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2026年2月

2026年2月23日 (月)

喝を入れるべきは医学界、大学だけではない

-東大病院教授の収賄容疑逮捕-

 毎年2月、バレンタインのころ某大学病院で定期的な検診がある。付き添いの妻が心ばかりのチョコをお配りした先生方は「いや、いや」と言いながら、その場で看護師さんや検査技師に渡される。いつもの光景を今年は一層、ほんわかとした気持ちでながめていた。

 先月、東大病院の皮膚科長の教授(62)が「日本化粧品協会」から多額の接待を受けていたとして警視庁に収賄容疑で逮捕された。

 じつは、この教授の行状を私は去年の秋から聞いていた。毎年、私の講演会を主宰してくれる女性が強皮症から間質性肺炎を併発した。だけどこの女性、持ち前の行動力と社交性で各地の大学病院の専門医と懇意になり、患者団体のアドバイザーにもなっている。

 そんな彼女が頼りになるはずの東大皮膚科は「まったくダメ」と言い切る。聞けば、教授は業者に料亭や高級フランス料理に銀座のクラブ。果てはソープランドを接待させて医局はまったく機能していないという。

 市井のひとりの患者であるこの女性までそんな実態を知っているうえ、去年春、接待した協会の理事が一部週刊誌の電子版に実態を暴露した。なのに東大当局は、警視庁の捜査が入り、病院の院長が辞任、総長が謝罪会見を開くまで頬かむり。

 そこには、かつての「白い巨塔」から「ドクターX」まで連綿とつながる大学病院の閉鎖性、徒弟制ともいえるヒエラルキーがありはしないか。その上に今回は東大という権威も加わった。

 だけど、私たちメディアも他者のことを言えるのか。収賄の事実を知って一部の新聞、テレビは教授の日常風景まで撮影していたのに、警視庁の強制捜査というおスミつきが得られるまで一切報道しなかった。そのことについて同志社大の佐伯順子教授は産経新聞のコラムで〈新聞も権威や肩書に迎合していないか〉と書く。

 コラムのタイトルは「新聞に喝!」。喝を入れるべきは、医学界や大学だけではないのである。


(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2026年2月23日(月)掲載/次回は3月9日(月)掲載です)

 

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2026年2月 9日 (月)

「巌ひとりが助かっただけではダメなのよ」

-「再審法改正案」が廃案-

 取材を続けて30年。袴田事件の袴田巌さん(89)と初めて話をさせてもらった。事件から58年、死刑の恐怖にさらされてきた袴田さんは、刑務官を思い起こす男性と会うことを嫌った。

 無罪確定から2年。「もう大丈夫。おいでよ」という姉のひで子さんの言葉で、浜松の自宅に静岡朝日テレビのクルーとお邪魔した。

 「いつものドライブ、きょうはどちらへ?」「うん、浜松駅だね」。巌さんは、その先は自分に向けて二言三言話すだけだが、冬の日差しが届くリビングに、ゆったりとした空気が流れる。

 そんななか、ひで子さんは「巌ひとりが助かっただけではダメなのよ」と、湧き起こる憤りを懸命に抑えこんでいるようだった。

 真冬の突然の衆院解散総選挙。それによって74本もの法案が廃案になってしまった。そのなかには袴田事件をきっかけに、議員立法で出されていた再審法の改正案も含まれていたのだが、雪崩に巻き込まれるように押し流されてしまった。

 それを横目に法務省(国)は法制審議会の再審法の見直し要綱の採決を急ぎに急ぎ、2月2日、委員の賛成多数で可決した。委員には冤罪事件の被害者や家族は1人も含まれず、13人の委員のうち10人が検察官や学者ら再審法の抜本的改正に慎重な立場の人たちだった。

 可決された要綱では、袴田事件で無罪確定まで半世紀以上かかった長期化の元凶とされる検察が抗告、特別抗告を繰り返す不服申し立てを全面的に認めている。

 また多くの事件で検察の証拠隠しが問題となったことから証拠開示を義務化したが、その一方で関係者やメディアへの使用を禁じ、社会からの目をふさいでしまった。

 針の穴にラクダを通すというほど困難な再審の道で、針の穴を小さくしてラクダをより大きくしてしまったのだ。

 「検察は反省していると言うけど、巌の事件で証拠を出しすぎたという反省じゃないの?」。怒りのなかで、ひで子さんは8日、衆院選の投開票日が93歳の誕生日だった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2026年2月9日(月)掲載/次回は2月23日(月)掲載です)

 

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