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2023年7月

2023年7月31日 (月)

悪知恵の限り尽くした特捜検事調べ

-河井元法相の事件で自白誘導-

 少し前のこのコラムに、袴田事件で審理の引き延ばしを図る検察に、陰湿、陰険、姑息、傲慢…などと書いて、一瞬、書きすぎ? と思ったのだが、これでもまだ足りなかったようだ。

 参院選に立候補した妻のため広島の県議、市議らに2900万円をバラまいた河井克行元法相(服役中)の事件で、30万円を受け取ったとして起訴された元広島市議の任意取り調べの録音、録画データを読売新聞が入手。特捜検事のあからさまな自白誘導をスクープした。

 「お金は選挙応援のためとは思わなかった」という当時市議だった男性に「河井(元法相)だけ処罰できたらいいんだ」と持ちかけ、起訴、有罪となれば議員資格を失うことをちらつかせて買収の自白に誘導する。

 元法相の裁判に検察側証人として出廷させるに当たって一問一答のリハーサル。買収の認識を否定する元市議に「調書に取られた通り(買収)と言い切っておこう」。さらにこの一問一答は「なかったことに」と口止めする音声も残っていた。

 まだある。特捜事件は調べの全面可視化が義務づけられているが、任意調べは部分録画が認められている点に着目し、買収の認識を否定した場面はカット。「(買収は)調書の通りか」という質問に「はい」と答えるシーンだけが録画証拠として提出されていた。

 まさに悪知恵小知恵の限りを尽くした特捜検事調べ。これまでこうして無辜の民を一体、何人罪人に仕立て上げてきたことか。マイナカードと同様、メディアの各種世論調査で1度、「検察は国民にとって必要か」「組織を見直す必要があると思うか」といった質問を設けてみたらどうだろうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月31日掲載)

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2023年7月24日 (月)

こどもホスピスがもっとできたら

-闘病2万人 施設は2カ所だけ-

 命にかかわる病と闘っている子どもは、国内で常に約2万人いるという。手術やつらい治療。「おうちに帰りたい」という子どもに、親たちは「良くなったらね」と答える。そんな子どもたちに焦点を当てた朝日放送テレビ(大阪)の「こどもホスピス~いのち輝く〝第2のおうち〟~」が、私も審査員をつとめた日本民間放送連盟賞近畿地区報道部門で地区連盟賞に輝いた。

 三角屋根にシロツメグサが生える敷地の「TSURUMI こどもホスピス」(大阪市)はオープンして6年。遊具にジャグジー風呂、家族で泊まれる部屋もある。民間の寄付で賄われ、これまで150組が利用した。

 眼球のがんの8歳のアンリカちゃんが大好きになった友だちは50歳も離れた女性スタッフだった。「おうちに帰る」という悠歩くん(6歳)を抱き締めながらみとった両親は、後から施設の存在を知って足を運び、ずっと支援を続けている。

 ドイツに駐在中に添い寝しながら夕青くん(1歳9カ月)を送った母親には死の直前、たった5日間、お世話になった子どもホスピス「レーゲンボーゲンラント」(虹の国」から日独の懸け橋になりましょうと、いまも命日にメールが届く。

 心配していた神経がんが再発した大地くん(11歳)はドッジボールでボールを当てないことにしてくれたクラスメートに感謝しながら、「そんな気を使わなくてすむ、こどもホスピスがもっとできたらいいと思います」と、作文に書いた。

 だけど子どもホスピスは、いま国内で、ここと横浜の2カ所だけ。地区連盟賞の作品が大地くんや親たちと、心ある方々の懸け橋になってくれたらと願っている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月24日掲載)

 

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2023年7月17日 (月)

検察の「とんでもないこと」

-袴田事件有罪立証へ-

 〈有罪立証 こだわる検察〉〈弁護団「組織のためか、がっかり」〉(朝日)〈「無罪」公算大 信頼失うリスク〉〈弁護団「議論蒸し返しだ」〉(毎日)〈検察主張に厳しい目〉〈弁護団憤り「人生を何だと…」〉(読売)〈「真の自由」また遠のく〉(東京)。 袴田事件の再審裁判で検察は先週、改めて袴田巌さん(87)の有罪立証をして行くと言い出した。ここに取り上げたのは、それを報じる新聞各紙の見出しだ。

 新聞記者が最初に中立、公平を徹底的にたたき込まれるのは、刑事、民事を問わず双方が争う裁判記事だ。だが、そんな約束事はここではどこかに吹っ飛んだ。

 再審を決めた東京高裁に証拠捏造を指摘された「検察内部の不満が後押しした」(朝日)。メンツ、保身のためだけの審理引き延ばし。記者の憤りが伝わってくる。

 そんななか、肩の力がすーっと抜ける場面もあった。記者会見で姉のひで子さん(90)は「検察だから、とんでもないことをすると思ってました」。隣に座る弁護団の小川秀世事務局長が「ちょっと、ちょっと、それを言っちゃあ…」とばかりに肩を引き寄せたが、「57年も闘ってきたんです。2~3年長くなったってどうってことない」ときっぱり。会見場にやわらかな安堵の空気が流れるのが、テレビ局のスタジオで見ていた私にも伝わってきた。

 だけど90歳と87歳。ふたりのこの先の命の時間を日々削っていく権利が、一体だれにあると言うのか。

 権威、権勢、保身、メンツ、陰湿、陰険、姑息、傲慢、不遜…。いま国民が望んでいるのは、こんな検察の「とんでもないこと」を毅然とはね返す裁判所の姿だ。

 

日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月17日掲載)

 

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2023年7月10日 (月)

最後の行方不明者と執念の捜索

-熱海土石流災害2年-

 先週7月3日、熱海土石流災害は発生から2年となった。この日、静岡朝日テレビは特別番組を放送。私も出演させてもらった。

 消防に通報があった午前10時28分、伊豆山地区では28人の犠牲者の遺族らがサイレンの音とともに黙とう。その中に、この日初めて遺族の1人として手を合わせる太田朋晃さん(57)の姿があった。

 太田さんの母、和子さん(当時80)はあの日、濁流に押し流された自宅にいた。2カ月後、27人の死亡が確認される中、和子さんだけが行方不明のままだった。

 その一方、警察の捜索で昨年6月には診察券が発見されたが、和子さんの行方は依然わからず、1年目の追悼式、太田さんはどうしても遺族として参列することができなかったという。

 だが14カ月目には運転免許証。そして1年7カ月後の今年2月、私がこの局の夕方ニュース番組、「とびっきり!しずおか」の出演中に「土砂の中から人骨発見」の第一報。その数週間後にはDNA鑑定で和子さんの右前腕部の骨と判明した。

 取材に応じてくださった太田さんの仮住まいのアパートの一室には、母の遺影とともに小さな白木の箱に入った遺骨が置かれていた。

 猛暑の夏も、極寒の冬も捜索を続ける警察に、太田さんは診察券や免許証が届けられるたびに「これを遺骨と思って…」という言葉が出かかったという。だが、それを押しとどめるように熱海署の幹部から返ってきた言葉は「捜す所がなくなるまで捜します」。

 追悼の日、長く長く尾を引くサイレンの中、深く頭を垂れる太田さんの背後に、くる日もくる日も土砂をふるいにかけ続けた警察官の姿が浮かんでくるようだった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月10日掲載)

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2023年7月 3日 (月)

迷走どころか暴走繰り返す検察

-袴田事件再審-

 7月に入り、目を凝らして見ていることがある。57年前、静岡で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)について、この春、東京高裁が検察の抗告を棄却。静岡地裁での再審開始が決まった。

 あれから4カ月。この間、袴田さんの支援集会には9年前、初めて静岡地裁で再審開始を決定、「これ以上、袴田さんを拘束することは耐えがたいほど正義に反する」と異例の死刑囚釈放を決めた村山浩昭元裁判官も出席。袴田さんや姉のひで子さん(90)と面会。再審法制定の必要性を語られた。

 だが検察は、この流れを尻目に迷走どころか暴走を繰り返す。4月、裁判所、検察、弁護側の初の3者協議で「改めて有罪立証するかを含め論点整理に3カ月かかる」と、いきなり7月10日までの猶予を要求。これまで計3回開かれた協議でも方針は示さないままだ。

 それどころか毎日新聞によれば、高裁決定で「捏造された可能性がある」とされた5点の衣類について「色合いなどもう1度、調べる」とする動きがあるという。一体、今月10日の期限直前に、裁判官が〝デッチ上げ〟と見ている証拠から何を引き出そうというのか。

 事件から半世紀。「もう何が起きてもがっかりすることはありません」というひで子さん。ただ「死刑囚でない普通の巌と、この先、半日でも1日でも長く暮らしたい」と涙ぐまれる。

 先日、これまで3度も再審が認められた鹿児島県の大崎事件で、福岡高裁宮崎支部は検察の抗告を認め、原口アヤ子さんの訴えを退けてしまった。原口さん95歳。

   耐えがたいほど正義に反する日々が、ここでも積み重なっていく。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年7月3日掲載)

 

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