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2023年4月

2023年4月24日 (月)

「病気になっても病院がある」論法

-大阪のカジノ計画-

 「3日にあげず」とは辞書によると「間を置かず」とある。大阪のカジノ計画はギャンブル依存症防止のため、日本人は7日間で3回、28日間で10回までと決められている。紛れもなく「3日にあげず」。朝日新聞の「天声人語」ならずとも、みんなが不安に思うはずだ。

 2029年、大阪湾の埋立地「夢洲」に開業予定の、このIR統合型リゾートという衣をまとったカジノ施設。きのう終わった統一地方選前後半戦のど真ん中、同じ夢洲で2年後に開かれる大阪万博の起工式があった翌14日、政府が計画を認定した。

 カジノは万博と並んで、この地方選で破竹の勢いを見せた大阪維新、日本維新の会の目玉政策。政権のすり寄り、ご祝儀認定と言われても仕方あるまい。

 カジノをめぐる不安は日本人客の入場日数ばかりではない。リゾートでカジノが占める面積は全体のわずか3%とされているが、その面積で国際会議場やシアターなど施設全体の年間売り上げ5200億円の8割、4100億円を稼ぎ出す算段という。そんなうまい話があるのか。捕らぬカジノの皮算用としか思えない。

 その一方で、大阪府が全国初となるギャンブル依存症対策推進の条例を制定したことや、依存症になっても治療や相談を一括して受けられる拠点施設を設けるとしたことが認定につながったという。そもそも「病気になっても病院があるから大丈夫」という論法がなぜ評価されるのか、さっぱりわからない。

 私はギャンブルそのものは否定しない。だが政権が党利党略のために進めることではない。まして国が音頭をとり、旗を振ってやるべきことではないはずだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月24日掲載)

 

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2023年4月17日 (月)

なんともむなしい無投票当選

-統一地方選 前半終了-

 統一地方選の前半で9道府県の知事選と41道府県議選は終わった。道府県議選の投票率が過去最低の41・85%ということにも驚くが、不可解でならないのが無投票選挙区の多さだ。全体の37・1%、3分の1の選挙区、員数にして25%。4人に1人が審判を受けずに無投票で当選している。

 私が住む大阪でも定数削減で激戦と言われながら、53選挙区のうち11選挙区15人が無投票当選だ。全国では9議席の甲府市が無投票。島根県では10回連続、40年間無投票の選挙区もある。

 出演しているテレビ番組で告示日に無投票当選が決まった候補を追ったが、立候補届け出締め切りの午後5時が来ると、それまでそわそわしながら「できたら有権者の審判を」と言っていた候補者が満面の笑みで花束を抱え、「私の実績を見たら対抗して出てくる人なんていないでしょう」。

 選挙報道のたびに投票を呼びかけている側からすると、なんともむなしい話だが、投票できない有権者にしてみれば支持しない候補者でも議席を得ていく。そのことに憤りさえ感じるのではないか。〝1票の格差〟どころではないはずだ。

 ここは制度を抜本的に改革する時ではないか。たとえば立候補者が定数以内だったとしても無投票とせず、○×をつける信任投票を実施。不信任が過半数となった候補は落選。1人区でそうなった場合は議席を失う。そうした改革をすれば、みんながなんとか選挙戦へと力を入れるのではないか。

 毎日新聞の「余録」欄は「地方自治は民主主義の学校」と書いている。ならば、この事態は学校崩壊ならぬ、民主主義崩壊の危機ではないだろうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月17日掲載)  
  

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2023年4月10日 (月)

坂本龍一さんの遺言

-神宮外苑 再開発問題-

 社会部記者だった私は、音楽とはあまり縁がないが、坂本龍一さんは10年ほど前に1度取材させていただいた。森を守ろうと、自身が代表をしていた「モア・トゥリーズ」が銘木、東濃ヒノキの産地、岐阜県の2つの森林組合と協定を締結。東白川村に長く続く地歌舞伎の木造の芝居小屋で地元の方たちと交流会を開いた。

 伊勢神宮の神殿にも使われる東濃ヒノキで作った棺桶に入ってみて木の香に酔いそうだったと話され、「でもね、棺桶なので、いついるか、予約をできないのが難点です」と〝教授〟のあだ名とは裏腹なユーモアで会場を沸かせていた。

 その坂本さんは、死の3週間前、交流のあった東京新聞の記者に神宮外苑の再開発について「取材してほしい」と連絡していたという。

 私も昨年2月、このコラムに「神宮球場では、子どもたちがバットの素材になるアオダモを植林している映像が流れる一方で、大人たちは樹齢100年の古木1000本を切り倒して高層ビルを建てる」と書いた神宮外苑再開発問題。

 病床にあって対面取材は無理だった坂本さんは「後悔しないように」と、記者も「これほどの分量が届くとは」と驚くA4用紙3枚に思いの丈を綴られていたという。

 さらに小池東京都知事に宛てた手紙も公表。そこには「経済的利益のために先人が100年かけて守り育ててきた貴重な樹木を犠牲にすべきではありません」「樹々を未来の子どもたちへと手渡せるよう、再開発計画を中断し、見直すべきです」と書かれていた。

 坂本さんは亡くなられたが、音楽と森の妖精は、なお静かに、力強く、舞い続けているようである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月10日掲載)

 

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2023年4月 3日 (月)

放送法文書めぐる危機感

-抗議声明出さないテレビ-

 安倍政権時代、当時の首相補佐官が特定のテレビ番組をめぐって総務省と交わしたやりとりを記録した「放送法文書問題」。当時の高市早苗総務相(現・経済安保担当相)が「怪文書だ」と強弁すると、野党は「公文書だったら大臣を辞任するのか」。そうこうするうちに、問題の本質がどこかに行ってしまったようだ。果たしてこれでいいのか。とりわけ私は問題発覚後のテレビメディアに大きな危機感を抱いている。

 この問題で私は朝日新聞電子版、「放送法文書 何が問題なのか」の取材を受けたほか、ポッドキャストでは東京新聞の望月衣塑子記者とトークを繰り広げた。

 もちろん、私がテレビでコメンテーターをしていることもあるが、もっと大きな理由は、首相補佐官とやりとりがあった翌2016年、高市総務相が「1番組ごとに判断。内容によっては電波を止める停波もある」と発言、そのことに憤りを感じた田原総一朗さんや鳥越俊太郎さん、青木理さん、それに私など6人のジャーナリストが「私たちは怒っています!」と書いた横断幕を掲げて強く抗議した。そのことをみなさん覚えていて、今回、取材を申し込んでこられたのだ。

 このたびも、またあのときのメンバーはそれぞれ発言されている。だが、その一方で、いまテレビ局の中にいる人たち、とりわけNHKを含む各局の報道局長はこの事態に一体、何をしているんだ。私が抱く危機感はそこにある。なぜ「真相を明らかにしろ。停波の流れには強く抗議する」と声明の1つも出さないのか。

 4月は各番組が衣替えする改編期。だが、この春は霞どころか、どんよりとした雲の中にいるようである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年4月3日掲載)

 

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