人口流出 福島の町 ささやかな反転攻勢
先週、発生から14年となった東日本大震災。今年も福島県川俣町を訪ね、初めて県立川俣高校の卒業式を取材させてもらった。
創立117年。町の高台にある学校の広さは東京ドーム1・5個分。かつて320人いた生徒は震災後、町の人口減もあっていまは51人。うち卒業生は14人だ。
式を終えた卒業生は教室で最後のホームルーム。3年間担任だった50代の男性教師から1人ずつ証書を手渡され、ほとんどの生徒が皆勤賞、精勤賞、生徒会功労賞。何かの表彰を受けて、みんなに向けてひと言話す。
仙台の大学に行きます。この町のために役場で働きます。震災の時は3歳でしたが、当時のことを親から聞いて看護師の道に進みます。
驚いたのは、4人もの生徒が「じつは中学時代は不登校だった」と話し出したことだ。「だけどこの3年間は楽しかった」「いい仲間だった」「こんな私が精勤賞。みんな、本当にありがとう」
その川俣高校が、この春から大きく変わる。こうした学校の雰囲気と恵まれた環境を生かして、県立高校では珍しく全国から生徒を募集することになった。
そういえば避難地域となって在校生ゼロが続く町内の山木屋小中学校も、この春から校区の学校に通いにくい子どもを広く受け入れる。人口流出に泣かされた福島の町が、ささやかな反転攻勢に打って出たのだ。
そんな福島の川俣高校最後のホームルーム。先生は、この日で卒業生を送り出すのは8回目。270人になると話し出した。
「そのうち1人は若くしてがんで亡くなりました。そしてもう1人は、自死でした。仕事に行き詰まったと後で聞きました」。先生はそこでひと呼吸置いて、「だから約束してほしい。きみたちは卒業していくけど、先生は、生きている限り、みんなの担任だと」
大粒の涙が頰を伝った。
♪ぼくら離ればなれになろうとも クラス仲間は…
残雪の磐梯山に、こだまが吸い込まれていくようだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2025年3月17日(月)掲載/次回は4月7日(月)掲載です)
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