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2024年11月13日 (水)

社会性 先見性のカケラもない判決

-17年前の闇サイト強盗の無念-

 連日、「闇バイト事件」のニュースにかかわっている。75歳男性は縛られて殺害された。暗証番号を聞き出すため長時間、車に監禁された女性もいる。どれほど怖かったか。背筋が凍る

 ここ数年、海外から犯行を指揮したルフィ事件など、サイトを悪用した犯行が後を絶たない。そんなとき署名を呼びかける街頭で、ご自宅で何度もお目にかかった名古屋の磯谷富美子さんの姿が胸に浮かんでくる。

 磯谷さんの1人娘、利恵さん(当時31)は17年前の07年8月、帰宅途中の路上で3人の男が乗ったワゴン車に引きずり込まれた。3人はネット上の「闇の職安」で知り合った「闇サイト強盗犯」。利恵さんの顔に粘着テープを23回巻き付けた上、レジ袋をかぶせてカードの暗証番号を聞き出し、さらに31回テープで巻いた。利恵さんの「死にたくない」という声がかすかに聞こえると「こいつ、まだ死なない」と言って頭を40回ハンマーでたたいて殺害。遺体を岐阜の山中に遺棄した。

 1歳9カ月で父を白血病で亡くした利恵さんは、母と一緒に住む家のため800万円を貯金。犯人に教えた暗証番号は、うその「2960」(憎むわ)だった。

 娘の最期を知った富美子さんは「犯人を死刑に」と署名活動を始め、1年半後の名古屋地裁判決までに実に33万人の署名を集めた。

 だが地裁判決は2人を死刑としたものの、仲間割れから警察に密告した男を自首扱いにして無期懲役の判決。さらに控訴審、名古屋高裁は母の気持ちを逆なでするように死刑判決の1人を無期懲役(後に別の殺人事件が発覚、死刑に)に減刑した。

 減刑の理由として高裁は「死刑を回避できないほどの悪質性はない」としたうえで「ネットの闇サイト悪用も過度に強調する必要はない」と判断。

 「闇サイト」から「闇バイト」に。この高裁判決の裁判官たちは17年後の今をどう見ているのだろうか。社会性、先見性のカケラもない、お粗末な司法。人々が闇に怯える日々は、まだまだ続く。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年11月12日(火)掲載/次回は11月25日(月)掲載です)

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