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2018年4月12日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

どちらの自衛隊に拍手?
‐「被災地で汗」⇔「日報隠蔽」‐

  発生から7年になる東日本大震災の取材で一番出会いが多かった政治家は、小野寺五典・現防衛大臣という気がする。

  宮城県気仙沼市の実家の旅館は津波で全壊、母と弟が一時は行方不明に。再会した避難所でおむすびを分け合って食べたあと向かった南三陸町では、その後、部下となる自衛隊員とともに遺体の収容もままならない浜に立ったという。

  震災6年の昨年3月、仙台駅でお会いしたときは、南スーダンPKO日報隠し問題で当時の稲田防衛相の答弁をめぐって国会が大混乱。「小野寺さん、そろそろ再登板じゃないの」と言った覚えがある。

  その小野寺さんが自衛隊のイラク派遣(2003~2009年)の日報隠蔽問題の渦中にある。防衛省が国会で「ない」と言って隠蔽していた日報の存在が3月末に明るみに出た。ところがなんと「ある」とわかったのは、じつは去年の3月。防衛省は大臣にも首相にも、1年にわたってその事実を隠蔽していたのだ。

  さあ、野党はもちろん、与党も大騒ぎ。いわく「シビリアン・コントロール(文民統制)ができていない」「戦前の陸軍回帰だ」。だけど耳にタコもののこの論議、どこかおかしいのではないか。いま議論すべきは、安倍さんがそんな防衛省・自衛隊の存在を明記しようと、憲法改定をもくろんでいることではないのか。

  安倍さんは口を開けば、こう言う。「いまでも自衛隊を憲法違反という学者がいる。がんばっている自衛隊の諸君に、いつまでも肩身の狭い思いをさせておくわけにはいかないのだ」。

  本当か? 被災地で汚泥と油にまみれた遺体を収容している自衛隊員が「憲法違反だ、帰れ」とののしられたことが、ただの1度でもあったのか。隊員と一緒に浜に立った小野寺さんに聞いてみたらいい。

  おととし秋の、思い出す光景がある。国会演説で安倍さんは「いま、この瞬間も任務に当たっている海上保安官、警察、自衛隊の諸君に、この場所から心からの敬意を示そうではありませんか」と言って自ら盛大に手をたたき、議員にも拍手を求めたのだった。 

  あらためて安倍さんに問いたい。あなたが拍手を求めたのは、被災地で泥まみれになっている自衛官ですか。それとも首相も大臣もだまし続ける自衛隊ですか。

(2018年4月10日掲載)

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