2019年4月18日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

紙幣刷新5年前の発表…魂胆見え見え
‐手詰まりアベノミクス苦肉の策‐

 新聞、テレビが大騒ぎするのは、まあ仕方がないとして、週刊誌は早速「何の意味があるのでしょうか」と聞いてきた。毎日新聞や日経がいち早く報じ、朝日、読売が後れをとった1万円札などの紙幣刷新。私は「いよいよ手詰まりのアベノミクス。政権は禁じ手とまでは言わないが、こんな苦肉の景気対策を出してきた」と、あちこちでコメントさせてもらった。

 1万円は渋沢栄一、5000円は津田梅子、1000円は北里柴三郎に、それぞれお札の肖像画を一新する通貨刷新。ただし発行するのは5年先、2024年だとしている。20年ぶりのこの刷新。だけど前回は発行の2年前、前々回は3年前の公表だったのに、今回はなんと5年も前の発表。なぜなのか。魂胆が見え見えではないか。

 目の前の衆院補選、7月には参院選。なのに景気も物価も一向に上向く気配はない。そこに10月の消費税アップが冷水をぶっかける。さらに来年7月の東京五輪のあと景気はどっと落ち込み、安倍政権終焉のころ、景気は鍋底を這っている危険性もある。それはまずい。けど特効薬はない。ならば、紙幣刷新でちょっと目先を変えてみようというのだ。

 もう1点、政府は後を絶たない通貨偽造、偽札対策のホログラムを強化するという。だけど偽札の件で偽情報を流してはダメだ。通貨偽造は国を揺るがす重大犯罪なので最高刑は裁判員裁判の対象となる無期懲役。

 だが裁判員制度が始まって今年で10年。調べてみると2年前、大阪・西成の自宅で1万円札を両面コピーしたオヤジが知人にこの偽札で缶チューハイ2本を買わせた事件が1件、たしかに裁判員裁判になっていたが、判決は無期どころか執行猶予。どこが後を絶たない通貨偽造なんだ。うそばかりつくんじゃない。

 それに、福沢さんから渋沢さん、一葉さんから梅子さん、野口さんから北里さん。だけど、長い間、顔を合わせていたせいか、なんとなくこのままの方がいいなあという気がしてならないのは私だけだろうか。もしみんながそう思って、いまのお札を大事にしたら、景気浮揚には逆効果だ。

 墜落寸前のアベノミクスをなんとかしたいという気持ちはわからなくはない。だけど古来、日本に「刷新」という言葉はあっても「札新」なんてものはないのだ。

(2019年4月16日掲載)

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2019年4月11日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

バレないサボり方を後輩に伝授
‐施行の働き方改革関連法

 春4月、街にはちょっとぎこちない新入社員のスーツ姿が目立つ。そしてテレビやラジオはリニューアルの季節。少し模様変えしたABCテレビ(大阪)の夕方の番組、「キャスト」の出演を終えて車に乗ると、カーラジオはNHKの定時ニュースに続いて「ニュースにプラス」。この日のテーマは、4月1日施行の働き方改革関連法だった。

 ズバリ、「残業は減らせるか」というキャスターの問いに、解説委員は「減らせます。今回は違反企業に刑事罰が科されるんです」。たしかに月に100時間といった過酷な残業に、あとを絶たない過労死。関連法では、まず大企業から違反に刑事罰が科せられる。

 その流れに私は、おつき合いの深い民放のテレビ、ラジオ局の管理職が額にしわを寄せている光景を思い浮かべた。視聴率を上げろ。事件は落とすな。その一方でノー残業、夜討ち朝駆けもほどほどに。「一体どうせいちゅうんや」という舌打ちを何度聞いたことか。

 そんなとき、私は「それなら働き方より、さぼり方を伝授したらどうなの」と、半ばあきれられながら、結構本気でアドバイスしている。新聞社の、特に社会部だったら、どの社だろうと先輩方のさぼりの武勇伝にはこと欠かないはずだ。

 まっ昼間の映画館。上映が終わって照明がつくと、社会部のあの顔、この顔。おっとまずいぞ、あれはデスクじゃないか。

 ポケットベルの時代。そのポケベルは地下に電波が届かない。「オイ、何してるんや」「ハイ、地下街の喫茶○○で所轄署の係長とずっとお茶してまして」。

 このあたりは、まだまだカワイイ。二日酔いで日が高くなるまで朝寝を決め込んでいると、ポケベルの音。跳び起きて折り返すとデスクの怒鳴り声が響く。「やっとつかまった。で、お前いまどこや?」「ハイ、K署の刑事課長と朝からすっかり話し込んでましてね」「な、なんやと。それでお前、熱うないんか」「ハア? この真冬に暑いって言われても」「アホ、いまそのK署が燃えとって大騒ぎになっとるんじゃ」

 入社式に続いて、配属部署の歓迎飲み会。諸先輩から仕事について学ぶのもよし。だけど忘れずにバレないさぼり方も伝授賜る。それが花に浮かれた私が諸君に贈る働き方改革なのです。

(2019年4月9日掲載)

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2019年4月 4日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

跡取りいない漁業…被災地は課題抱え新時代へ
‐「スーパーJ」卒業作品に訪ねた‐

  新しい元号は、きのう「令和」と発表された。いよいよ来月1日には、新天皇のご即位。御代替わりである。

  私事になるが、そんな節目のとき、私も18年にわたってコメンテーターをつとめてきたテレビ朝日の夕方ニュース、「スーパーJチャンネル」を3月末で降板させていただいた。

  さて、最後の出演となった先週水曜日の特集は、いわば私の卒業作品。迷うことなく、宮城県南三陸町の千葉正海さん(63)を訪ねた。千葉さんは東日本大震災で被災。カキ、ワカメの養殖場や新築したばかりの自宅、何もかも津波で流された。だけど長男の拓さんや当時5カ月だった初孫の彩音ちゃん、家族はみんな無事だった。

  震災直後、避難所の千葉さんと中継でつないだのがご縁で、荒涼とした浜が広がる震災1年目、初夏を告げるシロウオが帰ってきた3年目。これまで10回近く千葉さんをお訪ねした。
 
  拓さんの船、「拓洋丸」で突き進んだ、春まだ浅き志津川湾。クレーンで揚げたカキ殻にはプリンプリンのカキが詰まっている。肉厚のワカメも、いまが旬。あれから8年。海の恵みは震災前をしのぐところにまで回復しているという。

  「おっ、とんでもなく運さよがったぞ」。千葉さんが指さした先。養殖イカダの上に、漆黒の羽、首に白のリング模様。絶滅危惧種で天然記念物のクロガンが3羽、4羽。津波が海底の砂まで持っていった湾は昨年10月、水鳥など湿地や浜辺の水生生物の保護を目的としたラムサール条約の指定地になったという。

  「あれほどの命を奪ってしまった海だけんど、いままた命さ運んできてくれるんだぁ」。その海に生きる千葉さんは8年の間に孫も3人に増えた。そんな千葉さんが一瞬、顔を曇らせる。

  いま千葉さん親子がグループを組んでいる2人の漁師は70代。ともに跡取りがいないので、遠くない将来、廃業するという。そうなると漁場や港の管理、漁協の役員、どれも拓さん1人の上にのしかかる。だが、この問題は、個人の力ではどうすることもできない。加えて、それは被災地のどの町も村も同じ状況だという。

  自然は再び恵みを運んできてくれても、今度はそれを受け止め、応えていく人がいない─。被災地は重いい課題を抱えながら、令和の時代へと進んでいく。

(2019年4月2日掲載)

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2019年3月29日 (金)

Webコラム 吉富有治

「府市合わせ」はどこまで本当か 都構想が争点の大阪統一地方選がスタート

 

  統一地方選の前半がスタートした。道府県議選の告示は3月29日。その先陣を切り、6つの道府県と11の政令市で知事選と市長選がすでに各地で始まっている。

 

  知事選と市長選の中でも特に注目されているのが大阪府知事選と大阪市長選、いわゆる大阪ダブル選だろう。大阪維新の会の代表で前大阪府知事の松井一郎さんと、同じく前大阪市長の吉村洋文さんが任期を待たずにそれぞれ辞任。知事と市長を入れ替えて出馬するという奇策に出た。そこに維新政治を終わらせようと立ち上がったのが、自民・公明が推薦する元大阪府副知事の小西禎一さんと前大阪市議の柳本顕さん。今日もまた両陣営の舌戦が大阪の街で繰り広げられている。

 

  このダブル選で問われている最大の争点は、いわゆる大阪都構想の是非だ。松井、吉村の両名は都構想の再チャレンジを掲げ、小西、柳本の2人は都構想のピリオドを訴えている。関西のテレビ各局も両陣営の討論会を相次いで企画し、電波を通じて4者の論戦がお茶の間に届けられた。

 

  さて、3月25日に放送されたMBS毎日放送のニュース番組「VOICE」で、松井さんと吉村さんは「"府市あわせ"をなくす。そのためには都構想が必要だ」と訴えていた。府市あわせとは、大阪府と大阪市が歴史的に犬猿の仲の、いわば不幸せな状態を指し、これを「府市あわせ」と語呂合わせした造語である。

 

  「いままでは松井知事と吉村市長の両者が同じ方向を見ていたので府と市は対立せずに政策は進み、大阪も発展した。だが、これまでの知事と市長は互いの意見が衝突し、利害の調整がうまくいかなくなって"府市あわせ"が起こった。だから属人的な要素を取り除き(市長の廃止)、制度的に人(知事)を一本化する必要がある。それが都構想だ」(松井、吉村)。 

 

  もっともな話に聞こえるが、ちょっと待ってほしい。これではまるで大阪府と大阪市がずっと"冷戦状態"のような印象を受けるが実際は違う。「府市あわせ」という言葉だけが独り歩きしている。

 

  大阪府と大阪市に限らず、横浜市や名古屋市など、戦後から府県と政令市の関係が決して良くなかったのは事実である。特に近年、大阪府と大阪市とで対立が目立ったのは2000年。当時の太田房江大阪府知事が府と市を合併させる「大阪都構想」を発表し、対して大阪市の磯村隆文市長(当時)が猛反発。逆に市の権限を強める「スーパー政令市構想」を主張し、両者は激突した。ただし、これは制度をめぐる論戦であり、大阪市と大阪府が決別したということではない。 

 

  松井さんらが言う「府市あわせ」がクローズアップされたのは2004年末に発覚した大阪市の厚遇問題や第3セクター問題あたりが発端で、その典型が「旧WTCビル(現・大阪府咲洲庁舎)」と「りんくうゲートタワービル」による高さの競い合いだった。

  企業の誘致を目指すために大阪市は住之江区に旧WTCビルを建て、一方、大阪府は関空の開港にあわせて対岸の泉佐野市にりんくうビルを建設。ともに高さは256メートル、奇しくも仲良く経営破綻した。

 

  拙著『大阪破産』にも記してあるが、当時は府市ともに無意味なライバル意識から高層ビルの高さを競ったのは事実だ。ただし、高さを競い合ったが、それが原因で両ビルが破綻したわけではない。破綻はバブル崩壊と需要予測の見誤りで、「府市あわせ」と呼ぶにはあまりに低レベル。これが原因で府と市が激突したわけでもない。

 

  ここ10年で「府市あわせ」が顕著になったのは、じつは橋下徹知事の時代である。その典型が、府と市の水道事業の統合だ。それまで仲の良かった橋下知事と平松邦夫市長(当時)の両者が、この問題をきっかけにケンカ別れすることになった。

 

  当初、橋下さんと平松さんは水道事業の統合で合意。ところが取水から浄水、各家庭や企業、工場などへ給水を一貫しておこなう大阪市の水道事業に対して、府の事業は府内の市町村へ水を卸すこと。料金体系も違う。両者の事業が根本的に異なることは専門家からも指摘され、平松さんも問題点は橋下さんに伝えていたという。ステップを踏まずに統合を急ぎすぎると、失敗する懸念は平松さんも持っていたようなのだ。

 

  ところが、何を焦ったのか橋下さん、とにかく市町村の同意を得ようと説得したが、水道料金などの問題をめぐって猛反対に遭い、結局はご破産に。このとき平松さんと話し合って再調整すればよかったのに、なぜか橋下さんは大阪市に逆ギレし、平松さんとも絶縁。これ以降、橋下さんの口からマスコミを通じて「大阪都構想」「府市一本化」といったイメージが流され、「府市あわせ」が演出された。

 

  番組の中で小西さんと柳本さんが「これまで府市がいっさい話し合わなかったというのはウソ。多くの事業で協力してあってきた」というのは事実で、関空や70年大阪万博などのビッグプロジェクトでは府市は手を取り合ってきたのだ。

 

  松井さんや吉村さんが言う「府市あわせ」とは多くは橋下時代のものであり、私から言わせれば、この府市の関係悪化は橋下さんによって意図的に演出されたものでしかない。「府市あわせ」だけを一般化するのは、かなり無理がある。

 

  それでも松井さんと吉村さんが「府市あわせ」を口にするのは、ハナから府と市をまとめる意思も能力もないように聞こえ、そこを巧妙に隠すため「府市あわせ」というロジックを使い、大阪市の廃止を訴えているとしか思えない。

 

  仲間となら話し合うが、それ以外なら府と市の話し合いなど御免こうむる。だから大阪市も廃止する -。そんな人たちが出馬する大阪府知事選と大阪市長選。さて、有権者はどう判断するのだろうか。

 注目の選挙は4月7日に投開票される。

 

■橋下知事時代の年表

 

▼2007年11月、元MBSアナウンサーの平松邦夫さんが大阪市長選で勝利。第18代大阪市長に就任
▼2008年1月、弁護士でタレントの橋下徹さんが大阪府知事選で勝利。第17代(公選)大阪府知事に就任。
▼橋下、平松の両名は故・やしきたかじん氏を共通の友人とし、やしき氏の仲介でしばしば会食するほどの仲に。この間、府市の関係は良好だった。
▼同年8月、橋下知事、大阪市の負の遺産と呼ばれたWTCビルを買い取って大阪府の新庁舎にすると宣言。この発言がきっかけとなり、これまで良好だった自民党大阪府議団から反発を受ける。
▼2009年2月、橋下知事はWTCビルの購入予算と新庁舎への移転条例案を府議会に提出。しかし自民党などの反対にあって頓挫(後に買い取りだけ了承された)。このとき、購入に賛成だった自民党の松井一郎府議ら若手6人が党執行部と対立し、別会派「自民党・維新の会」を立ち上げる。
▼2009年9月、橋下徹知事と平松邦夫市長が府の水道事業を市が受託するコンセッション方式への移行で合意。
▼橋下知事、 水道統合をめぐって府内の市町村への説得に失敗。これをきっかけに平松市長とも絶縁。府市の関係も冷える。当時、わたしの取材を受けた平松市長は「なぜ橋下知事からケンカを売られたのか意味がわからない」と語っていた。
▼2009年9月に民主党(当時)の鳩山由紀夫内閣が発足し、以降、橋下知事は民主党にすり寄る。これに自民党が反発、両者は決裂する。
▼2010年4月、松井府議らは自民党・維新の会を発展解消させ「大阪維新の会」を立ち上げる。代表に橋下知事が就任し、全国初の首長ローカル政党が誕生。このときから維新は大阪市を廃止する「大阪都構想」を目玉政策に掲げる。
▼2011年4月、統一地方選で橋下旋風の追い風で維新の会が躍進。府議会で単独過半数、市議会で第一会派となる。
▼2011年11月、大阪府知事選と大阪市長選で橋下さんが平松さんを破り大阪市長に、大阪府知事に松井府議がそれぞれダブル当選。

 

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2019年3月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

さまざまな思い刻み込んだ1時間23分
‐イチロー引退会見‐

  8回、ショートへのゴロに全力疾走したもののアウトとなってベンチに引き揚げる、その背中に私は2005年秋、シアトル・セーフコフィールドのイチロー選手を重ねていた。まだ若手の選手2、3人しかいない外野にイチロー選手の姿があった。柔軟体操に屈伸、そして強弱をつけた走り。他の選手と一切言葉を交わさず静かな時が過ぎていく。

  孤高という言葉が浮かぶ、その姿に、球場名物の巻きずし、イッチロールが手にあることも忘れて見とれていた。

  先週木曜日、そのイチロー選手が引退を表明した。あのときの孤高の姿とは打って変わって1時間23分に及ぶ深夜の記者会見。翌日、私たちが届けたテレビニュースも新聞も、イチロー選手一色に染まった。1つひとつの言葉があるときは静かに、あるときはレーザービームのように胸に届く。

  深夜まで球場に残ったファンの姿に「ああいうものを見せられたら、後悔などあろうはずがありません」。そんなファンへの思いを「人に喜んでもらえることが一番の喜びに変わった」。この言葉に長年、阪神・淡路大震災を取材してきた私は、「がんばろう KOBE」のワッペンをつけて1995年リーグ優勝、96年日本一を届けてくれたオリックス・ブルーウェーブのイチロー選手がよみがえる。

  なかなか受け入れてもらえなかった大リーグ。だが、「(自分が)外国人になったことで人の痛みを想像したり、いままでになかった自分が現れた。その体験は未来の自分の支えになる」。野球に限らず、子どもたちの未来に思いをはせたのだろう。「人の2倍も3倍もがんばろうなんて無理。自分のなかで、もう少しがんばってみようというのが大事なのではないか」。

  ワンちゃん命の私には、たまらないやさしい笑顔もあった。17歳になった愛犬一弓に「懸命に生きているんですよね。俺、頑張らなきゃと本当に思った」。

  お疲れさまも、ご苦労さまも、あてはまらない野球人生。最後は「じゃあ、そろそろ帰りますか。ねっ」。

  別れと旅立ちの3月。その一方でイチロー選手が引退を表明した日、列島にこの春一番の桜が開花した。1人1人の胸にさまざまな思いを刻み込んでイチロー選手は、去って行った。

(2019年3月26日掲載)

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2019年3月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

政策も理念もはるかかなたに吹っ飛ぶ
‐大阪クロス選挙‐
 あってほしくないことだが、私たちの仕事がにわかに忙しくなるのは、事件、事故、そして災害のときだ。ただ、ここ1カ月ほどはいささか違う。私だけでなく、自治体や地方政治に詳しい同じ事務所の吉富有治記者も新聞、テレビ、ラジオの取材依頼、インタビューと大忙しだ。
 もちろん話題は、大阪府知事と大阪市長が入れ替わって立候補するクロス選挙。来月の統一地方選に合わせたこの奇策の裏に、4年前に否決された大阪都構想があることは全国の人もわかっている。だけど「都構想ってとっくの昔にケリがついたんじゃなかったの?」と、みなさん、疑問符だらけ。もちろん大阪の人だって私の知る限り、大半が「いいかげんにせえや」だ。
 そもそもクロス選挙になったのは、松井一郎知事と吉村洋文市長の大阪維新の会と公明党の大げんかがきっかけ。2015年、大阪都構想をめぐる住民投票で敗れた維新は「負けは負け」と言っていたのに、僅差だったこともあって未練タラタラ。結果、公明と再度、住民投票に持ち込む密約まがいの合意文書を作成した。
 ところが、その実施時期をめぐって今年4月の統一地方選と主張する維新の松井・吉村組に対して公明は、地方選と夏の参院選、そこに住民投票ときては支持母体がもたない。「実施は秋の約束だった」と譲らず、ついに維新側は「内緒の合意をバラすぞ」と、どう喝まじりの立ち回り。結果、知事、市長が入れ替わることで互いに任期がこの先4年となるクロス選挙で「信を問う」ことにしたという。
 あきれるばかりの選挙に、私は大阪の毎日新聞から「今度の選挙を“大阪○○選”と命名すると─」と依頼されて“どの面下げて選挙”と名づけさせてもらった。政策も理念も、はるかかなたに吹っ飛んだこの選挙。今年は統一地方選に、参議院選、衆議院補選と並ぶ亥年選挙の年。のっけからこんな低次元の選挙にはつきあってられないといった空気になることが怖い。
 それにしても維新は大阪で公明と大げんかしたうえ、自民とも来る選挙で全面対決。なのに中央政界に目を移せば、維新も公明も、ともに安倍自民を支える密約ならぬベタベタの蜜月関係。この3者、もし打ちそろって大阪に来ることがあったら、果たして“どの面下げて”来はるんやろか。
(2019年3月19日掲載)

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2019年3月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

復興 何ができなにができないか峻別する時
‐福島・山木屋地区 浪江町 双葉町を訪ねる‐

  東日本大震災は、3・11、きのう発生から8年を迎えた。それに先立って2月末、毎年取材を続けている福島県川俣町山木屋地区、そして浪江、双葉町を訪ねてきた。

  例年だとこの季節、特に山間部の山木屋は膝のあたりまでの雪に覆われているのだが、今年は雪はなく、田畑の土が見えていた。その分、妙な言い方だが、復興の地肌というか地金が見えてきた気がするのだった。

  一時は400人が避難していた町営グラウンドの仮設住宅は最後の2世帯2人が3月末には転居、閉鎖になるという。だけど仮設から避難指示が解除になった山木屋に戻った人は少なく、かつて1200人が暮らした地区で、いま生活している人はわずか300人だ。

  去年、このコラムでも紹介した地区の山木屋小中学校は、小学6年の児童5人がこの春卒業。地域外の中学に通学するうえに新入学児もいないことから、心配した通り、開校1年で小学校は休校、中学も来年度末には生徒がいなくなるという。じつに11億円をつぎ込んだ屋内プールつきの学校。6人の先生方は学校見学会を実施して新入生の獲得に必死だと聞いたが、私の率直な思いは、「そろそろ見切りをつけたら」だった。

  地区の区長で仮設住宅でも自治会長をしてきた広野太さん(69)のお宅。昨年までは雪に覆われていた畑に4、5㍍の高さまで原発の除染土などを詰めたフレコンバッグが積まれ不気味な光景になっていた。だが、今年はきれいに撤去され、雪のない畑に地肌が見える。ただ、広野さんは「全町避難が続く双葉町の中間貯蔵施設さ、持って行ってくれたんだ」と口が重い。

  その言葉に押されるようにして訪ねた双葉町中野地区の中間貯蔵施設。施設に入りきらない黒いフレコンバッグが二重三重に取り囲んでいる。まわりはひしゃげた車、家電製品にタイヤ。土ぼこりが舞うなか、ただただ荒涼たる風景が広がる。だが、国は東京五輪までに、この地にアーカイブ(記録庫)や産業交流センター、カフェを開設するという。

  もちろん成功することを願うが、果たして山木屋の小中学校のようにならないのか…。復興計画の何ができて、何ができないか。いまはそれを峻別する時ではないのか。地肌の見えた福島は、そのことを訴えているような気がするのだった。

(2019年3月12日掲載)

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2019年3月 9日 (土)

Webコラム 吉富有治

問われるのは有権者の良識ある市民目線
 ~クロス選挙は脱法行為の疑いも~

  松井一郎大阪府知事(大阪維新の会代表)と吉村洋文大阪市長が一か八かの奇策に出た。それぞれ任期を半年以上も残して知事と市長を辞職し、4月の統一地方選にあわせて知事と市長を入れ替えるクロス選挙に打って出る。両氏は8日夕、記者会見してそれぞれの辞任を正式に表明した。 

 今回のクロス選挙の背景にあるのは大阪維新の会と公明党との対立だ。つかず離れずの関係だった両党が、ここに来て戦闘状態に入ってしまったからだ。

  大阪市を廃止して特別区を設置する、いわゆる大阪都構想をめぐって維新と公明党は当初、密約を結ぶような仲だった。その密約の中身とは、都構想の制度設計を議論する法定協議会の設置と住民投票を実施する、この2点。2015年5月17日の住民投票では反対票が賛成票を上回ったものの、同年11月の知事選、市長選のダブル選挙で維新の会が圧勝。維新の勝利を受け、公明党も2017年4月17日に密約文書にサインし、法定協議会は2017年6月末に再スタート。このまま約束は実行されるかに思えた。
 
  ところが昨年末、4月の統一地方選に合わせて住民投票を実施したいと迫る松井知事に公明党が反発。統一地方選に住民投票をぶつけられると投票率が上がり、組織票頼みの公明党は苦戦すると考えたからである。

  この対立をきっかけに両者の関係は一気に冷めることになる。3月7日の法定協議会では両党の議員が激しく言い争い、決裂は決定的になった。法定協議会の終了後、松井知事と吉村市長は「だまされた」「死んでも死にきれない」などと公明党を激しく非難し、クロス選挙に出て同党を牽制する作戦に出たのだ。

  一方、このクロス選挙に疑問を投げかけたのが3月5日の毎日新聞社説だった。「大阪知事・市長の策略 地方自治への二重の背信」と題した社説は「公職選挙法の規定によると、松井、吉村両氏がそのまま出直し選挙で当選しても11月と12月までの任期は変わらない。自分の都合に合わせて新たな任期を防ぐのが法の趣旨だ」とし、「ポストを入れ替えて当選すれば両氏とも4年の任期を得る。一種の脱法行為ではないか」と一刀両断した。私も同意見である。

  まず、クロス選挙は「出直し選挙」ではない。出直し選挙とは一種の信任投票で、知事や市長が自ら掲げる政策の賛否について公職を賭して有権者に問うことである。そのため選挙で復職しても任期は辞める前と変わらない。半年残しての辞任なら、当選しても任期は4年ではなく半年である。これが公職選挙法第259条2項の規定である。

  そもそも同法259条2項の立法趣旨は、知事や市長が意図的に辞任し、いたずらに任期を伸ばす悪意のある政治利用を防ぐことを目的としている。実際、過去には知事や市長が敵陣営の擁立候補が決まらないうちに不意打ち的に辞職し、「首長選は現職が有利」のセオリーを利用して辞任、当選を繰り返しては任期を伸ばしていた事例が国内でもあったという。そのため首長選挙の悪用を防ぐために公職選挙法を改正した経緯がある。

  さすがに今回のクロス選挙は同法も想定しておらず、抜け穴とも言える。抜け穴だが、立法趣旨を逸脱しているのは間違いない。だから毎日新聞社説は「脱法行為だ」と断じたのだ。

  こうした芸当ができるのは知事と市長が共に同じ維新に所属する政治家だからで、片方が非維新の首長なら不可能だったはずだ。松井、吉村の両首長は「共に同じ方向を向いているから、知事と市長を入れ替えても変わらない」と言うが、別の見方をすれば脱法行為の温床が存在することでもあろう。同じ仲間の首長同士、悪知恵が働けば、その"効果"もダブルになるというわけである。このような問題を防ぐためにも、国会は急ぎ公職選挙法の一部改正に取り組んでもらいたい。
 
  それ以前に、クロス選挙をやって仮に"松井市長"と"吉村知事"が誕生したところで、法定協議会に対して何らかの処分や命令を出せるわけでもメンバーを入れ替えられるわけでもない。公明党が維新に頭を下げない限り以前と何も変わらないのだ。いったい何のために辞めるのか、誰が考えてもさっぱりわからない。

  辞める意味も大義もなければ、法の趣旨をねじ曲げる脱法行為の疑いさえある今回のクロス選挙。4月の統一地方選と知事選、市長選で問われるのは都構想の是非ではない。有権者の常識と良識ある市民目線である。

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2019年3月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

悩んだら なぜその職業を選んだのかを考えろ
‐企業説明の解禁、就活の開始‐

  春3月、やわらかな日差しがそそいだ1日、いつもの東海テレビ(名古屋)の「ニュース0ne」は来春卒業予定の大学生などに向けた企業説明の解禁、就活の開始を伝えていた。面接や内定の解禁日も定めた、いわゆる経団連ルールは今年が最後だという。

  とは言っても少子化の中、大変な若者不足で、実際は今年もなし崩し。きょうからしっかり企業を回ります、と硬い表情の学生がいる一方で、ニュースはチアリーダーが飛び跳ねる専門学校の出陣式。「4月中に内定をもらって5月の連休は海外で~す」という笑顔の女子グループも伝えていた。

  「まったくの売手市場ですね」というキャスターの問いかけに、こちらも笑顔を返しながら、ついついこんな言葉が口を突いて出る。

  最後はなんとか希望がかなったとはいえ、マスコミ一本に絞って不安のまっただ中にいたわが就職活動。この日解禁になった学生に「そんなときだからこそ」と、コメントをした。

  バブルがはじけて失われた十数年、就職氷河期といわれた時代は、心ならずもその職に就かざるを得なかった人が大勢いた。進路を選べるいまだからこそ、心底、自分がどんな職業につきたいのか、問いかけてほしい。

  華やいだ雰囲気のなかで、どうしてもこんなことを言っておきたかったのは、たまたまこの日の朝、書店で1冊の文庫本を手にしたからかもしれない。

  朝日新聞三浦英之記者の「南三陸日記」。東日本大震災の年の6月から9カ月、三浦さんは津波で甚大な被害が出た南三陸に身を置いて日記をtづづった。その記事に私も何度、涙をぬぐったことか。それが集英社から文庫本になったのだ。

  忘れられない一文がある。

  三浦さんが駆け出し記者時代、「職業は違うが、目標は一緒だ」と何度も肩を叩いてくれた、その警察官は幹部になっていたが、あの震災で命を落とされた。県警の公葬が終わるのを待って主なき自宅を訪ねた。

  〈最期は女性を助けようと濁流にのまれた、と聞いた。「どうして…」と仏前で言いかけて、彼の口癖を思い出した。

  「悩んだら、なぜその職業を選んだのかを考えろ」

  帰りの車の中で、私は大声をあげて泣いた─〉

  春は、やはり出会いと別れの季節なのかもしれない。

(2019年3月5日掲載)

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2019年2月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

発表も謝罪もなし 被害金は補填…では済まない
‐広島県警・死亡警部補の犯行‐

  「広島中央署の8500万円盗難事件の犯人が書類送検されるようです。あの警察官だと大谷さんに伝えていただけたら、わかるはずです」。これまで何度も取材に応じてきた広島テレビの記者から、あわてた様子で事務所に電話インタビューの依頼があった。

   「ええっ? やっぱり事件後亡くなった、あの警官だったのか」

  2017年5月、広島中央署1階会計課の大型金庫に詐欺事件の証拠品として保管中だった現金8500万円余りが盗まれた。警察署内で起きた前代未聞の多額盗難事件に県警は青くなり、市民はあきれ返った。

  だが内部犯行といわれながら捜査は難航。そんな中、詐欺事件の捜査に関わり、事件後借金を返済していた30代の警部補が浮上。しかし頑強に否認したまま、警部補はこの年の9月、自宅で死亡していた。県警はメディアの追及に警部補の関与を強く否定していたが、現金は見つからないまま、近くこの警部補を被疑者死亡で書類送検するという。なんのことはない、1年半も回り道をしていたのだ。

  それにしても警察署内で大金の盗難。結果、内部の警官の犯行。だけどその警官は 死亡していた─。またまたあきれ返る最悪の結末。だけど私は、広島県警が猛省すべきは捜査だけではないと感じている。

  事件から1年10カ月。県警は公には事件の内容を一切、発表していない。それに、ただの1度も県民に謝罪していないのだ。県議会での質問に答えたのと、昨年1月、本部長が転勤する際、記者クラブの強い要請で離任あいさつのついでに事件にふれ、「このような形で離任することを心苦しく思う」と述べただけなのだ。

  加えて「警察官を被疑者死亡で書類送検」の報道が出る直前、県警は被害金について、現職幹部とOBで補填すると発表した。身内の犯行とわかったので、身内で金を出す。県民には迷惑をかけないということだろうが、それですむという問題ではないだろう。

  まず、なぜこの警部補と断定したのか。これほどの大金をいつ、どうやって警察署外に持ち出したと考えられるのか。こと細かく公表したうえで、幹部が打ちそろって心から謝罪する。それなくして、いくら再発防止を唱えようと、空念仏としか聞こえてこないのだ。

(2019年2月26日掲載)

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