名を変えたKADOKAWA 失ったモノないか
-前回東京五輪開会式の日に思う-
単行本が多い書棚の一角に8巻の角川文庫が並んでいる。「新聞記者が語りつぐ戦争シリーズ」。私はその第4巻、「中国孤児」を担当した。初版発行は1985年(昭60)。定価380円。採算が取れそうもないなか、「絶対出しましょう」と熱く話していた女性編集者のまなざしが浮かぶ。
その角川がKADOKAWAと名を変え、角川歴彦会長(79)が金の亡者のような五輪組織委元理事に6900万円の賄賂を渡したとして起訴され、事実を否認しながら会長を辞任した。
その角川文庫には1949年(昭24)の初出版本にも、いま書店に並ぶ新刊にも必ず巻末に「発刊に際して」の一文が載っている。
1945年の敗戦を不幸なこととしつつ、〈反面、これまでの混沌・未熟・歪曲の中にあった我が国の文化に秩序と確たる基礎をもたらすためには絶好の機会である〉とし、この文庫本発刊を「祖国の文化に秩序と再建への道を示す角川書店の栄えある事業」と位置づけている。
以来73年、すべての文庫本にこの一文を掲載することで角川は出版人の誇りを連綿と持ち続けてきたのではないか。だが、その一方で角川も、私たちの社会も、もうひとつの文化であるスポーツの栄えある祭典を利権と金まみれにしてしまった。
今年最後の3連休最終日、きょう10月10日はスポーツの日。「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような、素晴らしい秋日和…」のテレビ中継第一声で始まった前回の東京オリンピックは、この日が開会式だった。
あれから58年、再びやってきた五輪を青空どころか暗雲で覆い尽くしてしまった彼らを、絶対に許さない。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年10月10日掲載)
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