« 2022年11月 | トップページ | 2023年1月 »

2022年12月

2022年12月26日 (月)

テレビ局の内実を赤裸々に描いたドラマがある

-フジ「エルピス」の衝撃-

 毎回、見終わって、ぞわっとしてくるテレビドラマに出会った。「エルピス-希望、あるいは災い-」。

 マンネリの深夜バラエティー番組の女性MC(司会)と坊ちゃん育ちの局員が放った少女殺害事件で死刑が確定した男の冤罪報道。新たに自身の支援者の親族の犯行が疑われる大物政治家からの圧力。

 実在の政治家、あの人、この人の顔が浮かぶ。テレビ局の忖度、萎縮、保身、陰湿な人事…。私もさんざん見てきた光景だ。

 プロデューサーは、このドラマのためにTBSから後押ししてくれた関西テレビに移った佐野亜裕美さん。朝日新聞の別刷り、「be」で大きく取り上げられ、局の内実を赤裸々に描いたことにふれられると、「自分たちが一番よく知っている世界なんだから描くのは当然。その方がおもしろい」と痛快な答えが返ってくる。

 脚本は朝ドラの「カーネーション」などで知られる渡辺あやさん。島根在住の渡辺さんのもとに、第一印象は「しょぼくれた柴犬が来た」だったという佐野さんは20回も通った。

 その渡辺さんはライターの福田フクスケさんのインタビューに「大組織のなかにも、これは絶対におかしいと感じてなんとかしようともがいている人が確実にいるんです」と話している。そこに私は一筋の光を見る思いがする。

 「戦」という字が1字漢字に選ばれ、絶対におかしいと感じることの多かった2022年。来たる2023年が決して「あるいは災い-」ではなく「-希望」であることを切に願いつつ、今年もこのコラムのご愛読ありがとうございました。

 「エルピス」最終回は今夜10時、フジテレビ系列で放送です。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年12月26日掲載)

|

2022年12月19日 (月)

公職に就く人たちに今何が起きているのか…

-また起きた刑務官暴行事件-

 先日、東海テレビ(名古屋)でニュースの放送中、斎藤健法相が緊急記者会見。名古屋刑務所で刑務官が受刑者に暴行、けがを負わせていたことを明らかにした。

 法相が「あれほどの事件があった同じ施設で」と怒りをあらわにしたように、名古屋刑務所は2001年、刑務官が受刑者の尻に消防ホースで放水、拷問死させる大事件を起こしていた。今回は22人もの刑務官が昨年11月から今年8月まで受刑者3人を執拗に暴行。うち1人が目に裂傷を負った。

 その3日後、愛知県警岡崎署で勾留中の精神疾患のある男性を持病の薬も与えず100時を間超えて手錠、捕縄で拘束。その間、署員が殴る蹴るの暴行の末、死亡させていたことがわかった。

 同じ愛知県の名古屋出入国在留管理局では去年3月、激しく嘔吐して治療を求めるスリランカ女性を個室に閉じ込め、衰弱死させた。

 一体、この国でこうした公職に就いている人たちにいま、何が起きているのか。

 そういえば少し前、元首相の疑惑隠しのため文書を改ざんさせた部下が耐え切れず自死した事件で、裁判所は指示した高級官僚について「組織の一員である公務員は個人の責任を問われない」として元部下の遺族が起こした訴えを退けた。

 こうして高級官僚は自死するまで部下を足蹴にし、ならば足蹴にする部下もいない下積みの公務員はどうするか。刑務官は22人が10カ月もの間、3人の受刑者に暴行。警官は手足を縛り上げた男性を4日間も殴って蹴る。入管職員は衰弱しきった女性を見殺しにする。

 背筋が凍りついてくるのは、ここ数日の厳しい冷え込みのせいばかりではないようだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年12月19日掲載)

|

2022年12月12日 (月)

市長の煮えたぎるような怒り

-静岡・裾野市 保育園児虐待-
市役所改革訴え当選

 静岡朝日テレビの夕方ニュース、「とびっきり!しずおか」に出演していることもあって、このおぞましい事件を、より間近で見ている。

 裾野市の「さくら保育園」で、保育士の女性3人が主に1歳児の園児に逆さづりにする、カッターナイフで脅すなどの虐待をしていたとして逮捕された。

 直後、村田悠市長(35)は保育園の園長を犯人隠避容疑で告発した。そこに市長の煮えたぎるような怒りを感じる。園長だけでなく、市長はもちろん、保護者にも半年近く事件を隠し通した市の担当者をあぶり出そうという腹積もりなのだ。

 市は今年6月に内部通報を受け、8月には目を覆いたくなるような15事例もの虐待行為を把握した。だが担当部長(発覚後更迭)らは、自分たちでとどめて部外に出さないことにし、一方で園は内部から保護者らに情報が漏れることを恐れて、10月に保育士全員に「一切口外しない」と書かせた誓約書を提出させた。

 このため11月末、静岡新聞が一報を掲載、全国のメディアが押しかけてくるまで市長はもちろん、市民は何も知らされず、園児の母親の中には「あのときのアザはひょっとして…」と泣き崩れる人もいたという。

 取材を続ける記者によると、村田市長は今年1月の市長選で自民党や連合静岡の推薦を受けて3選を目指した現職を相手に、市役所改革などを訴えて挑戦。県内最年少の市長となった。記者は「事件とは関係ないことですが」とつけ加えるのだが、痛さと苦しさで泣き叫んでいた園児がいることを承知で、すべてを隠し通した大人たちがいた。

 事件が一層、どろどろとしておぞましく見えてくる。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年12月12日掲載)

 

|

2022年12月 5日 (月)

私たちの「切る力」が問われている

-群馬の小さな村で第31回講演会-

 「シクラメンのかほりに誘われて~31th講演会」が11月26日、無事終わった。群馬県の小さな村、旧粕川村(現・前橋市)で1992年から30回続けてきた講演会。昨年でひと区切りと思っていたところ、いつも控室を訪ねてこられた女性から「お疲れさまでした」とわが家にきれいなシクラメンが届いて、このコラムに「来年も続けるべきか…」と書かせてもらった。

 うれしいことに、これからもぜひ続けてという声があがって、第31回はコロナ禍の下、粕川の会場と視聴希望の方々を大阪の私の事務所とつないでのオンライン講演会。

 いつものようにこの年を振り返りつつ、1972年は連合赤軍事件、沖縄の本土復帰、公害企業を断罪した四日市判決。そして札幌五輪からちょうど50年。過去に目を向けながら、今年は旧統一教会問題に円安、物価高騰。元首相銃撃に戦争。悪政や暴力の連鎖をどう断ち切るか。いわば私たちの「切る力」が問われている。そんなことをお話しした。

 会場でいつも司会をしてくれる元村教委の木島定幸さんが「話を聞いて眼鏡の度数が合ってくるようでした」と言ってくださったのをはじめ、3日と置かず、みなさんの感想が届いた。

 〈まさに私、1972年生まれの50歳。一度振り返り自分の考え、あり方を見直すときかと思いました〉〈元首相の事件は悼むべきですが、それと政権がしてきたことは相殺されるべきではないと強く思いました〉 〈だれがロシアのトップをここまでつけ上がらせてしまったのか。私たちも考えるべきだと思いました〉

 さて、来年は―。鬼に笑われることを覚悟で、早くもそんなことを考えている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年12月5日掲載)

 

 

|

« 2022年11月 | トップページ | 2023年1月 »