2019年2月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

弱者へ決して口にしてはいけないこと
‐麻生大臣、明石市長の発言に思う‐

  大阪から東京に向かう飛行機の中で、いま統計不正問題で政権追及の急先鋒に立つ旧知の野党女性議員と言葉を交わした。賃金、保険、まさに国民生活の根幹にかかわる統計の不正。

  「根本が腐っているなんて言っている場合じゃないよ。最低でも厚労大臣は辞職に追い込まないと」という私に、議員は「わかっているけど結局、麻生さんが壁なの」と力なく笑う。

  あの森友・加計問題の財務省文書改ざん事件。それに女性や高齢者、病気や障害のある人たちへ度重なる心ない発言。「どれも少し前だったら即刻辞任となるはずなのに、のうのうと生き延びているでしょ。だからどの大臣も、この程度で辞めるもんかとなっているの」。

  ところが偶然とはいえ、なんとその数時間後、当の麻生さんは福岡で開かれた講演会で、またしてもこんな持論を展開していたのだ。「高齢者が悪いみたいに言う人がいっぱいいるが、子どもを産まないのが問題なんだからね…」。

  そして2日後には「不快と思われる方には、おわび申し上げる」という毎度おなじみのふてくされ謝罪。

  ここに書き出すだけでも業腹な話だが、「セクハラ罪という罪はないんだよ」。終末医療のお年寄りには「さっさと死ねるようにしてもらうとか考えないと」。医療費の負担には「たらふく飲んで食べて、なにもしない人の(医療費を)なんで私が払うんだ」。

  こんな人物が財務相、副総理の座を追われることもなく、戦後の蔵相、財務相の在籍最長になったという。

  折しも道路買収交渉が進んでいないことに腹を立てて、市役所幹部に「楽な商売じゃ、お前ら」「いまから行って建物燃やしてこい。捕まってこい」と、パワハラ発言していたことが発覚、辞任した泉房穂明石市長。ここにきて「私だったら、(地権者に)土下座してお願いする」とした市長の音声データが出て、にわかに擁護論が浮上。次期市長選への出馬は様子見だという。

  だけど麻生さんも泉市長も本当にこれでいいのだろうか。自分の部下や、社会のなかで苦しい立場、弱い立場にある人に決して口にしてはならないことがある、と私は思う。

  「たるんじゃったな…みんな…」。昨年亡くなられた毎日新聞の岸井成格さんが最期に親しい人に漏らした言葉が浮かんで、消える。

(2019年2月12日掲載)

|

2019年2月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

アベノミクス忖度ではないところに問題の根深さが…
‐厚労省 統計不正問題‐

  朝日、毎日、それに日経新聞も「統計不正問題」。だけど読売は一貫して「不適切調査問題」。産経はその両方を使い分け。さて、どの表現が「適切」かはともかく、私は、この問題の追及の仕方は当初から間違えていると思えてならない。

  厚生労働省が実施している「毎月勤労統計」に続いて「賃金構造基本統計」も長年、定められた方法ではない形の調査が行われていたことが発覚。働く人の実質賃金も国の公表値は誤りとなった。当然、野党はアベノミクス成功の根拠となった賃金上昇は「大うそ、ごまかしだった」と厳しく追及する。なるほど、ここでもまた役人の忖度か、という気がしてくるのだ。

  だけどこの問題、まずなすべきことは、いつ、どこで、だれが、こんなことをしたのか。その目的はなんなのかを明らかにすることではないのか。その結果、「不正、不適切なことはしたけど、それがアベノミクスにどう影響するかなんて眼中になかった」となったら、野党もメディアも、まさに空を切って刀をふりまわしていることになる。

  こう書くのには、じつは根拠がある。問題発覚後、中央省庁の元キャリアと話す機会があったのだが、その元官僚は各省庁にある統計部局を伏魔殿としたうえで、「トップクラスのキャリアを除いて人事異動はほとんどない日の当たらない専門部局。省庁の中枢になることのない彼らに時の政権への思惑などあるはずがない」と言い切るのだった。

  その言葉を裏付けるように毎日新聞は今回、問題が発覚した厚労省の雇用・賃金福祉統計室は3万人の職員のうち、わずか17人。調査にあたった特別監察委は「安易な前例踏襲主義で長年、漫然と業務を続けてきた」と断じていると伝えている。また産経新聞も、この問題の震源地は統計部局としたうえで、「政策部門と切り離された閉ざされた組織」としている。

  ならばそんな人たちが、それでもアベノミクスに忖度したというのか。そうではないところにこの問題の根深さがある。こんな日の当たらない組織が漫然と出してきた数字をもとに、長年あらゆる施策が決められてきたのだ。まずはこの組織の実態を白日のもとにさらし、そのうえで統計をうのみにした政権が責任を取る。それが物事の順番というものではないのか。

(2019年2月5日掲載)
   

|

2019年1月31日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

現職警察官が昇任試験めぐり多額報酬
‐なぜか全国紙報じぬ大問題‐

  事件、事故、災害取材。新聞、テレビといったメディアがもっとも関わりの深い公的機関といったら、やはり警察だろう。ただ大きく違うのは、警察組織は昇任試験に支えられた徹底した階級社会。それこそ上官の命令は絶対。「悔しかったら、(階級章の)星の数を増やしてからものを言え」の世界なのだ。だが、いまその昇任試験をめぐって警察組織が大きく揺れている。

  東京の出版社の依頼で、現職の警察官が昇任試験の対策問題集や模範解答に長年、原稿を執筆、相当額の報酬を受け取っていたことが明るみに出た。ただし、この問題、年明け早々に九州の西日本新聞がスクープ。先日、私のところにも京都新聞からコメント依頼があったように一部のブロック紙や地方紙が連日、報道しているのに、なぜか全国紙の大半は、いまのところ報じる気配はない。

  だけど、西日本新聞などの報道によると、現職警察官が執筆していたのは警察庁はじめ、福岡、広島、京都、愛知、神奈川など17道府県に及ぶ。このうち京都府警の警視は偽名を使うなどして5年間で計795万円を受け取り、西日本新聞が取材に入った昨年末、退職している。さらに神奈川県警の元警視は在任中、1000万円近い報酬を受け取っていた。もちろん副業を禁じた職務規定に違反しているし、税務申告していなかったら所得税法違反だ。

  ただ、そういったこととは別に、大半の警察官が激務の合間に少しでも上の階級を目指して眠い目をこすって勉強している。私もかつてそんなデカさんたちを見てきた。なのにその上司の警部、警視が民間の出版社に問題例を流して多額のお金を手にしている。現場で働く警察官が聞いて心穏やかでいられるはずがない。

  一方で災害の多い県警。山岳事故、海難事故への対応が求められる県警。設問がそれぞれ違う昇任試験。効率的な参考書を求める声も根強い。ここはどうだろうか。各警察本部が警務課や教養課に匿名の考査委員を置き、その委員が出版社との契約で地域の特性を生かした問題と模範解答を執筆。報酬は委員の慰労と警察官の福利、厚生に充てる。

  もちろん警察組織への批判も大事だ。だが一方で古いおつき合いの間柄。メディアの側からそんな提案があってもいいと思うのだ。

(2019年1月29日掲載)

|

2019年1月25日 (金)

Webコラム 吉富有治

見えてきた都構想の終わり
荒れた法定協議会で維新と公明党との対立は決定的

「会長、動議! 動議!」

  大阪市議会で昨日23日午前に開かれた「大都市制度(特別区設置)協議会」、いわゆる法定協議会で、今井豊会長(維新幹事長)が開会を宣言した直後、委員である公明党の八重樫善幸府議が冒頭のように動議を求める発言を繰り返した。これが波乱の幕開けだった。なお法定協議会とは、いわゆる大阪都構想の制度設計をおこなうことを目的に、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長、また府議会と市議会から各党の代表議員の計20名が参加して議論を進める場のことである。

  さて、動議を提案した八重樫府議は用意していたメモを読み上げ、今年1月11日の第18回法定協議会は今井会長の一方的な通告で開催されるような異常事態であり、次回は改めるよう忠告したにもかかわらず、本日の法定協議会も強引な手法で開催されたと批判。断固抗議するとともに直ちに散会するよう訴えた。

  この動議を受けた今井会長は採択をおこなわず、「大事なことだから皆さんの意見を聞く」と受け流し、なぜか維新の委員ばかりを指名。そこに、この動議の採択を求める委員や維新の委員から「採択しろや」「やかましいー」「職務放棄だ」などと怒声が飛び交い、協議会は40分以上も紛糾。結局、1時間近くの休憩をはさんだ後、今井会長は散会を宣言し、この日の法定協議会は議論がおこなわれぬまま中止となった。

  これまで維新と歩調を合わせてきた公明党が180度も態度を変えたのには理由があった。大阪府の松井一郎知事が昨年12月26日、大阪府庁で記者会見し、維新と公明党が水面下で交わした密約文書を暴露したからである。「合意書」と題されたA4サイズ1枚の紙には、法定協議会において「慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中に住民投票を実施すること」と書かれ、2017年4月当時の公明党府本部幹事長と大阪維新の会幹事長が署名していた。ちなみに署名した維新側の人物が法定協議会の今井会長である。

  松井知事は市内のホテルで昨年12月21日、公明党の幹部らと面談。この密約文書を盾に、「任期」とは府議と市議のそれだと主張。4月の統一地方選と住民投票の同日実施が無理なら7月の参院選での同日実施を提案したが、公明党は「『任期』は知事と市長の任期であり、住民投票をするにも丁寧な議論が必要だ」と譲らなかった。怒った松井知事は途中で席を立ち、文書の暴露に踏み切った。また松井知事は、吉村市長と共に途中で辞任し、4月の統一地方選で知事選、市長選のトリプル選挙に打って出ることも示唆し、公明党を揺さぶる作戦に出た。

  しかし、公明党は折れるどころか、ますます反維新の態度を強めていく、業を煮やした維新側は、これまで慣例として各党の代表者が集って調整していた法定協議会の日程を会長権限で強引に決めてしまった。確かに日程は会長が決められると法定協議会の規約には書かれている。だが、これでは慣例破りとなり平穏な会議は望めない。当然、維新以外の各党が反発し、冒頭の動議騒動に発展したわけである。

  松井知事らは終了後の記者会見で「公明党は選挙目当ての私利私欲。慎重で丁寧な議論どころか完全な職責放棄だ」と批判した。だが、公明党の八重府議が提案した動議は会議をつぶすことが目的ではなく、正常な会議に軌道修正してほしいというものである。

  対立する意見を目の前にして慎重な議論を進めるためには、その会議の運営が公平・公正・中立であることが前提だろう。片方の主張、意見ばかりを聞き、反対する意見を顧みない会議の運営では、とても慎重な議論など望めない。こんな調子で時間を取って会議を進めても慎重で丁寧な議論などできるわけがない。そもそも密約文書に署名した人物が法定協議会の会長に収まっていること事態、協議会の公平な運営など期待できないし、ここにきて今井会長の議事進行にも強引さが目立つ。公明党は公平で公正な議論の場を求めたにすぎず、職責放棄でも何でもない。むしろ維新による法定協議会の八百長ぶりが目につく。

  いずれにしても今後、法定協議会はまともに開かれないだろう。となれば、「住民投票の実施」を大義に掲げた松井知事と吉村市長が任期を待たずに辞任し、統一地方選とのトリプル選挙になる可能性が非常に高い。だが、仮に知事と市長の椅子を維新が取ったとしても、中選挙区制の大阪市議会で維新が単独過半数の議席を奪うのは、まず不可能。結局、公明党の協力がなければ都構想など絵に描いた餅でしかなく、その公明党は支持母体である創価学会の了承を得て、維新と徹底抗戦の構えでいる。

  この日の荒れた法定協議会を維新の一部議員らは、自民、公明、共産を批判する材料として早くも宣伝材料に使いだした。しかし、あの法定協議会が都構想の終わりを伝えるものだと気づいた議員は何人いたのだろうか。4月の"最終決戦"まで、あと2ヶ月と少しである。 

|

2019年1月24日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

神戸、宮城、東京「つなぐ」1・17
‐あの日から24年…風化のさざ波‐

  ここ2、3年、東京のホテルで西の空に向かって手を合わすことが多かったが、今年は午前5時46分、民放の特別番組を見ながら大阪の自宅で黙とうをささげた。

  先週木曜日、阪神・淡路大震災は、あの日から24年を迎えた。私も何度も足を運んだ神戸市中央区、東遊園地のつどいで竹灯籠が描きだした文字は「つなぐ」だった。平成最後の1・17、いま多くの人がこの災禍をどうやって次世代につなぐのか、心を砕いている。

  言葉は適切かどうかわからないが、私はこの震災を災害列島元年と位置づけている。初めて大勢の人が極寒のなか神戸を目指したボランティア元年であったし、あれから国の耐震基準も定着した。国費による倒壊家屋の撤去、区画整理、防災公園。その後の中越、東日本、熊本、そして昨年の北海道。これらの災害にこの震災がつないだものは数知れない。

  一方でこの日、つどいに参加された方は5万人弱、また市民による追悼行事も53件と、いずれも過去最多時の半数以下となっている。町を一望できるビーナスブリッジで20年続いてきた追悼の調べはトランペット奏者が高齢化、今年が最後となった。風化のさざ波がじわりと迫っているのだ。

  ただ私は、それを決して悲観してはいない。ある意味で、それが時の流れというものではないかと思っている。

 そんななか、この日午後2時46分、HAT神戸では、東日本大震災で妻を亡くし、神戸からのボランティアに励まされてきたという男性をはじめ、宮城県名取市閖上地区のみなさん20人が市民とともに黙とうをささげた。

  そしてつどいから12時間後の午後5時46分、今度は東京・日比谷公園で、この朝、東遊園地の「希望の灯」から取った種火を空路、東京に運んで点火したキャンドルが1・17を描いていた。15歳のとき、神戸で被災した女性たちが「東京でも黙とうを」と呼びかけ人になって、初めて開いた鎮魂のつどいだった。

  宮城から神戸へ、神戸から東京へ。縦糸が風化していくのなら、たとえ最初は細くても、横糸を広く、長く、遠くに伸ばして―。

  来年は震災から四半世紀、新元号で迎える初めての1・17。神戸は何をつなぎ、何を伝えていくのだろうか。

  鎮魂のつどいから3時間後、テレビは口永良部島の爆発的噴火を伝えていた。

(2019年1月22日掲載)

|

2019年1月17日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

デタラメばかりの国のデータを質せ
‐19年 念頭に思うメディアの役割‐

  つくづく私たちは3等国家か4等国家で暮らしているのだということを思い知らされる。厚労省が従業員500人以上の全ての企業を対象に調査、失業や育児、介護などの給付金の支給額の指針としている「毎月勤労統計」が、実際には東京では3分の1ほどの企業しか対象になっていなかったことが発覚した。

  このため雇用保険などで本来の支給額より低い金額を受け取っていた人は延べ1973万人、金額は雇用保険で1人平均1400円になるという。あわてた国はその分を追加給付するとしているが、一体どうやって2000万人近い人にこの金を返すのか。手間を考えただけで気が遠くなる。結局は大半の人が泣き寝入りした消えた年金と同じことになるのではないか。

  思い起こせば、裁量労働制の実際の労働時間。外国人技能実習生の失踪理由。データはどれもうそ、デタラメ、インチキ、ごまかし。そんなとき、ふっと救われる毎日新聞の記事に出会って、今年最初の文化放送の番組、「くにまるジャパン極」で紹介させもらった。

  〈就学不明 外国籍1・6万人。100自治体〉の見出し。記事によると、全国100の自治体にアンケートしたところ、日本に住民登録し、小中学校の就学年齢にある外国籍の子どもの約2割、1万6000人が学校に通っているか確認できない「就学不明」になっているという。だが外国籍の子どもは義務教育の対象外なので、自治体の多くはそれらの子どもの状況を把握していないという。 記事を読んで昨年秋、外国人労働者が数多く暮らす群馬の中学校教師の言葉を思い出した。「3者面談といっても働いているお母さん、それに通訳さんの都合をつけていると、子どもをまじえて夜の8時9時の面談になることもあります。そのうち親も子も学校から遠ざかってしまって…」。

  こんな状況なのに、国は今年4月からいきなり34万5000人の外国人労働者を受け入れるという。果たして今度はこの外国人の実態に、どんな調査結果を出してくることやら。

  国が、役所が、こうだからこそ、毎日新聞のような地味だけど地道な調査報道がいぶし銀のように光って見える。メディアの役割をあらためて思い知らされる2019、年の初めである。

(2019年1月15日掲載)

|

2019年1月10日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

人間のなす業に手も足も出ぬ千年の古都
‐災害にも明るいご住職や宮司さんだが‐

  今年初めてのコラム、本年もどうぞよろしく。さて、お正月はいつもどおり京都。ただ、天皇退位まで4カ月ということもあってか、天皇と京都がより色濃く感じられる初春だった。

  ホテルからちょっと足を伸ばした紫式部源氏物語執筆地の盧山寺。寺史には「現在の本堂は光格天皇が仙洞御所を移築し」と、今上天皇からさかのぼること202年、生前退位された天皇のお名前が出てくる。拝観させてもらった寺社仏閣の沿革には勅命、ご下賜といった言葉が、さりげなくではあるけど何度も出てくる。

  ただ、そんな京都が去年受けた打撃は、私たち旅の者の想像をはるかに超えていた。9月の台風21号。周山街道を上った京北は北山杉が幾重にも倒れている。植林したとしても銘木になるには、数十年かかると聞く。その前に立ち寄った白椿で名高い平岡八幡宮は社領地の裏山で樹齢100年を超える古木を含め250本が根こそぎ倒れたという。足を運んだ寺社の多くが「緊急のご寄進を」の立て看板を出していた。

  6月に大阪北部を襲った地震。洛南のお寺では、鐘撞き堂の瓦がずれて除夜の鐘を見送ったという。

  だけどこんな深刻な事態に、ご住職も宮司さんも意外と明るい。「京都は千年の古都どす。その間、何百年、いや何十年に1度は大変な自然災害におうとるんです。それを乗り越えていまがあるんやないですか」。 「それよりも」と、住職たちを悩ませているのは今年のエトのイノシシにシカ、それにサルだ。イノシシはミミズを狙って寺院のコケを片端から掘り起こし、名庭園を台無しにする。シカは境内を踏み荒らし、サルは山里のカキ、ミカンを抱えて走る。

  もちろん数が増えすぎたこともあるのだが、イノシシやサルが食べる木の実をつける落葉樹のブナやナラを切ってスギ、ヒノキを植林。それがお金にならないとなると、そのまま放置林に。食べ物を奪われたイノシシやサルは人里を襲い、スギなどの若芽が大好きなシカは爆発的に増えた。

  台風や地震、自然がもたらす災害はたくましく、しなやかに乗り越える古都も、数十年、いや数年先しか見えない人間のなす業には手も足も出ない。そんなことを教えられた、平成最後の古都の初春だった。

(2019年1月8日掲載)

|

2018年12月27日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

ゴーン容疑者捜査こそクリーンに
‐東京地検のとった「禁じ手」‐

  事件捜査とスポーツを一緒にしたら叱られそうだが、取材者の目から見ると、よく似ていると感じることが多い。

  同じ勝ち試合にしても、みんなが「おおっ」と声を上げるようなフェアな試合。一方でルール違反にはならないくらいのラフプレーもまじえて、とにかく勝ちにいく。試合に負けたら元も子もないのだから、たしかにそれも、ありだ。 だが、天下の東京地検特捜が天下の日産前会長、ゴーン容疑者の身柄を取ったのだから、捜査の王道を行ってほしいのに、地検はゴーン容疑者を特別背任容疑で逮捕する策に出た。役員報酬の一部を報告書に記載しなかった虚偽記載の2度目の逮捕容疑について地裁が勾留を却下するという予想もしない事態に打って出た3度目の逮捕。苦肉のプレーであることは間違いない。

  私は虚偽記載があった過去8年分を5年と3年に分けて再逮捕したとき、ニュース番組で「同じ事件を小分けにして再逮捕する。それが特捜のやることか」と厳しく批判させてもらった。

  もちろんこれは理屈の上だが、50件も余罪がある泥棒を1つの盗みごとに逮捕勾留を繰り返していたら、3年以上身柄を押さえることだって可能なのだ。違法ではないが、絶対にやってはならない禁じ手だ。

  地検は1つを2つに割っただけというかもしれないが、5年分を起訴した段階で、残る3年は追起訴することとして、なぜその時点で本丸の特別背任で逮捕しなかったのか。だから海外メディアから「粗暴な人質司法」とまで言われるのだ。

  ただし間違えてもらっては困ることがある。私は、地検特捜の手法を批判しているのであって、決して捜査そのものを否定しているわけではない。日産の経営立て直しという大義名分のもと、2万人もの従業員に血涙を流させ、その裏で90億円もの報酬をひた隠し、投資で失敗しそうになると18億円もの損失を日産に付け替える。どこがゴッドハンドなのだ。カネカネカネにまみれたダーティ―ハンドではないか。だからこそ検察はクリーンに、フェアに勝負してほしいのだ。

  そして平成が去りゆく来年こそ、わが日本は、政も官も財界も、もちろん民間も、澄み渡るほどクリーンな風土であってほしい。
 少し早いのですが、みなさまどうぞ良いお年を─

(2018年12月25日掲載)

|

2018年12月24日 (月)

Webコラム 吉富有治

焦りの裏返し? 松井知事が出直し選挙に!? 党利党略の選挙など有権者には大迷惑

  大阪のクリスマスイブは早朝からきな臭い話から始まった。12月24日の毎日新聞朝刊は1面トップで「大阪知事・市長 辞職意向 統一選同日公算大 都構想住民投票問う」という派手な見出しをつけ、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長が来年12月の任期満了を待たず、来年春の統一地方選前に辞任するという記事を載せていた。記事のとおりなら統一地方選は府知事選と市長選のトリプル選挙になる。全国でもあまり例のない事態だろう。

  松井、吉村の両トップが任期前に辞職し、統一地方選と同日に出直し選挙することは以前から噂されていた。松井知事や周辺がせっせと噂をばらまき、担当記者などにも出直し選を臭わせていたからだ。当然、大阪の自民党や公明党、共産党、また市民団体や各種労組もその情報はつかんでいた。ただ、その段階では真偽不明の未確認情報だったが、今回の毎日新聞の記事で本決まりになったと私はにらんでいる。トリプル選挙は、まず実施されるだろう。

  私は前回12月21日のコラムで、いわゆる大阪都構想の住民投票を来年夏の参議院選と同日におこなうため、あの手この手で松井知事が公明党を揺さぶっていることを記事にした。また公明党にも住民投票のスケジュールをめぐって知事に弱みを握られているものの、表面的には同日選には応じない強気の姿勢であることも伝えた。今回、公明党はその姿勢を崩さなかったようだ。だから毎日新聞が伝えたように、破れかぶれになった松井知事が統一地方選との出直し選を言い出した。
 
  もっとも、毎日新聞の記事は出直し選のみに重点が置かれているのではない。最大のポイントは「このため、ダブル選は松井知事、吉村市長の出直し選とは限らず、吉村市長の知事選出馬案など、別の候補になる可能性もあるという」の部分。つまり出直し選ではなく、変則的な選挙になる可能性が高いのだ。

  予想されるのは、吉村市長は府知事選へコンバート。一方、松井知事は来年夏の参院選大阪選挙区に維新2人目の候補になるというものだ。このときは維新も市長選に新たな候補者を出す必要に迫られる。そうでもしないと、かえって維新に逆風が吹く。なぜなら、統一地方選とのトリプル選挙で松井知事が知事選に出馬し、吉村市長が市長選に出馬してダブルで再選しても、公職選挙法の規定で約7ヶ月後の来年11月には再び府知事選と市長選のダブル選挙がおこなわれることになる。これほど税金の無駄使いもなく、有権者から維新が批判を浴びるのは間違いない。それを避けるために両トップは変則的な選挙に打って出るのだ。これなら任期は一からスタートだからだ。

  もし松井知事が参院選の候補になれば、大阪における過去の国政選挙での維新の総得票数を見る限り、維新は2名の候補者を当選させることは十分に可能だと思われる。しかも、松井知事は2025年大阪万博の誘致を成功させた功労者だと世間は見ている。そうなると定員4名の大阪選挙区の中で割を食うのは2名の候補者を出すことを決めた自民党、そして候補者1名を応援する公明党だろう。もし維新が2名を当選させた場合、残りは2議席。自民党と公明党の計3名の候補者が残り2議席を争うことになるが、共産党や立憲民主党などの野党が1名でも当選者を出すようなら、公明党はさらに苦しい戦いを強いられる。

  公明党にとって次の参院選に勝つことは支持母体である創価学会からの至上命令。絶対に負けるわけにはいかない。そこを熟知した松井知事は「それが嫌なら参院選と同日の住民投票に賛成しろ」と公明党に迫る作戦なのだ。

  さて、一般的に知事や市長、町長らの「出直し選挙」というのは単なる首長選挙にとどまらず、信任投票の意味が強い。各自治体でおこなわれた過去の出直し首長選をみても、「私はこのような政策を実行したいのだが議会の反対に遭ってできない。そこで出直し選挙で有権者の皆さんの信任を得たい」というものが大半だ。だから先にも書いたように公職選挙法でも例外を設け、出直し選に出馬した前首長が当選した場合、その任期は選挙前のものと変わらないと定めている。一般の首長選と違って出直し選は信任投票の性格が強いから、わざわざ任期をリセットする必要はないだろうという判断からである。

  もし松井、吉村の両首長がそろって来年春の出直し選に臨んだとして、その根拠とはいったい何か。明らかに住民投票の実施時期をめぐる問題だろう。両首長が考える日程に維新以外の政党が反発し、だったら出直し選挙で民意を問い、両首長が訴える日程の信任を得るというものである。なるほど、これならまだ大義名分はある。

  だが、松井知事と吉村市長が任期前に辞任したとして、その結末が吉村市長は府知事選にくら替え、松井知事は参院選に出馬だとしたらどうなるのか。統一地方選で維新に追い風を送ることが本音だとしても、客観的に見れば両者は有権者から信任を得るために辞めるのではなく、首長の職を途中で放り投げたことになる。これでは大義名分もヘッタクレもない。自分たちの都合で選挙をおもちゃにしているだけの愚行だろう。

  なお、この事態について公明党大阪本部の関係者は「勝手にどうぞ」と冷めた目で突き放し、自民党大阪府議団の花谷充愉幹事長は「松井知事らの出直し選挙は想定済み。むしろ統一選との同時選挙は維新を終わらせる絶好のチャンスだ」と挑発に応じる構えだ。

  松井知事の党利党略にも呆れるが、そんな愚行につきあわされる大阪府民、大阪市民こそ大迷惑な話である。 

|

2018年12月21日 (金)

Webコラム 吉富有治

出直し知事選を言い出した松井知事 繰り返される大阪のドタバタに有権者もうんざり!?

  大阪府の松井一郎知事が来年夏の参院選と同日に、いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票を実施したいと言い出した。それが無理なら、そのときは自ら知事を辞職し、来年春の統一地方選と出直し知事選のダブル選挙に出ることも選択肢の1つだと宣言した。

  松井知事のこの発言は12月11日付けの産経新聞のインタビューに答えたもので、産経は「万博誘致成功“追い風”狙う維新、強気発言で波紋」という派手な見出しをつけていた。

  もっとも、「強気」というのは勝算があってこそ。勝つ見込みがあるから強気な発言になるのであって、そうでなければ虚勢でしかない。私の見るところ、松井発言は強気と言うよりも、むしろ虚勢に近いと思っている。

  2025年万博の誘致に成功し、勢いに乗った松井知事。この機に乗じて念願の大阪都構想を一気に進めようという魂胆なのだが、あいにく万博誘致の成功は追い風になっていない。最初こそ世間も歓迎ムードだったが、その後はメディアも検証報道ばかり。「約2兆円と言われる経済効果や約2800万人の総入場者は大風呂敷を広げすぎではないのか」「1250億円の会場整備費は2倍、3倍に膨れ上がらないのか」などと万博に疑問符をつけることが増えてきた。これには松井知事も誤算だったようだ。

  そこに加えて、大阪維新の会が掲げる看板政策「大阪都構想」が頓挫しかかっていることもある。

  維新の会の議席は大阪府議会、大阪市議会ともに過半数には満たない。そこで公明党の協力を仰ごうとアメやムチを与えているわけだが、ここに来て同党の態度がどうも煮え切らない。そこで、公明党を揺さぶるため冒頭の「強気発言」に出たのだ。

  公明党にすれば参院選の勝利は支持母体からの絶対命令。そこに住民投票をやれば党員や支持者の活動が分散され、勝てる勝負も勝てなくなる。公明党の弱点を理解している松井知事は、「だったら住民投票に賛成しろ」と同党に迫った。だが、今のところ公明党は表面的には無視を決め込んでいる。

  過去を振り返れば、2015年5月17日の住民投票では反対票が賛成票を僅差で上回り、都構想は頓挫した。ところが、2015年11月22日におこなわれた大阪府知事選、大阪市長選のダブル選挙で維新の松井知事と吉村洋文市長が自民党が推す候補を破って当選。両名は「民意は再度の住民投票を望んでいる」として、都構想の制度設計をおこなう大都市制度協議会、いわゆる法定協議会を再開させた。

  さて、2度目の法定協議会を開いたものの、大阪市を廃止して特別区を作る案は前回に否決されたものと大差なし。維新は「バージョンアップした都構想」と宣伝するものの、どこからどう見ても中身はバージヨンダウン。熱心な維新の支持者ですら「お粗末すぎて話にならん」と言い出すものまで現れる始末である。

  焦った松井知事や維新は、都構想に"厚化粧"することを思いついた。第三者から「都構想の経済波及効果はウン兆円」とお墨つきをもらえれば、反対派を封じ込め住民投票にも弾みがつくと考えたのだ。そこで大阪市の税金を使ってシンクタンクに試算を作らせることを提案し、さっそく入札公募が実行された。

  ところが、1度目の入札は応募ゼロ。大手のシンクタンクからは無視された。2度目の公募でようやく決まったものの、相手はシンクタンクではなく、なぜか学校法人嘉悦学園。しかも同校から出された都構想の経済効果は「約2兆円」と、松井知事や維新が大喜びする内容だった。

  だが、大阪府議会と大阪市議会では現在、嘉悦学園が出してきた試算の信ぴょう性に疑いの目が向けられている。維新以外の会派からは「試算の前提になった数値に疑義がある」などとして、一部の会派からは嘉悦学園の学者を参考人として議会に呼んではどうかといった話まで出ている。

  このような背景の中で、公明党は都構想に対して冷たい態度を取り続けている。法定協議会では都構想に対して批判的な意見が相次ぎ、嘉悦学園が出してきた試算にも懐疑的だ。この状態が続けば、法定協議会で都構想の制度設計は不可能。住民投票をする前に法定協議会の段階で頓挫する可能性がある。

 ただし、松井知事にまったく勝算がないわけでもなさそうだ。府議会や市議会の各会派の幹部を取材してみると、住民投票の実施時期をめぐって松井知事は公明党の某議員と何らかの密約を交わしていて、それが同党の「弱み」になっているとの話も聞こえてくる。これには公明党も少々頭を抱えているという。

  とは言え、仮に公明党に負い目があったとしても裏取引に応じるべきではない。住民投票をやるかやらないかは政治の裏取り引きで決めることではないからだ。あくまでも法定協議会の場で決めることであって、その大前提として都構想の制度設計がまともか、まともでないかが大切だろう。

  目的達成ためには手段を選ばない松井知事。それを仕方がないと見るのか、やりすぎだと眉をしかめるのか。またまた繰り返される大阪のドタバタ劇。試されているのは議会の良心だけではない。私たち有権者の見識もまた、問われているのである。

|

«日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏