“原発再稼働”どんな思いで聞いたか
-野菜の作付け行う山木屋地区-
チルド便で届いた段ボール箱を開けると、青々とした夏野菜がどっさり。インゲン、ピーマン、ナスと並んでスティックフェンネルなど聞きなれない野菜を含めて全部で8種。3月、このコラムに書かせてもらった福島県川俣町の宮地勝志さん(63)からの贈り物だ。
東日本大震災の後、愛知県日進市から川俣町に派遣され、原子力災害対策課長として避難指示地区となった山間地、山木屋地区の除染に取り組んだ日々。だが、それは地区の先達が寒冷地のやせた土地に土を入れ、やっと豊かな畑にしたその土をはぎ取る作業だった。
3年前、役場を退職、町に骨をうずめると決めた宮地さんは、友人と農業法人を設立。標高550㍍の高地で季節の野菜やイタリア野菜作りに取り組んだ。
送ってくださったのは、その初収穫分。さっそくフェンネルのセロリに似たほろ苦さを味わいながら電話を入れると、「インゲンはふぞろい。市場に出せるようなもんじゃないけんど、まんず味さ見てもらおうと」と明るい声が返ってきた。
8年に及ぶ避難生活から戻って畑に新たな土を入れ、やっと迎えた収穫の日。山あいの地の人々の苦労は、いかばかりだっただろうか。
だが岸田政権は、ここにきて原発再稼働に大きくかじを切り、あろうことか首都圏から120㌔、昨年、水戸地裁で「住民の安全性と程遠い」と差し止めが命じられた東海第2原発の再稼働に「国が前面に立つ」と言明した。この知らせを秋冬野菜の作付けに忙しい山木屋の人たちは、どんな思いで聞いたことだろうか。
東日本大震災は、きのう9月11日、発生から11年6カ月を迎えた。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年9月12日掲載)
| 固定リンク
「日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事
- 風化に抗い続ける未解決事件被害者家族(2024.11.27)
- 社会性 先見性のカケラもない判決(2024.11.13)
- 「なりふり構わぬ捏造」どれだけあるんだ(2024.10.30)
- 追い続けた寅さんに重なって見える(2024.10.16)
- どうか現実の世界に戻ってほしい(2024.10.02)