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2025年12月

2025年12月16日 (火)

無実の命 奪おうとした検察への怒り どこに置いてきたのか

-無罪確定の袴田事件-

 静岡朝日テレビのニュース番組「とびっきり!しずおか」に出演しているご縁もあって、地元の静岡新聞や静岡朝日テレビの記者からお誘いを受けて楽しい一夜をすごした。最近の事件や県政。それに全国ニュースにもなった伊東市長選…。裏話や失敗談に、うなずきあったり、笑い転げたり。

だけど昨年、事件から58年、やっと死刑から無罪が確定した袴田事件の袴田巌さん(89)と姉のひで子さん(92の)話になると、座の空気は一変して重くなった。

 検察がでっち上げた証拠で袴田さんが死刑囚とされた事件に、いち早く国会議員が議員連盟を結成。新たな再審法を議員立法で国会に提出する流れとなった。だけど静岡新聞で20年、この事件を追い続けている記者によると、いまは真逆の方向に向かっているという。

 この事態に法務省(検察)は5月急遽、法制審議会に再審法部会を設置したが、これは明らかに「議員立法潰し」。部会の20人の委員には再審法制定を求める弁護士を2人入れたが、冤罪被害者はゼロ。あとは法務省寄りの人物で固めた。

 この結果、議員立法が厳しく禁じた検察の証拠隠しも、裁判所の決定に対して際限なく繰り返す不服申し立ても、すべて認める方向。こうした流れに危機感を抱いた袴田弁護団は、まさにこの日、議員立法の速やかな成立を求めて要請書を議連に提出。テレビの女性記者は、その弁護団に同行してきたところだった。

 これに先立ち、元裁判官63人と刑法研究者135人が相次いで「事態は危機的」とする声明を出した。

 それにしても、袴田さんが死刑台から生還したときの袴田さんと姉のひで子さんに対する申し訳の立たない思い。そして無実の命を奪おうとした検察への怒り。あのときのマグマが渦巻くような熱気を社会は、とりわけ私たちメディアは、どこに置いてきたのか。

 この日、史上最速の初雪を観測した静岡の夜が一層、寒く感じられるのだった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2025年12月16日(火)掲載/次回は2026年1月12日(月)掲載です。どうぞよいお年をお迎えください)

 

 

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2025年12月 1日 (月)

「能登や やさしや」ワインまでも

-中前さんから届いた手紙-

  私の中では、すっかり秋の風物詩となった群馬県旧粕川村(現・前橋市)の講演会は今年で34回目。11月16日の日曜日、いつものように主に先生方と、人の未来に関わることの素晴らしさを語り合ってきた。

 そんな会を見越したかのように、この少し前、石川県穴水町の元小学校の校長先生、中前和人さんから手紙を添えて赤白の能登ワインが届いた。中前さんは3年前、私がこのコラムに小学校の恩師が94歳で亡くなられたと書いたとき「私にも忘れられない教え子がいます」と手紙をくださった。

 中前さんが、かつて担任した小学6年生のクラスは前任者が心労で倒れるほど荒れていた。だけど、みんなで懸命に力を合わせて克服。なんとか卒業式を迎えた。

 〈それから35年。私の退職時、この教え子が集まって私に「最後の授業」をさせてくれたのです。以来10年、同窓会が続いています〉

 中前さんが贈ってくださったワインのラベルには「祝還暦 大徳小学校6年4組 担任 中前和人 奥能登の地から」の文字―。

 〈15年前、私の最後の授業を企画してくれた教え子も卒業から50年近くたって還暦を迎え、私から記念のワインを贈ることにしたのです。この教え子たちは大徳小学校のある金沢市で、昨年は2回も同窓会を開いてくれました〉 

 その中前さんは「震度7の能登地震はすさまじいものでした。穴水町の自宅は一部損壊。1週間車中生活をし、2カ月、水のない暮らしを体験しました」という。

 〈2回の同窓会は地震見舞いもかねてのことと思います。ただ私も後期高齢者。同窓会はもう終わりに、と言いますと、教え子は「能登まで迎えに行くから」。その言葉にしばらく続けようかと思っています〉

 私もお相伴にあずかったワイン。ネットで見ると、穴水には茶畑のような美しい緑のブドウ園が広がっている。江戸時代から続く「能登や やさしや土までも」の言葉がまた胸に浮かんできた。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2025年12月1日(月)掲載/次回は12月16日(火)掲載です)

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