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2023年1月

2023年1月30日 (月)

国は子どもたちのために

-胸をよぎる黒田清さんの言葉-

 先週23日のこのコラムに「政治もニュースもこんなもんさと片づけしまってはいけない」と書いたその日に、通常国会が開会。岸田首相の施政方針演説があった。

 今回の政策の大きな柱のひとつが昨年ついに出生数80万人を割り込む見通しとなった少子化対策。首相は「従来と次元の異なる対策」を強調した。だが、そんな首相の決意に水をぶっかける発言が1週間前に党内から飛び出していた。

 麻生自民党副総裁が講演で「少子化の大きな理由は女性の出産年齢の高齢化にある」と断言したのだ。82歳と老齢ながら、1年余り前まで副総理兼財務大臣だった政権中枢の「問題は女性の晩婚化」とする発言。だけど日本の女性の平均初婚年齢は29・4歳。日本より出生率が高い英国(31・5)、フランス(32・8)、スウェーデン(34・0)の方がはるかに晩婚なのだ。

 またしても少子化問題を「女性、結婚、出産」に押しつける発言。そんな考えがはびこる社会で子どもを持ちたくないという若い人の思いがまだわからないのか。

 もう1点、気になることがある。首相は少子化を重要課題とする一方で、演説冒頭から3倍もの時間をかけて強調したのが、「防衛力の抜本的強化」だった。「国を守ろう」。それに続く「1人でも多くの子どもを」というこの流れ。私の記者時代の上司。多感な少年期を戦時下ですごした亡き黒田清さんが常々、口にしていた言葉が胸をよぎる。

 子どもは国のために生まれてくるのではない。だけど国は、子どもたちのためにあるはずだ―。

 政治は、こんなもんさと片づけてしまってはいけないという思いを一層、深くする。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年1月30日掲載)

 

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2023年1月23日 (月)

「どっちもどっち」の声が漏れる

-立憲党員の鞍替え劇-

 夕方の東海テレビニュースを終えての雑談。「ぼくらが取材したニュースが全国ネットで流れるのはうれしいけど、この1件、どっちもどっちだよな」といった声が漏れる。私もまったく同感だ。

 2021年秋の衆院選で立憲民主党の新人として立候補した今井瑠々氏(26)。当時、被選挙権の最年少、25歳。ルッキズムのそしりを覚悟で言えば、かわいい女性だ。それまで岐阜選挙区5区のすべてが自民党という保守王国。加えて挑む相手は男女別姓反対、日本古来の家族制度の護持が信条の超保守派、古屋圭司氏。

 私もこのテレビ局の選挙特番で彼女の選挙活動を追ったが、善戦したものの肉薄とまではいかず、落選。その今井氏がこの春の統一地方選で、なんと自民党の推薦で岐阜県議選に出馬を表明。野田聖子元大臣も同席して記者会見を開いた。

 なるほど自民党の言う「敵基地攻撃能力」とはこのことか、と寒い冗談を言っている場合ではない。落選後、県連副代表の席を用意、月50万円の活動費も出していた立憲は激怒。離党届を突っ返して除名。活動費の返済も求めるという。

 さて番組後の雑談の続き。「だけど、これがどこか地方の県で最年少の男性候補が対立していた政党に鞍替えしたところで、全国ネットどころかローカルニュースにもならないんじゃないか」。まさにその通り。どっちもどっちなんて言いながら、「女性、若い、かわいい」の3つのファクトがそろったから、メディアもこのドタバタに飛びついたのだ。

 きょう23日から通常国会。しょせん、政治もニュースも、こんなもんさと片づけてしまってはいけない。自戒をこめて、そう思っている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年1月23日掲載)

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2023年1月16日 (月)

被害者を救済できない救済新法

-安倍元首相銃撃から半年-

 安倍元首相が銃撃で死亡して8日で半年。山上徹也容疑者(42)は、13日起訴された。一方、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)などへの寄付行為を規制する「被害者救済新法」が5日、施行された。いま私が最も恐れているのは、やれやれ、これで一段落となってしまうことである。

 旧統一教会問題について評論家の寺島実郎さんは「サンデー毎日」で、この教団の本質は「反日性」にあるとして、「日本人を侮蔑する発言を繰り返し、日本の弱者にとりついて半世紀。年間数百億を収奪。一説では4500億円は北朝鮮に渡ったとされる」と語った上で「安倍氏のような愛国を名乗っていた人たちがなぜ、こんな団体と手を組んだのか。そこに戦後保守政治の根腐れがある」と言い切る。

 そんな政権に私たちは憲政史上最長の約8年、この国の政治を任せたのだ。

 その旧統一教会の被害者を救済するための新法。だが先日、テレビ番組で取り上げさせてもらった宗教二世の女性は、借金をして教団に寄付、生活が破綻した両親の面倒をみながら、月20万円弱の収入の大半を親の借金返済に充てている。

 だが、新法で定められた寄付行為についての「取消権」を行使できるのは寄付した本人か、またはその本人が扶養する家族と限定されている。この宗教二世の女性のように借金した親を「扶養している」人には取消権はない。こんな新法の一体どこが「救済」なんだ。

 もとより元首相の死は悼みて余りある。だが根腐れした保守政治を、だれがこれほどまではびこらせてしまったのか。そんな政治の被害者を救済できない救済新法。

これらの検証は、すべてこれからではないのか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年1月16日掲載)

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2023年1月 9日 (月)

読者のみなさんと心通わせて

-23年初春の誓い-

 新年、最初に手にした本は小泉信一さんの新刊、「絶滅危惧種記者 群馬を書く」だった。

 小泉さんは朝日新聞でただ1人の大衆文化担当の編集委員。フーテンの寅さんや銭湯、場末のスナックをこよなく愛する絶滅危惧種記者。2年前から新聞記者ならだれでもこよなく愛する駆け出し時代の赴任地、前橋総局の記者も兼ねている。

 私が31年連続で講演をしている旧粕川村の公民館にもフラリと顔を見せてくれたこともある。その小泉さんが風の吹くまま気の向くまま、上州群馬の赤城山にこもった国定忠治の足跡を追い、詩人萩原朔太郎の実家を訪ねる。入社前の事故とはいえ、群馬の人にとって忘れることのない日航ジャンボ機墜落現場の御巣鷹山にも慰霊の登山をする。

 その上で〈市井の人々の生活は、新聞記事を賑わす異状な出来事の連続ではない。ちょっとしたことで笑い、悲しみ、泣き、怒るといった感情の連続である〉と書く。ページを繰っていくと〈泥くさいことを地道に伝えていこう〉の章で、初めて中之条町にひっそりと建つ「おろかもの之碑」の存在を知った。

 かつて戦争をあおり、多くの若者を戦地に送り出して公職追放となった町の名士たちが1961年、自戒と反省を込めて建立。碑文には「おろかものノ実在ヲ後世ニ伝エ再ビコノ過チヲ侵スコトナキヲ願イ」とある。

 いまではその存在さえ知らない人が多いこの碑に光が当たったのも、絶滅危惧記者がいたからにほかならない。

 さて2023年。私もまた読者のみなさんと心通わせ、ともに「笑い、悲しみ、泣き、怒って」いきたい。そんな思いを新たにしている初春である。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年1月9日掲載)

 

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