国は子どもたちのために
-胸をよぎる黒田清さんの言葉-
先週23日のこのコラムに「政治もニュースもこんなもんさと片づけしまってはいけない」と書いたその日に、通常国会が開会。岸田首相の施政方針演説があった。
今回の政策の大きな柱のひとつが昨年ついに出生数80万人を割り込む見通しとなった少子化対策。首相は「従来と次元の異なる対策」を強調した。だが、そんな首相の決意に水をぶっかける発言が1週間前に党内から飛び出していた。
麻生自民党副総裁が講演で「少子化の大きな理由は女性の出産年齢の高齢化にある」と断言したのだ。82歳と老齢ながら、1年余り前まで副総理兼財務大臣だった政権中枢の「問題は女性の晩婚化」とする発言。だけど日本の女性の平均初婚年齢は29・4歳。日本より出生率が高い英国(31・5)、フランス(32・8)、スウェーデン(34・0)の方がはるかに晩婚なのだ。
またしても少子化問題を「女性、結婚、出産」に押しつける発言。そんな考えがはびこる社会で子どもを持ちたくないという若い人の思いがまだわからないのか。
もう1点、気になることがある。首相は少子化を重要課題とする一方で、演説冒頭から3倍もの時間をかけて強調したのが、「防衛力の抜本的強化」だった。「国を守ろう」。それに続く「1人でも多くの子どもを」というこの流れ。私の記者時代の上司。多感な少年期を戦時下ですごした亡き黒田清さんが常々、口にしていた言葉が胸をよぎる。
子どもは国のために生まれてくるのではない。だけど国は、子どもたちのためにあるはずだ―。
政治は、こんなもんさと片づけてしまってはいけないという思いを一層、深くする。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2023年1月30日掲載)
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