迷走どころか暴走繰り返す検察
-袴田事件再審-
7月に入り、目を凝らして見ていることがある。57年前、静岡で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)について、この春、東京高裁が検察の抗告を棄却。静岡地裁での再審開始が決まった。
あれから4カ月。この間、袴田さんの支援集会には9年前、初めて静岡地裁で再審開始を決定、「これ以上、袴田さんを拘束することは耐えがたいほど正義に反する」と異例の死刑囚釈放を決めた村山浩昭元裁判官も出席。袴田さんや姉のひで子さん(90)と面会。再審法制定の必要性を語られた。
だが検察は、この流れを尻目に迷走どころか暴走を繰り返す。4月、裁判所、検察、弁護側の初の3者協議で「改めて有罪立証するかを含め論点整理に3カ月かかる」と、いきなり7月10日までの猶予を要求。これまで計3回開かれた協議でも方針は示さないままだ。
それどころか毎日新聞によれば、高裁決定で「捏造された可能性がある」とされた5点の衣類について「色合いなどもう1度、調べる」とする動きがあるという。一体、今月10日の期限直前に、裁判官が〝デッチ上げ〟と見ている証拠から何を引き出そうというのか。
事件から半世紀。「もう何が起きてもがっかりすることはありません」というひで子さん。ただ「死刑囚でない普通の巌と、この先、半日でも1日でも長く暮らしたい」と涙ぐまれる。
先日、これまで3度も再審が認められた鹿児島県の大崎事件で、福岡高裁宮崎支部は検察の抗告を認め、原口アヤ子さんの訴えを退けてしまった。原口さん95歳。
耐えがたいほど正義に反する日々が、ここでも積み重なっていく。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月3日掲載)
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