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2023年2月

2023年2月27日 (月)

重い作品の意義を説明せよ

-「はだしのゲン」広島市教材外し-

 10日ほど前、朝日新聞の朝刊を繰る手が止まった。〈「はだしのゲン」教材から外す 来年度から 広島市の小3向け 市教委「被爆の実相、迫りにくい」〉

 広島市の統一教材「ひろしま平和ノート」で、原爆の悲惨さを伝える「はだしのゲン」は小3と高1でいくつかの場面が引用されていたが、小3は別の内容に、高1も大幅に縮小される。

 「はだしのゲン」は作者の故・中沢啓治さんが6歳で父、姉、弟を失い、自らも被爆した体験と悲惨な少年時代を漫画に描き、単行本は全10巻、世界で4000万部が読まれている。

 市教委は教材から外す理由として「被爆の実相に迫りにくい」とし、さらにゲンが浪曲を歌って日銭を稼ぐ場面について、いまの子に浪曲はなじまない。栄養不足の母のためにコイを盗む場面は、誤解を招く―としている。

 その一方、教材から外すことについて「『はだしのゲン』の意義を否定するものではない」としているが、では、この程度のエピソードがこの重い作品の意義をどれほど否定したというのか。先生が少し説明すればすむことではないのか。もう1点、市教委は大学教授らと議論を重ねたというが、中沢さんが描いた以上の実相が果たして存在したのか。

 小3の教材で「はだしのゲン」を知り、この重い超大作に挑んでみたという広島の子どもたちも少なくなかったはずだ。

 今回の広島市教委の方針変更にふれた朝日新聞の「天声人語」は〈きれいな戦争がないように、教えやすい戦争もありえまい〉と書く。

 夏休みの読書感想文で、クラスの輪読会で、「はだしのゲン」がいつまでも同年代の子どものそばにいてくれることを切に願っている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年2月27日掲載)

 

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2023年2月20日 (月)

声を上げる人をたたく理不尽さ

-大川小津波裁判の映画-

 200時間ぶりに奇跡の救出、といった報道も途絶え、トルコ大地震の死者は4万人を超えた。そんな中、私は先週末から東日本大震災の被災地にいる。それと時を同じくして昨年、このコラムに「多くの映画館が手を挙げてほしい」と書いた「生きる 大川小学校 津波裁判を闘った人たち」が18日からの東京を皮切りに、全国各地で上映される。

 津波で命を落とした74人の児童の親たちが「真相を知りたい」と立ち上がった裁判。仙台高裁は日ごろの避難訓練などで自治体や国に落ち度があったと認定。親たちの全面勝訴となった。

 大災害の取材や冤罪報道で私とは長いおつき合いのこの映画の監督、寺田和弘さん(51)は先日、朝日新聞の「ひと」欄にも登場。親たちに浴びせられた「子どもの命を金にするのか」といった中傷に、自身の高校時代、過剰な生徒指導に沈黙していた過去にふれ、異議を唱える小さな声を社会に届けたい、としたうえで、「声を上げる人をたたく社会の理不尽さを考えてほしかった」と訴える。

 大阪第七藝術劇場(十三)の26日(日)昼の上映後、寺田さんと私は、津波で妻と父、それに大川小に通う長女を亡くし、生き残った長男の哲也くんの証言、「先生に(高台の)山の方に逃げようと言ったのに聞いてもらえなかった」も市教委にもみ消されてしまった只野英昭さんと3人で約1時間、トークを展開することになっている。

 あの大震災から間もなく12年。私たちは声を上げる人をたたく理不尽な社会を打ち破るために、半歩でも1歩でも前に進んだのだろうか。

 ひととき、観客のみなさんと一緒に考えてみたい。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年2月20日掲載)

 

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2023年2月13日 (月)

心もいっぱいになるこども食堂

-夜はゲイバー 月に1度開店-

 年に7、8回出演している三重テレビの報道情報番組、「Mieライブ」の先日の特集は1月末、津市にオープンしたこども食堂だった。

 オーナーの花井幸介さん(34)が月末の日曜日に開き、初回のメニューは野菜と肉のカレーにつくね、近所の和菓子屋さん差し入れのみたらし団子。定員40人。こどもは無料で大人は300円。おなかいっぱい食べてもらって、たった1つの条件は必ずみんなとおしゃべりして遊んで帰ること。

 そんな条件をつけたのには訳がある。店は普段の夜はゲイバー。花井さんはLGBT、性的少数者だ。友だちにも言い出せないまま隠し通して中学を卒業。家を出て、一時はホームレス生活も経験した。やっと心を許せる仲間に出会って夜の町を転々としていた10年前、父親が末期がんという知らせが飛び込んできた。

 駆けつけた花井さんに父は「気がついていたよ。お前の人生。思い通りに生きなさい」。だからおなかがいっぱいになると同時に、こどもも大人も何でも言いあえて心もいっぱいになるこども食堂を作りたかった―。

 国会ではそのLGBTをめぐって首相秘書官がオフレコをいいことに、耳をふさぎたくなる差別発言。一方で子育て支援の議論では、かつて女性議員が議場に響く甲高い声で、聞くに耐えない下劣なヤジを飛ばしていたことが改めて報道されている。そんなときにオープンした、夜はゲイバーのこども食堂。

 小さなテレビ局が取り上げた、小さなこども食堂がLGBTや子育て、そうしたテーマに、いつの日か私たちが見たいと願っているほのかな光を放ってくれているような気がする。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年2月13日掲載)

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2023年2月 9日 (木)

活動予定

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2023年2月 7日 (火)

一番懐肥やす悪党にたどりつけるか

-フィリピン4人は「中の下」-

 「検挙に勝る防犯なし」。広域連続強盗の報道に連日関わりながら、事件記者時代、ベテラン刑事から何度も聞かされた言葉が胸によみがえる。

 犯罪防止のためのさまざまな啓発も大事だ。だが悪党どもを割り出して一網打尽にする。これに勝る防犯活動はないというわけだ。

 フィリピンから強制送還される4人の男。だけど彼らの容疑は強盗ではなく、詐欺。4年前、現地で日本人36人が拘束された特殊詐欺事件。だが一網打尽とはいかず、その残党が組織を広域強盗に切り替えたのだ。

 この4人がからんだ特殊詐欺の被害額は60億円。そのまま彼らに渡っていたら特別待遇とはいえ、いつまでも収容施設にいるわけがない。メディアは男たちを「司令塔」などと呼んでいるが、警察が描いている事件のチャート図では中の下ぐらいにしか位置していないはずだ。

 反社会勢力の中で、「今どきカシラ(組長)がベンツかレクサスに乗っているのはシャブ(覚醒剤)の太いルートか、オレオレ(特殊)詐欺グループを抱え込んでいる組だけ」と言われて久しい。だが特殊詐欺で広域暴力団はもちろん、中小の組でも詐欺容疑や使用者責任を問われて、グループともども壊滅させられたケースはついぞ聞かない。えぐり切れなかった病根が今度は強盗組織となって、90代の無抵抗な女性をはじめ市民に襲いかかっている。

 送還される4人の取り調べや、これまでの捜査で手にした情報。それらのピースをつないで、一番懐を肥やしている悪党にたどりつく突き上げ捜査ができるかどうか。刑事たちが語り継いできた「検挙に勝る…」の言葉を捜査員みんながかみしめる時ではなかろうか。

 

日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年2月6日掲載

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