日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
75年前と同じ精神論とごまかし
-戦争と感染症-
8月、「戦争に季節はないが、夏になると戦争を思い出す」と書いたのは、新聞記者時代のわが恩師、故・黒田清さんだ。
もちろん終戦の年に生まれた私に戦争の記憶はない。ただ、あれから75年、新型コロナ禍で迎えた夏。戦争と感染症は違うが、どこか似ているように思えてならない。
戦争の災禍はすべての国民、国土に降りかかった。そして新型コロナ禍もまた等しく全国民、全国土に降りかかっている。それはこの75年間で、私たちが初めて経験することではないか。さらにもう1点。この2つには、極めて似た部分があるように思えるのだ。
コロナ禍は、ここにきて再拡大している。7月4日から21日後の7月25日に2万から3万人なった全国の感染者は、わずか10日余りで4万人になろうとしている。だが安倍政権は「専門家も爆発的感染ではないと見ており、緊急事態宣言発出の時期ではない」。
その専門家の1人は「Go Toトラベル」について「政府に先延ばしを提言したが、受け入れられなかった」と明らかにしている。
あの大戦時の大本営。戦況分析も前線からの情報も無視して、「撤退」を「転進」と言い換えて「ワガ軍の損害ハ軽微ナリ」。
いまの状況は、まさに75年前そのままではないのか。ひとつのものに打ち勝とうとするとき、必要なのはデータだ。だが、自治体や市民がPCR検査の充実を訴えて半年。日本の100万人当たりのPCR検査数は世界215カ国・地域の中で、なんと159位。ウガンダのひとつ下だという。
こんな感染症との闘いなのに、欧米諸国から日本のコロナ禍の死者がなぜ少ないのか、と問われた政権幹部は、「おたくの国と、うちでは国民の民度が違う」と言い放ったという。
ちなみにコロナ禍による死者数は、日本は人口比でアジアの中でベトナム、香港、台湾、タイ、韓国、それに中国などよりはるかに多いのだ。
科学的データもなしの精神論。そして言い換え、ごまかし。国民の生命財産の上に等しく災禍が降りかかる2020年夏。あさって8月6日は、大本営が「敵少数機により相当の被害」とだけ発表した人類初めての原子爆弾投下。あれから75年の「広島原爆の日」である。
(2020年8月4日掲載)
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