« 賽の河原で石積みする記者の思いとは | トップページ | ボヤでごまかそうとしたところ…大火事に »

2025年9月22日 (月)

甘みのある新米いただきながら日本の農業に心が痛む

-棚田の写真ついたお便り-

 日本棚田百選の1つ、新潟県三条市の北五百川棚田で米作りをされ、私が出演している「ひるおび」(TBS系、月~金曜午前10時25分)のファンという佐野誠五さんから今年も新米が届いた。彼岸花の咲く棚田の写真がついた便箋のおたより。

〈私も77歳になり、米づくりが難しくなってきました。来年をもって引退します。もう1年がんばります〉

 急いでお礼がてら電話を入れると「年のこともあるけど、一番の理由はイノシシとサルですわ」と言う。昼間はなんとか追っ払っても夜、田んぼを掘り返すイノシシは手に負えない。こんなきれいな棚田なのに、と気持ちがなえてくるという。

 話を聞いて市の鳥獣係に電話で取材をすると「私たちも心を痛めています」と澄んだ女性の声が返ってきた。電気柵の設置も棚田ではむずかしい。加えてイノシシはブタが野生化した大型のもので手に負えないという。

 「ところで最近、問題のクマは?」と聞くと「佐野さんがお住まいの下田地区は市内最多、今年31件の目撃があるんですが、幸い棚田の北五百川はいまのところ…」という返事だった。

 なのに数日後、市のHPのクマ情報を見ると、なんと〈NO32 9月12日午後9時20分 北五百川 人身被害無〉とある。市の鳥獣係の「背景に農家の減少があるのは間違いありません」という言葉がよみがえる。

 人の手が入らず、草ぼうぼうになった里山の耕作放棄地は動物たちにとって格好の隠れ家。そこを拠点に日夜、田畑や人家に出没する。

 あらためていうまでもなく、日本の農業従事者の平均年齢は、佐野さんの77歳より若いとはいえ、68.7歳。このままいくと、いま136万人の農業人口は、2050年には36万人。1億人の食をこれだけの人数で支えられるはずがない。

 少し甘みのある新米のご飯を今年豊漁のサンマといただきながら、棚田の原風景とともに届いた日本の農業を取り巻く景色に、心が痛む残暑の秋である。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2025年9月22日(月)掲載/次回は10月6日(月)掲載です)

|

« 賽の河原で石積みする記者の思いとは | トップページ | ボヤでごまかそうとしたところ…大火事に »

日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事