読者のみなさんと心通わせて
-23年初春の誓い-
新年、最初に手にした本は小泉信一さんの新刊、「絶滅危惧種記者 群馬を書く」だった。
小泉さんは朝日新聞でただ1人の大衆文化担当の編集委員。フーテンの寅さんや銭湯、場末のスナックをこよなく愛する絶滅危惧種記者。2年前から新聞記者ならだれでもこよなく愛する駆け出し時代の赴任地、前橋総局の記者も兼ねている。
私が31年連続で講演をしている旧粕川村の公民館にもフラリと顔を見せてくれたこともある。その小泉さんが風の吹くまま気の向くまま、上州群馬の赤城山にこもった国定忠治の足跡を追い、詩人萩原朔太郎の実家を訪ねる。入社前の事故とはいえ、群馬の人にとって忘れることのない日航ジャンボ機墜落現場の御巣鷹山にも慰霊の登山をする。
その上で〈市井の人々の生活は、新聞記事を賑わす異状な出来事の連続ではない。ちょっとしたことで笑い、悲しみ、泣き、怒るといった感情の連続である〉と書く。ページを繰っていくと〈泥くさいことを地道に伝えていこう〉の章で、初めて中之条町にひっそりと建つ「おろかもの之碑」の存在を知った。
かつて戦争をあおり、多くの若者を戦地に送り出して公職追放となった町の名士たちが1961年、自戒と反省を込めて建立。碑文には「おろかものノ実在ヲ後世ニ伝エ再ビコノ過チヲ侵スコトナキヲ願イ」とある。
いまではその存在さえ知らない人が多いこの碑に光が当たったのも、絶滅危惧記者がいたからにほかならない。
さて2023年。私もまた読者のみなさんと心通わせ、ともに「笑い、悲しみ、泣き、怒って」いきたい。そんな思いを新たにしている初春である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年1月9日掲載)
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