坂本龍一さんの遺言
-神宮外苑 再開発問題-
社会部記者だった私は、音楽とはあまり縁がないが、坂本龍一さんは10年ほど前に1度取材させていただいた。森を守ろうと、自身が代表をしていた「モア・トゥリーズ」が銘木、東濃ヒノキの産地、岐阜県の2つの森林組合と協定を締結。東白川村に長く続く地歌舞伎の木造の芝居小屋で地元の方たちと交流会を開いた。
伊勢神宮の神殿にも使われる東濃ヒノキで作った棺桶に入ってみて木の香に酔いそうだったと話され、「でもね、棺桶なので、いついるか、予約をできないのが難点です」と〝教授〟のあだ名とは裏腹なユーモアで会場を沸かせていた。
その坂本さんは、死の3週間前、交流のあった東京新聞の記者に神宮外苑の再開発について「取材してほしい」と連絡していたという。
私も昨年2月、このコラムに「神宮球場では、子どもたちがバットの素材になるアオダモを植林している映像が流れる一方で、大人たちは樹齢100年の古木1000本を切り倒して高層ビルを建てる」と書いた神宮外苑再開発問題。
病床にあって対面取材は無理だった坂本さんは「後悔しないように」と、記者も「これほどの分量が届くとは」と驚くA4用紙3枚に思いの丈を綴られていたという。
さらに小池東京都知事に宛てた手紙も公表。そこには「経済的利益のために先人が100年かけて守り育ててきた貴重な樹木を犠牲にすべきではありません」「樹々を未来の子どもたちへと手渡せるよう、再開発計画を中断し、見直すべきです」と書かれていた。
坂本さんは亡くなられたが、音楽と森の妖精は、なお静かに、力強く、舞い続けているようである。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月10日掲載)
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