藤井7冠 この師匠にしてこの愛弟子あり
-新幹線ミニ将棋講座-
先週の「ひるおび」(TBS系)の控室。さっそくゲストの棋士、杉本昌隆八段に「先日はありがとうございました」のごあいさつから始まった。愛弟子の藤井聡太さんが20歳10カ月で史上最年少の新名人、そして7冠となった翌2日。そう、あの大豪雨の日。東京で「ひるおび」に出演された杉本さんを、私は名古屋の東海テレビでお待ちしていた。
ところがせっかく組んだ特番開始の約50分前の午後3時過ぎ、「新幹線が掛川駅で止まったままです」と局に厳しい声の電話。いま動いたとしても番組には間に合わない。スタッフは肩を落とし、割られるはずのくす玉が寂しくぶら下がっている。
だがその時、杉本さんは「電話でやりましょう」。番組開始から10分近く、藤井新7冠とはこれからゆっくり電話で話すこと。タイトルが念願だった愛知の将棋界に7つも冠を持ってきてくれたこと。最後尾16号車のデッキから話し続け、最後の言葉は、なんと「すごい雨です。どうか視聴者のみなさんも気をつけて」。
その豪雨の日から4日後。「師匠、あのあとどうされたんですか?」「ハイ、掛川駅で、ずっと車内に」「ええっ、あのままだったんですか?」
聞けば翌朝5時過ぎに動き出すまで14時間、新幹線車内に缶詰めだったという。配られたのは水とサプリメントだけ。「でもね、名人戦の長野からの帰りというファンに見つかって、午前2時から新幹線ミニ将棋講座。楽しかったですよ~」。
折にふれて「万里一空」(困難があっても、まっすぐ目標に向かうこと)と揮毫する藤井7冠。この師匠にして、この愛弟子あり。梅雨の雲間に、やわらかな日の光を見た思いだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年6月12日掲載)
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