「ホタテ養殖の仲間は持ちこたえられるか」
-みちのく漁場に処理水の陰-
東日本大震災の取材でお世話になって以来、毎年秋、妻の実家から届くスダチをお贈りしている宮城県南三陸町の漁師さんからさっそくお礼の電話をいただいた。「今年はもう少しましな大きさのものを送れると思うんだあ」。話はすぐに昨年、折り返し届いたサンマのことに。たしかに去年、高い燃料費、赤字覚悟で遠くまで漁に出て取ってきたというサンマは、失礼ながら悲しいほど小ぶりだった。
それが今年はウクライナ問題でここ2年中止になっていたロシアが主張するEEZ(排他的経済水域)内の漁が解禁になり、60隻が漁に出ていて大きめのサンマが期待できるのではないかという。だが、話はすぐに処理水の海洋放出問題に。
「おらとこはカキとワカメだからいいけど、ホタテ養殖の仲間は持ちこたえられるかどうか」という。中国の日本からの水産物全面禁輸が伝わるや値崩れが起き、廃業を考える業者も出ているという。国の漁業補償はあるが、そうしたものより、中国がこれで大儲けしている乾燥ホタテ加工用の恒久的な施設は造れないものか。だが、そういった声はなかなか届かない。
深刻な問題はまだある。秋口、三陸沖にやってくる大群を追うカツオの一本釣り。欠かせないのは漁場にまく生きたイワシだ。これがないとカツオの群れは寄ってこない。だが、海面水温はいまも異状な高さで、浜のいけすで泳がせているイワシが次々と死んでしまって、出漁時、確保できないのではないかという。
サンマにカキ、ワカメ、ホタテにカツオ、そしてイワシ。浜風がいささかいつもと違う、みちのくの秋の漁場の様子を運んできてくれるようだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年9月25日掲載)
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