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2025年5月19日 (月)

万博会場から約11㌔西成思うDEEPな夜

-大阪でトークイベント-

 先日、大阪・ミナミのロストプラスワンWEST主催、朝日新聞出版「西成DEEPインサイド」刊行記念「西成DEEP潜入トーク」というイベントでルポライターの國友公司さんと、まさにタイトル通り、深いトークを繰り広げてきた。

 西成といっても、トークの対象は大阪・関西万博が開かれている此花区夢洲から約11㌔。日本最大の日雇い労働者の街、釜ケ崎だ。

 この街を私が新聞記者として取材していたのは前回の大阪万博が終わった1970年代初め。万博閉幕で仕事が激減した釜ケ崎の街はすさみ切っていて、3年間で計11回も暴動が起きた。

 なぜ労働者は荒れるのか。日雇いの現場に潜入、紙面で〈熱い夏〉を連載したものの、私に仕事を斡旋した手配師にバレて追いまわされる始末。そんな時、モツ肉に合成酒、労働者の車座に入れてもらって、切ないけどやさしかった釜ケ崎。

 それから半世紀。7年かけて大学を出た当時25歳の國友さんは、釜ケ崎に足を踏み入れ、寮に住み込んでビルの解体現場へ。その後、暗くなると這い出してくるナンキンムシ対策で明かりをつけたまま目隠しして寝床に入るドヤ(簡易宿泊所)の清掃係兼管理人にもなった。

 元やくざの身の上話や、生活保護は受けたくないと、体力づくりに毎日ダンベル体操に励むおっさん。やはり切ないけど、どこかやさしい釜ケ崎を織りまぜて「ルポ西成」を2018年に出版した。

 司会者に釜ケ崎への今の思いを問われて國友さんは「変わるも良し。変わらぬままの釜ケ崎もまた良し」。私は、かつて釜ケ崎の写真を撮り続けた故井上青龍さんの言葉を借りて「泣きたくなるほど嫌な街。泣きたくなるほど好きな街」。

 オンラインを含めて50人を超えたお客さんの半数以上は意外と若い人。イベントを終えて出たミナミの街は日本人を探すのが難しいほど外国の人、人、人。都市にはいろんな顔があっていい―。そんなことを思わせるDEEPな夜だった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2025年5月19日(月)掲載/次回は6月2日(月)掲載です)

 

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