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2024年5月

2024年5月27日 (月)

「真実明らかに」胸に刻むべきは

-袴田巌さん再審裁判~被害者孫の心情代読-

 事件から58年、この秋、無罪が確定するとみられる袴田巌さん(88)の静岡地裁再審裁判が22日、検察側論告求刑、姉ひで子さん(91)の意見陳述を最後に結審した。この期に及んでなお、「死刑を求刑する」と言い放つ検察官に、いまも背筋が凍りついている。

 メディアの姿勢にも問題はないか。論告は検察の求刑を義務づけているものではない。現に、いずれも再審無罪となった滋賀県東近江市の看護助手患者殺害事件や熊本県松橋町男性刺殺事件の再審裁判で、検察は「量刑は裁判所の適切な判断を」として求刑はしなかった。だが、今回このことにふれたのは地元紙、静岡新聞だけだった。

 袴田さんは、いま社会に出ているものの、長期の拘禁で心神喪失状態にあることに鑑み、検察は「刑の判断は裁判所に委ねたい」とすべきだったのではないか。

 唯一の証拠となった5点の衣類について検察は、再審開始を決定した東京高裁の大善文男裁判長が「捜査機関によって捏(ねつ)造された可能性が極めて高い」とした点については、これまで同様の主張をしてきた弁護側に対して「非現実的だ」と反論しただけで、高裁の指摘には、ふれようともしなかった。

 被告、弁護側には刃を突きつけてきても、裁判所という権威とはことを構えたくない。検察の小狡さ、小賢しさばかりが目につく。

 検察側は結審で、被害者の孫にあたる男性の心情を代読陳述したいと主張。弁護側は、男性は事件当時、生まれてもいなかった。さらに無実の被告側に聞かせる言葉ではないとして反対したが、検察は強行した。

 陳述で孫は被害家族のなかで、ただ1人生き残った自分の母が事件後どれほど苦労したか切々と訴え、袴田さんにふれることは一切なかった。そして最後に「事実を再度精査し、真実を明らかにしてください」と強く訴えたのだった。

 この言葉を胸に刻み込むべきは、代読した検察官、そう、あなたたちではないのか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年5月27日掲載/次回は6月11日(火)掲載です)

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2024年5月14日 (火)

京都の町を黒幕で覆うわけにはいかない

-聞きしにまさるインバウンド狂騒-

 「この植民地状態、どないもならんのどすか」。大型連休最後の夜、久しぶりに訪ねた京都。祇園の小さな割烹の女将は、そうため息をつく。聞きしにまさる京のインバウンド狂騒。

 開店と同時にどやどやとやってきて「お好み焼きクダサイ」。そこは、どこの店もお好み焼きを置いているわけではないとお引き取り願うとして、ツアーガイドから「お客さん1人につき、いくらマージンくれますか」と頻繁にかかる電話。表に出れば舞妓さんの前に立ちはだかってスマホをかざして警備員と小競り合い。

 いつもお世話になっている個人タクシーの運転手さんの悩みも深い。毎年、青紅葉のころに来る常連さんの予約は、今年は半減した。円安で外国人客に的をしぼったホテルは1室10万円以上がザラ。日本人にはちょっと手が出ない。それでも来てくれたお客さんは食べ歩きでポイ捨てにされた串、紙皿が散らばる道路に「こんな京都は見たくない」。

 店内飲食をお願いする看板も、東南アジアの訪日客も多いのに、せいぜい英語、中国、韓国語かスペイン語まで。店内が難しいなら、せめて商店街と市でイートスペースは作れないかという。

 京都駅からのお客さんに「清水寺」と言われたら、1日の売り上げに相当響く。道にあふれる人の波と駐車場に列をなすマイカーで、タクシーは身動きがとれない。なにしろ清水は連休中、1日2万人の人出だった。

 だけど外国人に人気なのは、この清水さんをはじめ金閣、銀閣、二条城、伏見稲荷、それに嵐山の〝6カ所詣で〟。ほかに行ってほしいというのが地元の本音だが、これはパリ旅行でエッフェル塔や凱旋門、ルーブル美術館も外してというようなもので、まず無理だ。

 ここは外国人も日本人もお互い「もううんざり」とならないために、知恵のしぼりどころではないだろうか。富士山の絶景スポット前の町道のように、京都の町をすっぽり黒幕で覆うわけにはいかないのだから。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年5月14日掲載/次回は5月27日(月)掲載です)

 

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