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2020年2月13日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

あれから18年…私たちの国は何をしてきたのか
-有本恵子さんの母 嘉代子さん死去-

 北朝鮮による拉致被害者、有本恵子さん(当時23)の母、嘉代子さんが先週、亡くなった。94歳だった。訃報を伝えるABCテレビ(大阪)の夕方ニュース、「キャスト」では、局を退職したあとも取材を続ける元プロデューサーのIさんが昨年12月23日に撮影した映像が流れた。

 自宅のベッドでじっと天井を見つめたまま。だけど北朝鮮による拉致を訴えても反応しなかった、あのときの国への思いはいまも忘れない。「わかっていたのに動かない。あれが大失敗やった」と唇を噛む。

 その嘉代子さんを「お母さん」と呼んでカメラを回し続けたIさんの紹介で、私も何度か嘉代子さんにお目にかかった。おっとりと話す横田めぐみさんの母、早紀江さんとは対照的に、マイクを持って少し前かがみ、歯切れのいい関西弁で「絶対取り戻す。そやから力を貸して」と訴えてきた嘉代子さん。でも、ここ数年は「一目でええ。会いたいんや」と言うことも多かった。

 毎日の食卓には欠かさず恵子さんのぶんも用意され、1月12日は恵子さんの誕生日。だけど今年は還暦を祝うケーキの前に、年明け、骨折で入院した嘉代子さんの姿はなかった。

 夫の明弘さん91、横田早紀江さん84、夫の滋さん87。早紀江さんは「会えるまで絶対に元気でいると言っていたのに…。拉致被害者の親は明弘さんと私たち夫婦、たった3人になってしまいました」と、肩を落とされていたという。

 2002年の小泉訪朝、蓮池、地村、曾我さんや、その家族の帰国。だが、あれから18年、私たちの国はいったい何をしてきたのか。もちろん、だれがやろうと難しい問題であることはわかりきっている。と同時に、拉致被害者を取り戻せるとすれば政治の力しかないこともわかりきっている。

 「政権の最重要課題、1丁目1番地」と位置づけながら、国民の目から見れば、いつの間にか北方4島返還や憲法改正に移っている。そんなことで理不尽、不条理、暗黒国家の厚い扉を壊せるわけがない。燃え盛る、たぎる思い、火の玉となってぶち当たるしかない。

 神戸の斎場。記者から嘉代子さんの思い出を問われた明弘さんは、唇をふるわせ、声をしぼりだした。
 今は無理や。涙は出るけど、言葉は出えへん─ 

(2020年2月11日掲載)

 

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