検察の「とんでもないこと」
-袴田事件有罪立証へ-
〈有罪立証 こだわる検察〉〈弁護団「組織のためか、がっかり」〉(朝日)〈「無罪」公算大 信頼失うリスク〉〈弁護団「議論蒸し返しだ」〉(毎日)〈検察主張に厳しい目〉〈弁護団憤り「人生を何だと…」〉(読売)〈「真の自由」また遠のく〉(東京)。 袴田事件の再審裁判で検察は先週、改めて袴田巌さん(87)の有罪立証をして行くと言い出した。ここに取り上げたのは、それを報じる新聞各紙の見出しだ。
新聞記者が最初に中立、公平を徹底的にたたき込まれるのは、刑事、民事を問わず双方が争う裁判記事だ。だが、そんな約束事はここではどこかに吹っ飛んだ。
再審を決めた東京高裁に証拠捏造を指摘された「検察内部の不満が後押しした」(朝日)。メンツ、保身のためだけの審理引き延ばし。記者の憤りが伝わってくる。
そんななか、肩の力がすーっと抜ける場面もあった。記者会見で姉のひで子さん(90)は「検察だから、とんでもないことをすると思ってました」。隣に座る弁護団の小川秀世事務局長が「ちょっと、ちょっと、それを言っちゃあ…」とばかりに肩を引き寄せたが、「57年も闘ってきたんです。2~3年長くなったってどうってことない」ときっぱり。会見場にやわらかな安堵の空気が流れるのが、テレビ局のスタジオで見ていた私にも伝わってきた。
だけど90歳と87歳。ふたりのこの先の命の時間を日々削っていく権利が、一体だれにあると言うのか。
権威、権勢、保身、メンツ、陰湿、陰険、姑息、傲慢、不遜…。いま国民が望んでいるのは、こんな検察の「とんでもないこと」を毅然とはね返す裁判所の姿だ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月17日掲載)
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