ある空手家の願いとオリンピック
-組織委収賄事件に思う-
東京五輪をめぐる汚職事件は出版大手の会長も贈賄で逮捕。収賄の組織委元理事ら、金と利権にむらがった連中の醜い姿が見えてきた。
そんな時、事件発覚前に1年ぶりに帰国していた今野充昭さんから電話をもらったことを思い出した。空手を通じて日本とオランダの架け橋になっている今野さん。「次のパリは駄目だったけど、次の次、ロスでは復活の目が出てきたんですよ」と声がはずんでいた。
東京五輪限定競技となっていた空手が2028年ロス五輪で、野球などとともにIOC追加9候補のひとつになったという。追加は多くて4競技。予断は許さないが、五輪で再び空手というのも夢ではなくなった。
「それと、もっとうれしいことも」と今野さんの電話は続く。いまヨーロッパでは青少年の空手競技人口が柔道の2倍近くになっているという。もともと武道人気が高いところに妙な話、コロナ禍が追い風になった。
互いが組みあい、寝技もある柔道に対して、相手にふれないノンコンタクトの伝統空手がある。それに空手には相手を想像しながら演技する単独競技「形」もある。
「コロナがなくなって気がついたら、世界の国々で空手がサッカーや野球並みに子どもたちに親しまれる競技になっているという日も遠くない」と今野さんは意気込む。
だが、その今野さんが日本を離れた直後に明るみに出た五輪汚職。日本で、オランダで、空手の素晴らしさを訴え続けて半世紀。今野さんの目にはスポーツを食い物にするこんな男たちの姿がどう映ったか。
空手ダコの拳を「トリャー」の声とともにグイッと突き出す姿が目に浮かぶ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年9月19日掲載)
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