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2018年12月21日 (金)

Webコラム 吉富有治

出直し知事選を言い出した松井知事 繰り返される大阪のドタバタに有権者もうんざり!?

  大阪府の松井一郎知事が来年夏の参院選と同日に、いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票を実施したいと言い出した。それが無理なら、そのときは自ら知事を辞職し、来年春の統一地方選と出直し知事選のダブル選挙に出ることも選択肢の1つだと宣言した。

  松井知事のこの発言は12月11日付けの産経新聞のインタビューに答えたもので、産経は「万博誘致成功“追い風”狙う維新、強気発言で波紋」という派手な見出しをつけていた。

  もっとも、「強気」というのは勝算があってこそ。勝つ見込みがあるから強気な発言になるのであって、そうでなければ虚勢でしかない。私の見るところ、松井発言は強気と言うよりも、むしろ虚勢に近いと思っている。

  2025年万博の誘致に成功し、勢いに乗った松井知事。この機に乗じて念願の大阪都構想を一気に進めようという魂胆なのだが、あいにく万博誘致の成功は追い風になっていない。最初こそ世間も歓迎ムードだったが、その後はメディアも検証報道ばかり。「約2兆円と言われる経済効果や約2800万人の総入場者は大風呂敷を広げすぎではないのか」「1250億円の会場整備費は2倍、3倍に膨れ上がらないのか」などと万博に疑問符をつけることが増えてきた。これには松井知事も誤算だったようだ。

  そこに加えて、大阪維新の会が掲げる看板政策「大阪都構想」が頓挫しかかっていることもある。

  維新の会の議席は大阪府議会、大阪市議会ともに過半数には満たない。そこで公明党の協力を仰ごうとアメやムチを与えているわけだが、ここに来て同党の態度がどうも煮え切らない。そこで、公明党を揺さぶるため冒頭の「強気発言」に出たのだ。

  公明党にすれば参院選の勝利は支持母体からの絶対命令。そこに住民投票をやれば党員や支持者の活動が分散され、勝てる勝負も勝てなくなる。公明党の弱点を理解している松井知事は、「だったら住民投票に賛成しろ」と同党に迫った。だが、今のところ公明党は表面的には無視を決め込んでいる。

  過去を振り返れば、2015年5月17日の住民投票では反対票が賛成票を僅差で上回り、都構想は頓挫した。ところが、2015年11月22日におこなわれた大阪府知事選、大阪市長選のダブル選挙で維新の松井知事と吉村洋文市長が自民党が推す候補を破って当選。両名は「民意は再度の住民投票を望んでいる」として、都構想の制度設計をおこなう大都市制度協議会、いわゆる法定協議会を再開させた。

  さて、2度目の法定協議会を開いたものの、大阪市を廃止して特別区を作る案は前回に否決されたものと大差なし。維新は「バージョンアップした都構想」と宣伝するものの、どこからどう見ても中身はバージヨンダウン。熱心な維新の支持者ですら「お粗末すぎて話にならん」と言い出すものまで現れる始末である。

  焦った松井知事や維新は、都構想に"厚化粧"することを思いついた。第三者から「都構想の経済波及効果はウン兆円」とお墨つきをもらえれば、反対派を封じ込め住民投票にも弾みがつくと考えたのだ。そこで大阪市の税金を使ってシンクタンクに試算を作らせることを提案し、さっそく入札公募が実行された。

  ところが、1度目の入札は応募ゼロ。大手のシンクタンクからは無視された。2度目の公募でようやく決まったものの、相手はシンクタンクではなく、なぜか学校法人嘉悦学園。しかも同校から出された都構想の経済効果は「約2兆円」と、松井知事や維新が大喜びする内容だった。

  だが、大阪府議会と大阪市議会では現在、嘉悦学園が出してきた試算の信ぴょう性に疑いの目が向けられている。維新以外の会派からは「試算の前提になった数値に疑義がある」などとして、一部の会派からは嘉悦学園の学者を参考人として議会に呼んではどうかといった話まで出ている。

  このような背景の中で、公明党は都構想に対して冷たい態度を取り続けている。法定協議会では都構想に対して批判的な意見が相次ぎ、嘉悦学園が出してきた試算にも懐疑的だ。この状態が続けば、法定協議会で都構想の制度設計は不可能。住民投票をする前に法定協議会の段階で頓挫する可能性がある。

 ただし、松井知事にまったく勝算がないわけでもなさそうだ。府議会や市議会の各会派の幹部を取材してみると、住民投票の実施時期をめぐって松井知事は公明党の某議員と何らかの密約を交わしていて、それが同党の「弱み」になっているとの話も聞こえてくる。これには公明党も少々頭を抱えているという。

  とは言え、仮に公明党に負い目があったとしても裏取引に応じるべきではない。住民投票をやるかやらないかは政治の裏取り引きで決めることではないからだ。あくまでも法定協議会の場で決めることであって、その大前提として都構想の制度設計がまともか、まともでないかが大切だろう。

  目的達成ためには手段を選ばない松井知事。それを仕方がないと見るのか、やりすぎだと眉をしかめるのか。またまた繰り返される大阪のドタバタ劇。試されているのは議会の良心だけではない。私たち有権者の見識もまた、問われているのである。

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