「原爆被害と不可分」枕崎台風と2000人の死
-戦後78年の夏-
終戦の日の15日、TBSの「ひるおび」に出演予定だった私は台風7号の本州直撃の予報を聞き、ほかに事情もあったことから前日、大阪から東京入り。当日はスタジオでみんなと一緒に近畿縦断の台風情報を伝えることができた。気象台の進路予想の正確さに大いに感謝というところだった。
そんな折、ノンフィクション作家の柳田邦男さんが9日、広島で講演。1945年の広島原爆投下からわずか1カ月後の9月17日、鹿児島に上陸した枕崎台風について話されたことを朝日新聞の広島版で知った。
死者・行方不明者3756人を出した枕崎台風は九州に上陸しながら、死者のうち約2000人が広島で最も多かった。
当時、広島の気象台は原爆投下で機能を失い、台風の記録を中央気象台に送ることができず、県民に情報が届かないまま大惨事となってしまった。
そんな中でも被爆した体で懸命に職務を全うしようとした職員がいたことを知って、後に柳田さんは「空白の天気図」の著作でその姿を克明に描いた。講演で柳田さんは「この災害は、原爆被害と不可分なものと見なければ真相はとらえられない」と話されたという。
さて、ほぼ進路予測通りに上陸した台風7号。だが、その後は予想だにしなかったことを引き起こす。中心よりはるか西の鳥取で記録的大雨を降らせ、私もかつて流しびなの取材で訪ねたあの穏やかな千代川を濁流が渦巻いた。静岡では竜巻。北に800㌔の岩手でも警報級の大雨が降り続いた。
平和のありがたさをかみしめつつ、いまだ到底、人知の及ばない自然現象の奥深さ。そんなことを思い知らされる、戦後78年の夏である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年8月21日掲載)
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