遠ざけられた市民の意思は
-厳戒の補選 首相演説会場-
参院高知・徳島選挙区、衆院長崎4区の補選は、きのう結果が出た。支持率に悩む岸田政権としては必死の選挙戦。前週末には首相自ら選挙区に乗り込んだが、どの演説会場も厳戒体制を通り越して近づきがたい異様な雰囲気だったという。
そのニュースにふれて、ひと月ほど前、北海道放送製作の「ヤジと民主主義」劇場拡大版が完成。山崎裕侍監督から「一言、コメントを」と頼まれて先行して見た映画が胸に浮かんだ。
2019年7月、安倍首相(当時)が参院選の応援のため札幌駅前で演説した際、「安倍やめろ」「増税反対」などとヤジった男性と女性が警官に会場から引きずり出されたり、女性警官に2時間もつきまとわれた。
2人は「表現の自由を奪われた」と道(道警)を提訴。昨年3月、1審・札幌地裁は道警の対応を「不当」としただけでなく、憲法の表現の自由にまで踏み込んで、原告全面勝訴を言い渡した。
ところが4カ月後、安倍元首相が凶弾に倒れると、1審の裁判長や道警を批判した朝日新聞に対して「警察の手足を縛って元首相を死に追いやった」などのバッシングが一部メディアやネットにあふれ返った。
そして安倍氏の命日が近づく今年6月の札幌高裁判決は男性逆転敗訴。女性のみ勝訴の痛み分け。とはいえ、1審完敗だった警察はこの判決で息を吹き返した。
翻って補選の首相演説会場。広報車の周囲を金属柵で囲って、その外側を胸にシールを貼った関係者で埋め、一般市民はさらにその外。こうまで遠ざけられた市民はどうやって意思を伝えたらいいのか。私にはかえって危険な状況を作り出しているとしか思えないのだが。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年10月23日掲載)
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