2018年12月 7日 (金)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

海外からの注目と批判 検察は自覚持て
‐ゴーン容疑者逮捕 隠される情報‐


  逮捕から半月たつが、出演しているテレビ番組から日産自動車前会長、ゴーン容疑者(64)が消えることはない。

  ただ、ここにきて気になることがある。世界が見ている日本の司法の動きとしては1976年、ロッキード事件の田中角栄元総理の逮捕、いやそれ以上の注目度といっていいのに、どうも検察当局にその自覚がないように思えるのだ。

  先週あたりからゴーン容疑者と関わりの深いブラジルやレバノンだけでなく、欧米諸国からも日本の検察捜査に対する批判が噴出している。最長20日の勾留、狭小な独居房での拘束。欧米韓国では当然なのに、弁護士立ち会いを認めない取り調べ。保釈を認めず、ときには100日を超える起訴後の勾留、いわゆる人質司法。

  だが、こうした批判に対して検察は相変わらず、情報が外に出ることを極端に嫌う保秘。いつも頭にあるのは、とにかく有罪に持ち込むまでの公判の維持。そんなベールに包まれた捜査に、フランス政府などから国家権力と日産がタッグを組んだルノー外しではないかとうたぐる声も出始めている。

  さすがの検察もこの事態に、東京地検次席検事の定例記者会見には海外メディアも同席させ、裁判所の令状に基づいて身柄を拘束、取調べには通訳をつけ、全過程を録画録音しているとしたうえで「各国の司法には、それぞれの歴史と文化があり、批判は当たらない」と強調した。だが、この会見もいつも通り、マイク、カメラなしのペン取材のみ。さっそく各国の記者からは、いまどき音も映像もとらせない文化ってなんだという声が出たという。

  思えば 事件の端緒は米上院議会だったとはいえ、嘱託尋問、コーチャン証言、ワンピーナツ100万円といった捜査情報がアメリカの司法当局からポンポン飛び出したあのロッキード事件とは段違いだ。欧米に限らず、いまではアジア各国も司法に報道官、広報官を置いて、カメラの前で身ぶり手ぶりで、いま何を調べ、何を暴こうとしているのか、メディアを通じて国民に知らせるのが常道だ。

  もちろん、それぞれの国の司法に、それぞれの歴史と文化があることはわかる。だが、隠されたもの、見せようとしないものに、人々が不信と不審を募らせる。それもまた古今東西変わらぬ歴史と文化だと思うのだ。

(2018年12月5日掲載)

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2018年11月29日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

カジノとセットの「未来社会のデザイン」なんて
‐万博決定にも浮かない顔の関西人‐

  めでたさも中くらいなりおらが春─。お正月までまだちょっとあるけど、そんな気持ちですね。2025年万博は大阪に決まった。大阪で暮らして半世紀。私にとっても、めでたくも、そしてうれしくもある55年ぶりの大阪万博。♪こんにちは こんにちは 西の国から…の歌声がよみがえる。

  だけど博覧会事務局の総会がパリで開かれた23日、私はテレビ局のロケで大阪の中心、ミナミから天王寺、船場、そこから梅田を抜けて新大阪に移動したのだが、その間、ついに万博の「ば」の字も目にしなかった。スタッフの口から万博が出ることもなかった。経産大臣、知事、市長のハシャギぶりとは随分違う。

  とはいえ相次ぐ自然災害や少子高齢化の影。対アメリカ、ロシア、中国、韓国、ぎくしゃくする国際関係。あまりいいことがないなかで、5月から11月まで「夢州」(ゆめしま)に半年にわたって万国が集うお祭りが決まった。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。いいじゃないですか、夢がありそうじゃないですか。

  なのに多くの関西人が浮かない顔をしているのはなぜか。もちろん高度経済成長に向かってまっしぐらだった東京五輪、大阪万博とは時代背景がまるで違う。だけど私はそれだけとは思えない。言うまでもなく、都が主体の五輪と違って万博は国のイベント。とてもこんな金額ではすみそうもないはずだが、当面の会場建設費1250億円を国、大阪府市、経済界で3等分することにしている。

  だが大阪は府市とも財政は火の車。経済界はトヨタという大スポンサーがいた愛知万博と違って、どの企業も「協力はするけどおカネはねえ」。

  そこで国とタッグを組んで大阪府市が頼りにするのが今年成立した「統合型リゾート法」で認められたカジノ。万博会場近くにカジノを誘致して、その業者に地下鉄延伸などの関連事業費を負担させてしまおうという魂胆なのだ。

  ♪こんにちは こんにちは…の歌声に乗せて今度はカジノがやってくる。ギャンブル依存症の人や青少年への影響を心配する府民に限らず、多くの人にカジノが暗い影を落としていることは確かなのだ。2025年万博はよし。だけど、どう考えてもカジノを組み入れた「未来社会のデザイン」は、描けそうにないのである。

(20018年11月27日掲載)
 
  

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2018年11月28日 (水)

Webコラム 吉富有治

万博失敗なら府市のダブル破産 だからこそ都構想の議論は保留に

  1970年の大阪万博に続き、大阪では2度目の万博が2025年5月3日から11月3日までの185日間、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲で開かれることになった。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。会場では最先端技術を駆使したAI(人工知能)や仮想現実などが体験できるという。

  ところが高尚なテーマがあるにもかかわらず、聞こえてくるのはカネの話ばかり。経産省や財界からは「経済波及効果は2兆円以上」「目標とする総入場者2800万人は確実だ」といった声が聞こえ、直接的な恩恵を受けるゼネコンやホテル業界はニヤけた顔でソロバンを弾いている。

  だが、これでは趣旨があべこべだ。「国際博覧会条約」の第一条定義には「1.博覧会とは、名称のいかんを問わず、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは二以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。」と明記されている。

  あくまでも万博の目的は「公衆の教育」や「将来の展望を示す」ことであって経済波及効果は結果論にすぎない。それが口を開けば「2兆円は儲かる」「いや、それ以上だ」とカネの話ばかりでうんざりする。

  つけ加えておくが、万博で儲かるのは過去の話である。立候補していたフランスが辞退したのは採算が取れないと判断したからだ。万博がそれほど儲かるのなら、なぜロシア、アゼルバイジャン、日本の3カ国だけしか手をあげなかったかを考えればいい。

  一方、誘致を成功させた大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長は鼻息が荒い。ロシアとアゼルバイジャンに競り勝ったのは「府市が一体化した成果。やはり大阪都構想は必要」だと訴え、早くも万博を政治利用している。2015年5月17日の住民投票で一度は否決された都構想が、万博誘致の成功で大阪維新の会には追い風となり、ここで2度目の住民投票をすれば確実に勝てると見込んで強気になっているのだろう。

  しかし、私の意見は違う。現在、「大都市制度(特別区設置)協議会」(以下、協議会」)で議論されている都構想はいったん棚上げになるとにらんでいる。万博と都構想を同時に並走させるのは予算や人員配置の面からも難しいからだ。本気で万博を成功させるつもりなら、むしろ都構想の議論を中断しないといけないだろう。

  今は万博の誘致に成功したと喜んでいる大阪府と大阪市だが、これからは様々な問題点が浮き彫りになってくる。万博関連の予算などをチェックする大阪府議会と大阪市議会には難題が押し寄せ、そのうち両議会は衝突すると予測している。

  万博を成功させるためには様々なハードルがあるが、中でも最大の問題は財政的な裏づけをどうするかだ。

  まず、会場整備費の1250億円。果たしてこれだけで済むのだろうか。2020年東京オリンピックのように、いつのまにか2倍3倍と膨らむ可能性はないのか。

  1250億円は国と自治体、企業の三者で分担することが決まっている。それぞれ約416億円ずつだが、特に財政が厳しい大阪府には負担が重い。416億円がさらに膨らむと、「少しは財政に余裕がある大阪市が肩代わりしてくれ」と大阪府が言い出すとも限らない。そうなると市議会の反発は必死である。

  次に交通インフラだ。舞洲会場には既に地下トンネルが開通しており、ここに地下鉄を延伸させる必要がある。その総額は約640億円。この負担も大阪市だけで、大阪府は負担ゼロ。府市はIR・カジノ業者に肩代わりさせるつもりだが、確実に決まっているわけではない。また約640億円という数字も試算にすぎず、さらに増えることも考えられる。その場合、大阪市だけの負担でいいのかと、こちらも府と市の火種になる可能性が高い。

  2800万人の総入場者を目標とするなら、1日あたりの入場者数は約15万人。これだけの人数を地下鉄だけで運ぶのは不可能で、当然、夢洲へ渡る橋や道路の拡張整備も必要だ。その額は40億円以上と言われるが、大阪府と大阪市のどちらが負担するかも決まっていない。他にもJR線の延伸も計画され、府市が一部を負担することも検討されている。

  一事が万事、この調子。他にも課題はまだまだ山積しており、「万博が大阪にやって来た」と浮かれている場合ではない。そこに都構想を加えると、さらに最低でも700億円ほどの予算が必要となる。万博のコストに加えて都構想のコストまでが大阪府と大阪市に重くのしかかるのだ。両方が失敗なら府と市のダブル破産である。

  しかも、都構想の青写真を作る協議会では維新と自民、公明、共産各党との対立が激しく議論は停滞したまま。いつ設計図が完成するのか、まったく先が見通せない。そのうえ、協議会には大阪府と大阪市から優秀な役人が派遣され、人件費も加えるとこれまで莫大な税金が使われている。

  政府は近々、「25年日本国際博覧会協会」を立ち上げるという。そこには当事者である大阪府と大阪市から役人も派遣される。と同時に、大阪府と大阪市でも万博に向けた専門部局を立ち上げ、府市の両議会も普段の公務以外に万博のための議論が加わることになる。議員も寝るヒマがなくなるだろう。

  繰り返しになるが、2025年大阪万博を成功させたいのなら都構想の議論はいったん棚上げにし、そのマンパワーと税金を万博のために一点集中すべきだろう。二兎を追う者は一兎をも得ず。「万博も、都構想も」と欲張っていると、いずれ共倒れになるだけだ。

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2018年11月22日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「ぼくも…」母を見送った話 身近な映画
‐娘が認知症の母撮影ドキュメント‐


  お正月、年老いた母から「今年もよろしくお願いします」と言われるかわりに「ぼけますから、よろしくお願いします」と言われたら、ドン引きするか、あっけらかんと笑ってしまうしかない。そんな両親を娘が追ったテレビのドキュメンタリー番組が反響を呼んで、この新年のあいさつをそのままタイトルにして映画化された。

  「監督、撮影、語り、ひとり娘 信友直子」とある。その〈認知症の母と耳の遠い父と離れて暮らす私─〉信友さんに、東海テレビの取材でインタビューした。

  「大谷さん、覚えておられます? もう20年以上前、私がいたテレビ制作会社のスタッフと一緒に大いに飲んだことがあるんですよ」。言われてみたら、30代の信友さんの面影がある。
 
  「ぼくも8年ほど前に93歳で見送った母は後年、認知症でね」「まず、みなさん、映画の話の前にご自分のことを話してくださって。ああ、それだけこの映画が身近なんだなあって」

  広島県呉市の古い住宅で暮らす89歳の信友さんの母は、山ほどりんごを買い込んで「ようものを忘れる、バカちんが」と言い出したころから認知症が進行する。

  それを支える98歳の父は耳が遠く、文字通りの老老介護。そんな両親の姿を東京から帰省するたびにカメラに収めた1200日。

  笑って、泣いて、怒って、慰めて…。「生きているだけで迷惑をかける」という母を、耳は遠く腰が曲がっていても、いつも温厚な父が「何を言ってるんだ、お前」と怒鳴りつける。その母は信友さんが、かつて乳がんの手術で髪がすっかり抜け落ちたとき、真綿のような笑顔で包んでくれた。

  脱水前のぬれた洗濯物を広げて、その上に寝ころがってしまう母。手伝うかと思った父は、なんと母をまたいでトイレに行ってしまった。そんな両親にカメラを回し続ける娘。

  「でもね、プロですから、あっ、いいとこ撮れたな、と思ったあとは、ちゃんと手伝っているんですよ」と、いたずらっ子のように笑う。

  きょうできなかったことが、あしたはできているのが育児。きのうできたことが、きょうはできないのが介護。

  「映画を見て、そんな介護にも一筋の光を見つけてくれたらと思うのです」

  「ぼけますから、よろしく―」は、11月初旬から順次、全国を巡回している。

(2018年11月20日掲載)

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2018年11月21日 (水)

Webコラム 吉富有治

果たして「逃げた」のはどちらか "私的サロン"で議論する茶番

  大阪府の松井一郎知事をはじめ大阪維新の会の一部議員らが、ある会議に大阪府議会と大阪市議会の自民党、公明党、共産党の各議員らが参加しなかったことに対して、「逃げた」「議員として自己否定だ」などとメディアやSNSを使って批判している。そこに吉本興業所属の某芸人も便乗し、「これ行かないのはホンマに腹立つ」などとツイッターに書き込み、それに賛同する人も増えている。だが、「逃げた」のは維新以外の政党ではなく、実は大阪府と大阪市の両行政であり、その2人のトップである。

  「ある会議」とは、大阪府と大阪市が設置した副首都推進本部会議だ。この会議の主催者は知事と市長で、有識者を招いて大阪が抱える諸問題を討議し、ときに提言を受けて政策に活かす諮問機関である。諮問機関だから、この場で決まったことが法的根拠を持つことはなく、もちろん議会が追認することもない。言ってみれば、府知事と市長の"私的サロン"でしかない。

  さて、この私的サロンである副首都推進本部会議で11月16日、いわゆる大阪都構想が及ぼすであろう経済効果の議論がおこなわれた。議論のたたき台になったのは、大阪市が約1000万円の税金を支払って学校法人「嘉悦学園」に試算を委託した調査報告書だ。

  この報告書は都構想の"経済効果"を数値化したもので、そもそもは維新側の強い求めに応じて大阪市が今年1月に事業者を公募したことがきっかけだった。ところが、1度目はどこの事業者も尻込みし、結果は応募ゼロ。4月におこなわれた2度目の公募で、ようやく嘉悦学園に決まった。

  ただし厳密に言うと、嘉悦学園が出してきた報告書は都構想の経済効果を示したものではない。示されたのは、大阪市を解体して4つの特別区になれば、年間で計約1000億円規模の財政が削減でき、それが10年間で最大約1兆1000億円の削減効果が期待できるとしたものである。したがって、経済効果と言うよりは「歳出削減効果額」と呼ぶのが正確である。

  そもそも経済効果とは、新しい産業が起こり、また企業誘致で消費や雇用が増えた結果、地元に落ちてくるお金の総額を示したものだ。大阪市が廃止されて特別区ができたからといって、どんな産業が生まれるのか、全国から多くの企業が大阪にやってくるなど占い師でもない限りわからない。そのため1度目の公募で実績のある大手事業者ですらさじを投げて入札には応じなかったのは当然で、ようやく嘉悦学園が「歳出削減効果」というアクロバット的手法で入札を果たしたのだ。

  だが、この報告書には府議会や市議会から批判が相次いだ。大阪市議会では大都市・税財政特別委員会などで自民党などの議員が「試算の根拠が恣意的であいまいだ」などと担当者に何度も問題点を質している。

  その内容を一部紹介すると、4つの特別区が年間で計約1000億円も歳出をカットすれば、その代償として住民サービスが確実に落ちるだろうと指摘。その約1000億円にしても、病院や下水道事業など、大阪市が廃止されたあと大阪府に移管する事務が含まれていることまで判明。このきわめてズサンな試算に対して大阪府と大阪市は「専門家の分析だから問題ない」と木で鼻をくくった役人答弁をオウムのように繰り返すのみ。松井知事や吉村市長にいたっては、「そこまで言うのなら報告書を作った学者に聞けばいい」と開き直る始末。結果、冒頭の副首都推進本部会議でのヒアリングになった。

  しかし、これは順番が逆だろう。学者から説明を受けるのは自民党や公明党などの議会ではなく、本来は行政の仕事である。

  大阪市は約1000万円の税金を使って事業者に報告書を作成させたのだ。ならば、納入された報告書の信ぴょう性をまっさきに検証する義務が行政にはある。ところが大阪市は報告書に書かれた「約1兆1000億円」という景気のいい数字に満足したのか、中身を十分に検証していない疑いがある。検証していれば、自民党や公明党の指摘くらいは正面から答えられるはずだからだ。その基本的な義務すら怠り、「学者に聞けばいい」という態度は、自分たちの不作為を棚に上げる行為でしかない。

  議員は行政が暴走しないか、税金をムダ使いしていないかをチェックするのが本来の仕事であり、その主戦場はあくまでも議会や各委員会なのだ。行政は当然、議会や委員会で決まったことには従わなければならない。私的サロンである副首都推進本部会議に議員が参加する義務などなく、議員の主戦場ですらない。そこで話し合われた内容に法的な拘束力などなく、議会や行政が追認する場でもない。だいたい「逃げた」と叫ぶほうがおかど違いなのだ。

  大阪府と大阪市の役人は、そして松井知事と吉村市長の両トップは嘉悦学園の学者からの説明を聞いて納得し、報告書には信ぴょう性があると確信したのだそうだ。では各政党は役人と両トップを議会に呼び、数々の疑問点を再度質せばいい。今度は真正面から答えてくれるだろう。答えなければ「副首都推進本部会議で居眠りしていたのか」と笑い飛ばすことだ。

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2018年11月15日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

トランプ大統領への「なんでやねん」
‐米下院の女性議員 過去最多100人近くに‐

  ABCテレビ(大阪)の夕方番組、「キャスト」に「なんでやねん」というコーナーがある。「始球式でバッターが必ず空振りするのは、なんでやねん」「ラーメンにメンマが入っているのは、なんでやねん」…。まっ、ドーデモいいことをああだ、こうだ。なかなかの人気コーナーなのだが、1度、共演者のココリコの遠藤章造さんと一緒に「世界中が“なんでやねん”のときに、きょうもドーデモいいことで“なんでやねん”では笑われるでぇ」と叫んだことがあった。

  忘れもしない2016年11月9日(日本時間10日)、あのトランプ氏が、まさかまさかの第45代アメリカ大統領に。そんなトランプ政権もあれから2年。折り返し点の中間選挙がやってきた。その選挙を前にマイケル・ムーア監督の映画「華氏119」を見てきた。

  ロシア疑惑に、女性スキャンダル。移民は「ギャング集団」で、メディアは「国民の敵」。ハイスクールで銃乱射が起きれば、「教師に銃を持たせろ!」。だがムーア監督は返す刀で、腰の引けたオバマ前大統領や上から目線のヒラリー前大統領候補も切って捨てる。

  そんななか映画に登場するのは、利権がらみで鉛入りの水道水を住民に飲ませる州知事を追い詰める母親たちと州の女性職員。自分たちも薄給なのに、貧困層の子どものために立ち上がる先生方。何より亡くなった級友の名前をひとりずつ挙げて、涙をぬぐおうともせずに銃規制を訴える女子高生。そんな若者たちは、「まずは選挙に行くことから始めよう」と訴える。

  そして迎えた11・9ならぬ11・6の中間選挙。18歳から29歳の若者の投票率は21%から31%にまで伸びた。下院の女性議員は過去最多の100人近く。最年少の女性は29歳。ムスリム(イスラム教徒)の女性議員も誕生した。アメリカの先住民族の子孫も、いまはトランプ氏によって入国を禁じられているソマリア難民の娘も、レズビアンを告白した女性も、みんなみんな下院議員だ。 もちろん今回の選挙は大統領への中間テスト。それが終わって人々の視線は次の大統領選挙へ。米国民でなくても興味は尽きない。

  2020、なんでやねんと天を仰ぐのは、またまた若者であり、女性であり、マイノリティーか。はたまたトランプ氏、その人か─。

(2018年11月13日掲載)

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2018年11月 8日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「人権上の配慮」とは?
‐大阪・寝屋川「中1男女殺害」裁判‐

  ABCテレビ(大阪)の「キャスト」で大阪地裁前からのリポートを聞いて、胸の底に沈殿していた事件へのどす黒い思いが湧き上がってきた。2015年8月お盆のころ、大阪府寝屋川市で朝方、駅前にいた中学1年の女子生徒(当時13)と同級生の男子生徒(同12)が行方不明になり、惨殺体や白骨死体となって見つかった事件で殺人罪に問われた山田浩二被告(48)の裁判員裁判が始まった。

  ガランとした早朝の商店街、あどけなさの残る2人が寄り添うようにしている防犯カメラの映像がいまも目に焼きついている。そんな2人を殺害したとされる山田被告は公判でやりたい放題、言いたい放題。開廷間なしに裁判長の制止も聞かず、土下座してついたての向こうにいる被害者遺族に「すみませんでした」。

  だが、審理が始まると、男子生徒は「車の中でけいれんを起こして息をしなくなった」。女子生徒については「騒いだので口をふさごうとして気がついたら、手が首にふれていた」。また全身の刃物の傷は「ショックを与えて生き返らそうとした」と、殺意を全面的に否定した。

  裁判員の同情を買おうとした土下座に、荒唐無稽としか言いようのない主張。だが、こんな被告との争点の整理や精神鑑定をめぐって裁判が始まるまで、じつに3年以上かかっているのだ。そしてやっと開かれた公判で出てきたのがこの弁解だ。

  その山田被告は、これまで中高の男子生徒を車に連れ込んで性器を傷つける犯行を繰り返し、寝屋川事件の前は12年の懲役刑で服役していた。だが、「人権上の配慮から」この忌まわしい前科にふれたテレビニュースは、私の知る限りない。

  そんな折、中日新聞静岡支局の記者から、19歳の男が集団登校の小学生を無差別に襲って男児に重傷を負わせた事件について意見を聞かれた。この事件で静岡家裁は男を少年院送りに決定。だが、保護者や学校が事件の動機、そして何より社会復帰の時期について不安を抱いているのに、家裁はそれらすべてを非公表とした。

  記者によると、家裁はその理由を19歳少年に対する「人権上の配慮から」としているという。ここでもまた「人権」だ。このままでは人権は、ただうっとうしいものになってしまう。そんな気がしてならないのだが。


(2018年11月6日掲載)

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2018年11月 1日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「伝えたい」安田さん支えた思い
‐プロパガンダで戦争を語っていいのか‐

  シリアで拘束された安田純平さん(44)本人と確認されたという一報が届いたとき、妻の深結(みゅう)さんはテレビ朝日スーパーJチャンネルのスタッフルームにいた。大急ぎでスタジオに入り、テーブルに額をつけんばかりにして「みなさまのおかげです」と言うその目に、涙があふれていた。

  3年4カ月にわたる拘束。最初は畳1畳ほどの部屋に監禁され、身動きどころか関節の音さえたてるなと強要された。精神に異常を来してもおかしくないなか、深結さんの夢に出てきた安田さんは「伝えたい、伝えるんだ」と叫んでいたという。その思いが安田さんを支え続けたに違いない。

  テレビなどで何度もご一緒したが、「もちろん、ぼくたちが伝えることは現実に起きていることの何万分の1です。でもこの目で子どもや女性の姿を見ないで戦争は伝えられない」という姿勢は変わらなかった。取材に向かうとき、安田さんは深結さんに必ず「責任はすべて自分が負うから」と言って出かけたという。

  とはいえ、シリアへの渡航自粛を求める外務省や警察庁の説得を振り切っての入国。加えて2004年のイラクに続いて2度目の拘束とあって、前回ほどのバッシングではないにせよ「自己責任」の批判はある。

  ならば私たちは、体制派、反体制派、ゲリラ部隊、テロ組織、それらが自分たちの都合に合わせて流すプロパガンダで「戦争」を語っていいのか。悩ましい問いかけが、今回もまた際限なく繰り返される。

  そんなとき、安田さんたちがイラクで解放されてしばらくしてから、一緒に拘束されていた高遠菜穂子さんも出席して開かれたシンポジウムを思い出す。安田さんが撮影した無差別空爆のあと、高遠さんが駆けつけた病院の包帯だらけの赤ちゃん、爆撃で両親を失ってストリートチルドレンになってしまったイラクの子どもたち。高遠さんは、自分たちが伝えることができるのは戦争で起きたことのほんの一部、微々たるものだという。だけど、その微々たるものを積み重ねていくしかない。最後の言葉を高遠さんはこう結んだ。

  「でも忘れないでほしいのです。微力であっても、無力ではないのです」

  なにがあっても、その微力をなくしてはならない。私の、答え探しも続く。

(2018年10月30日掲載)

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2018年10月26日 (金)

Webコラム 吉富有治

松井知事の公用車喫煙問題  身を切らない改革に唖然

  知事が公用車でタバコを吸うことは許されるのか。大阪府議会ではいま、この問題が本会議や委員会などで議論されている。

  ことの発端は10月2日の大阪府議会本会議でのこと。休憩中に松井一郎知事が府庁舎前から公用車に乗り込むところを自民党の府議が目撃。不審に思って府の関係者に確認したところ、松井知事は休憩と称して公用車に乗り、府庁舎の周辺を十数分間ぐるぐると周回。車内でタバコを吸っていたというものである。
 
  現象だけを取り上げれば小さな問題にすぎない。私もこの質疑を聞いたとき、はっきり言ってどうでもいいことだろうと思っていた。松井知事には、「少しガマンしたらどうなのか。吸いたければ喫煙所に行けばいいのに、こそこそと公用車で喫煙するのは、中高生が校内のトイレでタバコを吸うのにも似て格好が悪いだろう」と笑っていた。

  だが、よくよく考えてみると、そう単純な話でもない。松井知事の行動は、公用車を私物化していた問題よりも、普段から言っていることと実際にやっていることとの落差、チグハグさが見え隠れするのだ。
 
  橋下徹前知事から続く大阪維新の会による大阪府政、大阪市政においては、かつて喫煙で処分され、10分ほど喫茶店に寄っただけで処分を受けた府市の職員がいる。部下には厳しいモラルを求めるのに、なぜか自身には甘い。これがチグハグさと言行不一致の正体である。

  この問題を最初に取り上げたのは11日の総務常任委員会でのこと。公用車での喫煙の事実を質した自民党の密城浩明府議に対して、松井知事と府の幹部は、「公用車には禁煙のルールはない」「目的は息抜きであり喫煙ではない」などと答弁した。だが、この主張は論点のすり替えでしかない。

  そもそも「ルール違反じゃないから問題にはならない」と弁明できるのは、ルールに縛られる側だろう。法律や社会規範などに縛られている私たちであり、大阪府なら憲法や地方公務員法、また職員基本条例などに従わなければならない府の職員たちが言えるセリフなのだ。

  ところが松井知事がこれを言っても説得力はゼロだ。なぜなら、知事は大阪府においてはルールを作る側の人間であり、場合によっては自身をルールの対象外にすることが可能だからだ。公用車を禁煙にするルールだって国が作るわけではない。府職員のトップに立つ知事自ら作ることができるのである。

  そんなこともせず、松井知事は自身をルールの外に置いた。喫煙ルールなどに関しては知事と府職員の関係は非対称であり、「ルール違反じゃないから問題にはならない」は組織のトップに立つ人間が述べる言葉ではないだろう。これでは府民や府職員の反発を買うだけで、トップの姿勢としても失格。他人に厳しく自分に甘いなどと文句を言われても仕方がない。
 
  またプライベートカーと違って、公用車とは文字通り役所などの公的機関が公的な仕事のために使用するクルマである。その意味で公用車は、同じく公的機関が公的な仕事のために使用する庁舎の延長だと解するべきだ。両者の違いは動くか動かないかだけで、本質的な差はない。
 
  大阪府は庁舎内を全面禁煙にするルールを定めた。だとしたら、同時に公用車も役所の延長だとして禁煙にするのが筋のはず。ところが、大阪府の公用車には禁煙ルールがない。府庁舎に禁煙ルールを定めた側(この場合は府知事)が、なぜか自らを律するルールを作らなかったからだ。自らが"ルールブック"であるのをいいことに、部下には厳しく臨んで自分には甘いルールで対応する。これで府職員や府民は納得するのだろうか。

  大阪維新の会は「身を切る改革」をスローガンに掲げている。そのために知事や市長、また維新議員の報酬を減らし、府市の職員にも給与カットなどを求めている。けれど、「身を切る改革」とは報酬を減らすことだけでないだろう。

  自分自身に厳しいルールを課すからこそ他人にも厳しさを求めることができる。これが「身を切る改革」の本質ならば、公用車に乗って本庁舎をぐるぐる回りながらタバコを吸うことが府のルールに違反しなくても、自ら定めた自主規制、自己犠牲の精神には反しているのではないか。この問題、単に本会議の休憩中だから公用車での喫煙もOKという話ではない。
 
  松井知事は22日、府議会の総務常任委員会で公用車を「喫煙室代わり」として使ったことを否定しつつ、「誤解を与える行為はやめる」と弁明。さらに今後も「禁煙しない」と言い切った。

  その大阪府トップが誘致を進める2025年大阪万博のテーマの1つは「健康」である。世界中から人を集めようというのに、これほど人を喰ったブラックジョークもない。

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2018年10月25日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

あの町25年前を思い出す就労拡大


  番組でこのテーマにコメントしながら、これはいつか見た光景、新聞記者の警察(サツ)回り時代を思い出した。安倍政権は日本がかたくなに拒んできた外国人労働者の受け入れを認めることにした。考えが変わったのではない。背に腹は代えられなくなったのだ。

  さまざまな抜け道があったとはいえ、日本は単純労働、しかも5年以内でしか外国人の就労を認めてこなかった。それが今後は建設、農業、宿泊、介護、造船の5分野で、これまでの5年を超えたあとも経験を生かして仕事を続けられることになった。さらに日本語や技術力の試験に合格した外国人も、家族帯同で在留資格を更新しながら日本で働けることにする。

  一大方針転換の要因はなにか。言うまでもなく、いまも、そしてこれからも続く深刻な労働力不足だ。なにしろ在留外国人は、すでに256万人。この1年で18万人も増えているのに、大変な人手不足。さらに少子化で、いま6600万人の労働人口は20年後には5100万人になるという。そこで「お願い、外国人」となったのだ。

  それがなぜ、私の「いつか見た光景」なのか。40年以上前、サツ回りの記者だった私の持ち場は大阪のあいりん地区、釜ヶ崎と呼ばれた日雇い労働者の町だった。わずか1平方㌔㍍ほどの地域に多いときは4万人もの労働者がひしめき、早朝から道路や橋、ビルの工事現場へと雇われていく。だが、この町は景気の調節弁だ。東京五輪や大阪万博、それにバブル景気、そんな時、町は沸きに沸く。その一方で、不況のしわ寄せも真っ先にこの町にやってくる。

  1円のお金も入ってこないアブレと呼ばれる日が続くと、ちょっとしたもめ事が暴動に発展する。放火、投石、機動隊との衝突、荒れ狂った夜が続く。もちろん、暴力は許されない。ただ猛暑や極寒のときも“タコ部屋”と呼ばれる作業員宿舎に押し込まれ、不況となれば有無を言わさずたたき出される。取材する私たちに飛んできた「わしらかて人間やぞ」という涙まじりの怒声が、いまも耳に残っている。

  これまでは働きたくて残っていた人も不法滞在で強制送還していた国が、手のひら返しの就労拡大。その心根に、どうしても四半世紀前の、あの町の光景を思い出してしまうのである。

(2018年10月23日掲載)

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