〈みそタンクからの「新証拠」の出現はそれほど不自然なのだ。にもかかわらず、本紙を含め、当時のメディアはこれに疑問を呈していない〉と、自らの紙面にも厳しい目を向けている。だが、新聞は疑問を呈さなかっただけではない。当時の朝日新聞静岡版には「活気づいた検察側」の記事が見えるとしている。

 こうしたことを踏まえ、日経は〈(検察に)都合のよい展開。やがて死刑判決が導かれた〉と振り返る。

 言うまでもない。検証されるべきは警察、検察、裁判所だけでないのである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年3月27日掲載)
 
 
  

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