予知できぬ地震 できるのは備えだけ
-「南海トラフ」評価委員の重い言葉-
「私も、家のタンスの固定はこれでいいのか。落ちてくるものはないか。改めてチェックしています」。気象庁の南海トラフ巨大地震評価委員をつとめる山岡耕春名古屋大名誉教授の言葉が、素直に心に響いた。
宮崎・日向灘の地震で出されていた南海トラフ地震臨時情報は1週間を過ぎて15日解除されたが、発生の翌9日夕、東海テレビのニュース番組に山岡先生が生出演してくださった。先生は臨時情報が出されるまでの流れなど、立ち入った質問にも気さくに答えてくれた。
発生から1時間足らずの午後5時30分に評価委員会開始。といっても、気象庁にいたのは委員長だけ。山岡先生をはじめ、他の5人の委員は全員リモート参加。こうした事態に備えて、委員は肌身離さずタブレットを持ち歩いているという。
評価委員会の招集は初めてのことだったが、全ての科学的データが「巨大地震注意」を示しており、即刻、臨時情報の発表になった。
ただ山岡先生が何度も口にされたのは、それは地震への備えを促す情報ということだった。残念ながら私たちはいまだ地震の予知はできない。とすると、できるのは備えしかない。個人としては家の中の点検。ハザードマップや避難所の確認。そしてもう1つ、国や自治体の対応にも、先生は厳しい目を向けられていた。
聞きながら私は、反射的に1月の能登半島地震を思い出した。極寒の中、体育館の床に敷き詰められた雑魚寝用の布団。倒れたら惨事になりかねない石油ストーブ。東日本大震災から13年。私たちは何をしてきたのか。
そして今回は極暑の中。雑魚寝は解消されたのか。トイレは、水は。なにより広い体育館や講堂にエアコンは設置されているのか。だが、臨時情報の間、国が総点検したとは聞かない。
9日、珠洲市などが避難所で体調を崩すなどした震災関連死に、新たに21人を加えると発表。能登半島地震の死者は341人。うち関連死121人となった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年8月20日(火)掲載/次回は9月2日(月)掲載です)
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