一番懐肥やす悪党にたどりつけるか
-フィリピン4人は「中の下」-
「検挙に勝る防犯なし」。広域連続強盗の報道に連日関わりながら、事件記者時代、ベテラン刑事から何度も聞かされた言葉が胸によみがえる。
犯罪防止のためのさまざまな啓発も大事だ。だが悪党どもを割り出して一網打尽にする。これに勝る防犯活動はないというわけだ。
フィリピンから強制送還される4人の男。だけど彼らの容疑は強盗ではなく、詐欺。4年前、現地で日本人36人が拘束された特殊詐欺事件。だが一網打尽とはいかず、その残党が組織を広域強盗に切り替えたのだ。
この4人がからんだ特殊詐欺の被害額は60億円。そのまま彼らに渡っていたら特別待遇とはいえ、いつまでも収容施設にいるわけがない。メディアは男たちを「司令塔」などと呼んでいるが、警察が描いている事件のチャート図では中の下ぐらいにしか位置していないはずだ。
反社会勢力の中で、「今どきカシラ(組長)がベンツかレクサスに乗っているのはシャブ(覚醒剤)の太いルートか、オレオレ(特殊)詐欺グループを抱え込んでいる組だけ」と言われて久しい。だが特殊詐欺で広域暴力団はもちろん、中小の組でも詐欺容疑や使用者責任を問われて、グループともども壊滅させられたケースはついぞ聞かない。えぐり切れなかった病根が今度は強盗組織となって、90代の無抵抗な女性をはじめ市民に襲いかかっている。
送還される4人の取り調べや、これまでの捜査で手にした情報。それらのピースをつないで、一番懐を肥やしている悪党にたどりつく突き上げ捜査ができるかどうか。刑事たちが語り継いできた「検挙に勝る…」の言葉を捜査員みんながかみしめる時ではなかろうか。
日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年2月6日掲載
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