100歳過ぎても「現在進行形」
-カメラとペン亡き2人を思う-
お会いしたのは1度だけなのに鮮やかな印象だったのだろう、小さな訃報記事に新聞をめくる手が止まった。
〈笹本 恒子さん=(日本写真家協会名誉会員)15日死去、107歳。国内初の女性報道写真家として活躍。日独伊三国同盟の婦人祝賀会などを撮影した〉
5年前、「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」の映画の公開に合わせて笹本さんをインタビューした。当時102歳。車いすからカメラを構え、新たな本も執筆中だった。映画を撮った河邑厚徳監督が2人を「しなやかな永遠の少年少女」という通り、笹本さんからは笑顔とともに「いくつになっても現在進行形」の言葉が返ってきた。
むのさんは敗戦を機に朝日新聞を退社。ふるさと秋田県横手で週刊新聞「たいまつ」を発刊。反戦と平和を訴え続けられたが、映画公開の前年、101歳で亡くなられた。
小柄な体で、戦後史に残る三井三池炭鉱ストや安保闘争にシャッターを押し続ける一方で、ひたむきに歩んでいく明治生まれの女性たちに目を向けた笹本さん。
私たちの年代の記者にとっては座右の書ともいえる「詞集たいまつ」に〈人間に美しい生き方があるとしたら自分の立場をはっきりさせた生き方である〉〈たいまつは嵐が強ければ強いほど赤々と燃え上がる〉と書かれたむのさん。
9月は、1日で108歳になられるはずだった笹本さんの生まれ月。その9月末には激しく国論が分断されるなか、安倍元首相の国葬が行われる。おふた方が健在なれば、果たしてどんな角度からカメラで、ペンで、この葬儀を切り取られたことであろうか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年9月5日掲載)
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