« 2023年7月 | トップページ | 2023年9月 »

2023年8月

2023年8月28日 (月)

時間かかっても原発ゼロにするしかない

-処理水の海洋放出-

 「決して賛成ではないけれど、反対はしない」。私はテレビなどでこのようにコメントしている。福島第1原発処理水の海洋放出が、ついに24日から始まった。

 「安全性への理解は深まった」としながらも、「科学的安全と社会的安心は違う」とする全漁連会長の言葉に、震災から10年、このコラムに福島の道の駅で見かけたミニトマトについて書いたことを思い出した。

 他県産と同じ値をつけたまっ赤なトマトに、町の職員は「やっとここまできた」と顔をほころばせた。大気や海洋、土壌汚染、子どもの甲状腺…。それらが報じられるたびに農産物は買いたたかれ、嫌というほど思い知らされた風評被害。

 そしてこのたびも、そんな風評被害で福島を苦しめるなと政党や市民団体の人々が東電や福島県庁前に立つ。だが手にしたボードには「処理水」ではなく、決まって「汚染水」と大書きされている。それを目ざとく報じる中国など一部の国々。福島の生産者や、あの日、道の駅でミニトマトを前にした町の職員はこの光景をどんな思いで見ていることか。

 問題の本質は、そこにないはずだ。2度とこんな事態を引き起こさないことではないのか。そのためには脱原発。新規建設はもちろん、再稼働もとんでもない。時間がかかろうとも、原発ゼロの国にするしかない。

 この時期、多くの人々の胸に去来する、詠み人知らずの句がある。

 〈八月は六日 九日 十五日〉 

 そこに「過ちは 繰返しませぬから」の思いを込めて、「二十四日」をつけ加えたらどうだろう。海洋放出が続く向こう30年間、せめてこの日を忘れずにいたい。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年8月28日掲載)

 

|

2023年8月21日 (月)

「原爆被害と不可分」枕崎台風と2000人の死

-戦後78年の夏-

 終戦の日の15日、TBSの「ひるおび」に出演予定だった私は台風7号の本州直撃の予報を聞き、ほかに事情もあったことから前日、大阪から東京入り。当日はスタジオでみんなと一緒に近畿縦断の台風情報を伝えることができた。気象台の進路予想の正確さに大いに感謝というところだった。

 そんな折、ノンフィクション作家の柳田邦男さんが9日、広島で講演。1945年の広島原爆投下からわずか1カ月後の9月17日、鹿児島に上陸した枕崎台風について話されたことを朝日新聞の広島版で知った。

 死者・行方不明者3756人を出した枕崎台風は九州に上陸しながら、死者のうち約2000人が広島で最も多かった。

 当時、広島の気象台は原爆投下で機能を失い、台風の記録を中央気象台に送ることができず、県民に情報が届かないまま大惨事となってしまった。

 そんな中でも被爆した体で懸命に職務を全うしようとした職員がいたことを知って、後に柳田さんは「空白の天気図」の著作でその姿を克明に描いた。講演で柳田さんは「この災害は、原爆被害と不可分なものと見なければ真相はとらえられない」と話されたという。

 さて、ほぼ進路予測通りに上陸した台風7号。だが、その後は予想だにしなかったことを引き起こす。中心よりはるか西の鳥取で記録的大雨を降らせ、私もかつて流しびなの取材で訪ねたあの穏やかな千代川を濁流が渦巻いた。静岡では竜巻。北に800㌔の岩手でも警報級の大雨が降り続いた。

 平和のありがたさをかみしめつつ、いまだ到底、人知の及ばない自然現象の奥深さ。そんなことを思い知らされる、戦後78年の夏である。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年8月21日掲載)

 

|

2023年8月14日 (月)

こども家庭庁“10兆円”の行方は

-民間「こども食堂」に思う-

 三重テレビのニューススタジオ。先日のゲストは「こども食堂・太陽の家」代表の対馬あさみさんだった。7人に1人の子どもがおなかをすかしているいまの社会。だけど太陽の家は食堂だけではない。1人親家庭の悩み、保育園問題、コロナ離職、介護、いじめ、不登校…。子どもも大人も本音をぶつけあう。

 「だけど、それってみんな『こども家庭庁』がやるべきことじゃないの?」。コメントで思わず、私の最近の思いが口をついて出た。

 昨年、年間予算5兆円でスタートした「こども家庭庁」。これに加えて岸田政権は少子化対策に本年度5兆円の特別会計を組むことにした。

 だけどこども家庭庁が打ち出した「こどもまんなか」政策は、サッカー少年を応援する「Jリーグとのコラボ」だったり、子育て中の家庭を若者が訪問する「家族留学」。さらには博物館、美術館のこども優先レーンだという。一体これらのどこが、いじめや不登校、ワンオペ育児に悩むこどもや家庭のための施策なのか。

 5兆円もの少子化対策では、特別会計(特会)が亡霊のごとく現れた。特会は国会の審議を経る一般会計と違って、ノーチェックの便利なお財布。かつては道路やハコモノにバラまかれ、「母屋(一般会計)がおかゆをすすっているのに、離れ(特会)ではすき焼きを食っている」と批判されて縮小したものが復活してきたのだ。

 こども家庭庁と特会で合わせて10兆円。民間の寄付に頼るこども食堂にとって、仰ぎ見る金額ではないか。

 ちなみに取材させてもらった日のこども食堂のメニューは、安くて栄養満点、チンジャオロースと具材たっぷりいろいろおにぎりでした。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年8月14日掲載)

 

|

2023年8月 7日 (月)

街から消える木陰 企業と行政の影は

-やりたい放題に手を貸すな-

 テレビ局が元社員から借りた「黒革の手帖」とも呼べそうなビッグモーターの経営計画書を見せてもらった。「会社と社長の思想を受け入れられない人はすぐ辞めてください」などと書かれた計画書。社長が一代で成り上がった会社にありがちな社内風土と見ていたが、この会社は私たちにとっても許し難い組織であることが明らかになってきた。

 展示された中古車が道路からよく見えるように街路樹を切り倒し、下の緑地には除草剤を撒いていた。NHKの調べでは、こうしたことは北海道から九州まで18都道府県39店舗で行われていたという。映像で見ると、切り株がまだ店の前にデンと残っている所もある。

 だが驚くことがある。こうした行為に警察と連携して断固、措置するという自治体がある一方で、静岡県などは「視界の確保、車両の出入りのための伐採という申請を許可しただけ」として是正や警告といった措置は取らないとしている。

 一体、このブラック企業の中古車を道路から見やすくするための街路樹伐採の、どこが視界の確保なのだ。

 折しも商社や大手不動産会社が樹齢100年近い古木約900本を切り倒して超高層ビル2棟を建てる神宮外苑再開発計画。記念物保存の国際機関、イコモス日本委員会が樹木伐採を抑える整備案を提案しても、小池東京都知事は「古木を切っても、それ以上に若木を植えるので新たな緑の充実だ」と自説を曲げず、「(反対意見は)ネガティブキャンペーン、プロパガンダ」と切って捨てた。

 やりたい放題の企業と、それに手を貸す行政。観測史上最高の暑さのなか、街から木陰が消えていく。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年8月7日掲載)

|

« 2023年7月 | トップページ | 2023年9月 »