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2018年6月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

犯罪被害者の思いを引き継ごう
‐「あすの会」18年間の活動に幕‐

  あすの会の「あす」の意味合いをしみじみと感じた1日だった。先日、「全国犯罪被害者の会」(あすの会)が東京で最終大会を開き、18年間の活動に幕を閉じた。

  山口県光市母子殺害事件の本村洋さん、神戸連続児童殺傷事件の土師守さん、桶川ストーカー殺人の猪野京子さん。お目にかかった被害者ご遺族は、私の事件取材の歴史でもあった。大会に先立って東海テレビ(名古屋)の取材で、会の幹事をされている土師さんにじっくりお話をうかがった。

  「いろいろあるけど、平穏で幸せな生活をしている人」がある日、悲しみの底に突き落とされる犯罪被害。土師さんの次男、淳君が事件に遭った当時、遺族は少年審判の傍聴はもちろん、処分内容さえ教えてもらえなかった。被害者は被告を有罪にするための「証拠の1つ」でしかなかったのだ。

  だが、会の活動で「犯罪被害者等基本法」という大きな成果も得られた。被害者は法廷のバーを越え、意見陳述どころか、被告に求刑することもできるようになった。犯罪被害者に対する給付金や後遺症に苦しむ人への医療費も、十分とは言えないまでも拡充してきた。会の趣旨に沿った自治体の支援センターも各地にできてきた。それらが会の解散の大きな理由だという。

  だが、手にしたこれらの権利は、すでに被害者となっている土師さんたち会員がその恩恵に浴することはない。あす被害に遭うかもしれない、事件から一番近い人たちが、事件から一番遠くに追いやられることがないように、すべてはあすからのためにあるという。

  だけど、犯罪被害者遺族は、いま新たな問題に突き当たっている。土師さん自身、事件から20年近くたって当時少年だった加害者が遺族の心を逆なでする本を出版、それがベストセラーになった。大きな事件が起きるたびに加害者どころか、被害者やその家族の悲しみに追い打ちをかける情報がネット上にあふれる。だからといって出版やSNSを規制すべきとは思わない。社会に「それはやってはいけない」「それはやめようよ」という風土が育っていってほしいという。

 あすの会のバトンをみんなが、「いろいろあるけど、平穏で幸せな生活をしている」私たちの社会が、引き継ぐときなのだ。

(2018年6月12日掲載)

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