« 果たして有罪に持ち込めるか | トップページ | 命と向き合う刑事たちの懊悩 »

2022年11月14日 (月)

1本のノコギリが切り出した実態

-悪質盗撮グループ摘発相次ぐ-

 日ごろ警察に厳しい目を向けている私が思わず「グッジョブ!」と叫びたくなる捜査を静岡県警が進めている。メンバーが全国に及ぶ悪質盗撮グループの逮捕者が先月で11人になった。

 きっかけは1本のノコギリだった。昨年10月深夜、国道1号線のパーキングエリアに駐車した車で仮眠していた男を県警自動車警ら隊の警官3人が職務質問すると、車の中からノコギリが。ハイキング帰りという男の話に違和感を持った3人が問い詰めると、ついに男は露天風呂の盗撮に邪魔になる木を切っていたと説明、その場で逮捕となった。

 これを機に出るわ出るわ、逮捕された1人が「自分とはアナログと8Kくらい違う」という盗撮のカリスマと呼ばれる男をリーダーに、露天風呂の盗撮を繰り返し、中には親しくしている女性を露天風呂に招待して仲間に盗撮させるというタチの悪いものまであった。

 警察官が抱いた一瞬の違和感が暴いた盗撮犯罪。だがすでに始まっている裁判の彼らの罪状は盗撮した場所の県がそれぞれ定めている「県迷惑防止条例」。これまで出た判決はすべて執行猶予付きだ。

 男たちが摘発されても、ネット上に映像が拡散している恐怖に怯える女性にとって絶対に「迷惑」ですませられる犯罪ではない。

 だが、こうした事態に現在、性犯罪規定の見直しを進めている法制審議会は盗撮罪の新設を検討しているが、まだ事務局試案の段階。これから法相に答申するという。

 現場の警察官の鋭い触覚が悪質な盗撮グループを追い込む一方で、法で裁く側の動きのなんと鈍いことか。

 1本のノコギリが、こんな実態も切り出してみせてくれた。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年11月14日掲載)

 

|

« 果たして有罪に持ち込めるか | トップページ | 命と向き合う刑事たちの懊悩 »

日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事