ささえる人忘れぬよう自戒込めて…
-NHK記者の不正請求問題-
NHKの30代社会部記者が取材費を不正請求、懲戒免職となった問題で、陳謝する局幹部の姿に東日本大震災の年、被災地で経験したことを思い出した。
被災からほぼ半年、タクシーで取材先に向かっていると、運転手が「大谷さんはNHKでなく民放の仕事が大半ですよね。お乗せしたら、聞いてほしいことがあったんです」と言う。
いつも大災害直後は報道機関のタクシーの奪い合い。私も何度も苦い経験をしたが、取材費が豊富なNHKは、あの大震災の時もいち早く運転手の会社のマイクロバスを1日20万円で借り上げた。
だが、初夏ともなると取材も落ち着いてきて、運転手は朝からずっと待機。夕刻、この日初めて乗ってきた若い記者に「お金もかかるし、無線配車にされたら」と言ったところ、「あんたの会社とうちの局のことだろ。余計な口出しをするな」と食ってかかられたという。
「私の息子より若い、4、5年目くらいの記者でしたよ」。悔しさがよみがえったのか、唇がわなわなと震え、「あれ以来、なんと言われようと受信料は払わないことにしました」とつけ加えた。
もちろん、どんな組織にも勘違いしている人間はいる。だが、私たちメディアは受信料、購読料、スポンサー料、そして何よりも、名もない多くの視聴者、読者にささえられている。
言うまでもなく、コンプライアンスや原稿の送稿、機材の操作。そうした記者教育は大事だ。だが真っ先にたたき込むべきは視聴者、読者の存在ではないのか。この世界に飛び込んで半世紀。自戒を込めてそう思いつつ、今年も拙いコラムをご愛読くださったみなさま、どうぞ良いお年を―
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年12月25日掲載)
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