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2024年2月

2024年2月26日 (月)

せめて大屋根リング木材を朝市再建へ

-嫌われた「大阪・関西万博」-

 大阪・関西万博について腰の定まらない在阪メディアだったが、やっと態度を明確にする社も現れた。2月半ばの毎日新聞は、ついに〈能登と万博 保証なき両立〉と書き、万博工事が能登復興の妨げになると危惧。〈建設業界・政府「支障なし」を強調〉としながらも、〈延期論は強くなる可能性も〉としている。

 政治も動く。お膝元の兵庫県議会では維新の抵抗で「妨害にならないよう」と修正されたが、一時、自民会派から「能登復興の妨げになるなら万博延期やむなし」の意見書を国に提出する動きがあった。

 政や官だけではない。町でタクシーの運転手と話していると、とりわけ万博アンバサダーの芸人の口にするのもおぞましい性加害が報じられてからは、「万博」は完全にタブー。特に女性から嫌われているという。

 建設費2350億円。交通網など関連経費1兆円超をつぎ込んで、これほどまでに嫌われた国家的イベントが過去あっただろうか。

 そんななか、来年の万博開幕日まで1年となる4月13日は目の前だ。それまでに万博中止を決定すれば参加国に払う違約金は全部で350億円。だが開幕日まで1年を切ると、844億円にハネ上がる。とはいえ、中止も延期もままならない現状。

 だったらこれはどうか。先の毎日の記事には、輪島の朝市の焼け跡と万博会場で建築中の世界最大級木造建造物、大屋根リングの写真が添えられていた。350億円の巨費を注ぎ込んで史上最大の〝日傘〟と揶揄されるリング。即刻、建設を中止して木材すべてを朝市再建にあてたらどうだ。ささやかであっても、共感のさざ波が起きると思うのだが。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年2月26日掲載)

 

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2024年2月19日 (月)

桐島聡“自首”の意味あったのでは

-若者がきちんとゆっくり社会を変えていくようになれば-

 49年間逃亡の末、死の4日前、神奈川県で男が重要指名手配犯「桐島聡」と名乗り出た連続企業爆破事件。リスナーの疑問に答えながら話した大阪・ABCラジオの先週の続き。

 東アジア反日武装戦線が学生運動を見限って、日雇い労働者や在日朝鮮人を中核に据えた〝窮民革命〟についてのリスナーの疑問。

 ――踏みにじられた窮民と財閥系企業の爆破がどうしても結びつかないのですが

 その通り、実際結びつかなかったのです。やはり自分たちが見限った学生運動と同様、彼らも頭でっかちだったのです。明日のお米にも困っている人々に爆弾を作っている余裕なんかあるはずがないのです。結果、自分たちで手を下し、組織は壊滅してしまいました。

 ――爆弾テロで社会が変わるはずがないですよね

 当然です。爆破で犠牲になったのは家族を大切に懸命に働く市民たちです。そんな人の命を奪っておいて共感を得られるはずがありません。

 ――それにしても49年間、よくも逃げ続けましたね

 彼らが教本にしていた「腹腹時計」には「単独で逃げ、深入りせずに人とつき合い、隣人には挨拶を欠かさず」と書かれていて、その通り実行していました。

 ――最期に名乗り出た意味はあったのでしょうか

 死の直前、捜査員に「(事件を)後悔している」と話したそうです。意味はわかりませんが、爆弾やテロでは社会は変わらない。事件当時21歳だった自分と同年代の若者がきちんと選挙に行き、ゆっくりであっても社会を変えて行ってほしい。そう捉えてもらえたら、彼が名乗り出た意味はあったのではないか。私は勝手にそう考えています。
   


(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年2月19日掲載)

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2024年2月12日 (月)

「桐島聡」名乗った男と あの頃の日本

-ラジオでじっくり語ってきた-

 大阪のABCラジオ、「おはようパーソナリティ小縣裕介です」から「あのころの事件を語れるのは、いまでは大谷さんくらい」と、なんだかよくわからない依頼をいただいてスタジオでじっくり語ってきた。

 テーマは逃亡49年、死の直前に「桐島聡」と名乗り出た連続企業爆破重要指名手配犯。リスナーから事件について、さまざま疑問が寄せられていた。

 ――連続企業爆破犯は、なぜ学生運動と一線を画したのですか

 1969年の東大安田講堂陥落を最後に大学を追われた学生は学外で連合赤軍を結成するなど武力闘争に走り、72年にはあさま山荘事件を起こします。一方で、群馬の山中で10人もの仲間をリンチして殺害したことも発覚。桐島容疑者らは理屈ばかりで頭でっかちな学生に見切りをつけるのです。

 ――そこでできたのが東アジア反日武装戦線だったのですね

 戦後、みんなが貧しかった日本も、70年代の高度経済成長期に入ると貧富の差が激しくなります。加えて経済力をつけた日本は、中国、韓国などアジアの国々に進出します。これを彼らは戦前の日本帝国主義の再来と捉えたのです。

 ――そんな帝国主義と、学生以外のだれが闘うのですか

 彼らはまさにその帝国主義によって踏みにじられている人、日雇い労働者、在日朝鮮人、アイヌ…そういう人こそ闘いの中核になるべきと考え、これを〝窮民革命〟と呼んだのです。

 ――厳しい生活を強いられている人に大企業相手の爆弾闘争をさせることが、どうしても結びつきませんが

 そうでしょうね。70年代の日本を揺るがした事件、とても1回では語り尽くせません。ラジオの続きはまた来週。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年2月12日掲載)

 

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2024年2月 5日 (月)

「終身刑」導入を真剣に議論する時では

-2件の死刑判決-

 2件の死刑判決が重く心にのしかかる。36人が死亡した京アニ事件で、また甲府市で交際を断られた女子高生の両親を殺害、家に放火した当時19歳の少年に、いずれも死刑が言い渡され、甲府事件は刑が確定した。

 京アニ事件の判決では青葉真司被告(45)に妄想があったとしたものの、刑事責任能力はあるとし、被害者、遺族の悲しみは「たとえようもなく重い」とした。

 また甲府事件の遠藤裕喜被告(21)は、少年法の改正で18、19歳は特定少年とされて重罰化、実名公表となった。判決では「反省も謝罪の態度もない。19歳を考慮するにも限度がある」と死刑を言い渡した。

 2件の極刑裁判で、京アニの青葉被告について判決は不幸な生い立ちや社会に受け入れられなかったことにふれ、「何で自分ばかりが、と自暴自棄になった」としている。また甲府の遠藤被告の裁判で弁護側は「不適切な養育が原因で、被告は反省しないのではない。反省できないのだ」と主張した。

 私はかなり強固な死刑制度支持者だ。だが両被告の命を絶ってしまったら社会は、どうやって置いてけぼりの人をひとりでも少なくしていくのか。少年は何年かかろうと、反省できる人間にはなれないのか。問い続けることはできなくなってしまう。私たちは事件から何も学ばなくていいのか。

 死刑、無期拘束刑を残しつつ、終身刑の導入を真剣に議論する時ではないのか。

 アメリカでわが子を殺害されながら、死刑廃止に立ち上がった女性の言葉が胸に突き刺さる。
 
 ―人を殺してはいけないと教えるために、あなたがたは、なぜ、もうひとつ命を奪おうとするのですか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2024年2月5日掲載)

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