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2022年6月

2022年6月27日 (月)

満蒙開拓団 97歳女性の告白

-ウクライナ侵攻に心痛め-

 「いま、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。逃げまどう人々の姿に心が痛みます」。慰霊祭で藤井宏之・黒川分村遺族会会長の言葉は、いつもと違っていた。

 敗戦時の旧満州(中国東北部)。襲ってくる現地人から守ってくれることを条件に未婚の女性をソ連兵に差し出した性接待の暗い過去を持つ岐阜県白川町の旧黒川満蒙開拓団。2020年冬、接待の犠牲になった女性を東海テレビの夕方ニュースで取り上げ、このときは涙で声を詰まらせてしまった上山真未アナが改めて97歳になった佐藤はるえさんや長野県阿智村の満蒙開拓平和記念館を取材した。

 女性として生涯、口にするまいと誓ったことを「あなた方は伝えることができる人でしょ」と上山アナたちに重い口を開いたはるえさんは、テレビに流れるウクライナの映像に「私たちの時代も戦争、戦争。寂しい時を通ってきたなぁって」。

 ウクライナ侵攻以降、少しずつ入館者が増えているという記念館の寺沢秀文館長は「満蒙開拓というけど、家も畑もあった現地の人を追い出した。そういうことも知ってください」と、はるえさんたちの被害とともに加害の歴史も語っている。

 体も心もズタズタになって帰国したあと、人の目をはばかって黒川に戻ることもできなかったはるえさんは「人間が人間として生きるには、戦争は絶対にあってはならないことです」。

 番組には慰霊祭に参加された開拓団の年老いた男性の声も流れた。「自分の国の都合で、ほかの国の人々を泣かすなんて絶対にしてはなりません」。 

 この2つの言葉に、「平和」への思いが凝縮されているように思えてならない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年6月27日掲載)

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2022年6月20日 (月)

しらけムードだけど…棄権している場合じゃない

-参院選の投票率が心配-

 国会は先週閉会。国政は7月10日投開票の参院選へと突き進む。そんなとき、ある週刊誌が先日、1人区で5人の女性候補が立った選挙区の応援で「顔で選んでくれたら1番」と演説した議員が、今度は別の選挙区の応援で党の関係者の出自や出身地域にふれた。「これは差別の拡散につながるのでは」とコメントを求めてきた。どの発言にもあきれるし、もううんざりだ。

 この週刊誌は前号で自民党の吉川赳議員(40)が18歳の女性に酒を飲ませてホテルに誘い、現金を渡したと報じている。売春防止法違反は明らかなのに、自民党は離党させただけ。国会は犯罪者に議員バッジをつけさせたまま閉じてしまった。

 今回の選挙でも女性議員の倍増が大きなテーマだが、こんな議員に辞職を迫ることもなく、セクハラ衆院議長の不信任案が否決されると中途半端に立ち上がって拍手していた女性議員は、一体何なんだ。

 そんなしらけムードのなか、早くもメディアでささやかれているのが前回48・8%と過去2番目の低さだった投票率がもっと下がるのでは、ということだ。

 だけど下火にはなったとはいえ、行政の無策で900万人が感染、3万人が命を落とした新型コロナ。平均賃金は30年間据え置きなのにハネ上がる物価。ロシアのウクライナ侵攻で倍増、世界3位となる国防予算。

 目の前にこれほど問題が山積しているのに、しらけていていいのだろうか。永田町では早ければ年内にも、という解散風が吹き始めているという。だが制度上、今回の選挙が終わると、国政への思いを1票に託せる機会は2025年参院選までない。ゆめ棄権している場合ではないのである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年6月20日掲載)  

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2022年6月13日 (月)

緩和の前にマスクのひもと予防の心

-報じられないデルタクロン出現-

 「感染者数は○日連続、前週を下回りました」―。

 このところテレビでも新型コロナについて明るいニュースを届けることが多くなった。

 そんな時、いつも情報をくださる地元のS医師からメールが届いた。

 〈最近、中等症以上の患者さんはまず見かけません。ただひとつ心配なのは抗原検査キットが簡単に手に入るので陽性が出ても症状が軽いと市販の薬ですませている方が相当おられるのです。実際、きょう診察した7人の児童のうち4人はキットで陽性が出て心配になった方たちで、来院されなかったら日々の感染者にはカウントされないのです〉

 うーん、そんななか「もっとTokyo」「大阪いらっしゃい」のキャンペーンも始まりました。
 
 〈もちろんワクチンによる予防が効いていることは確かです。ただアメリカではオミクロン株がどんどん変異したBA・3や、デルタとオミクロン株が合体してオミクロンよりはるかに感染性の高いデルタクロンという新種が出現しているそうです。これらの新しい株がそのうち日本に入ってくることは間違いありません。それにはワクチンで対抗するしかありません。

 そうした中、マスクの着用や複数の人数による飲食、そして旅行に関する規制が緩和されつつあるのは結構なことだと思います。ただ、それには確かな感染者数の把握とマスクの着用、ワクチンの接種。それらをしっかりやった上での緩和が大事だと思うのです〉

 S先生、デルタクロンの出現、なぜか日本であまり報じられていませんね。いずれにしろ、私たちは緩和を前にマスクのひもも予防の心もしっかり締め直して…。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年6月13日掲載)

 

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2022年6月 6日 (月)

故原田さんしのぶ会でともった新たな灯

-警察史上最悪の金銭不祥事-

「お別れの会だったのに、終わってみると不思議なことが。みなさんの胸に新たな灯がともったのです」

 私はビデオメッセージでの参加だったが、5月末、札幌のホテルで昨年12月に83歳で亡くなられた原田宏二さんをしのぶ会が開かれ、会を終えて主宰者の市川守弘弁護士と奥様の利美さんからこんなメールが届いた。

 原田さんは元北海道警の最高幹部の1人。2004年、北海道新聞がスクープした道警裏金問題で顔出し、実名で「組織ぐるみでニセの領収書を作成していた」と告白。道警は現役とOBが数年がかりで9億円余りを返済するという警察史上最悪の金銭不祥事に発展した。

 原田さんとはその時以来のおつき合い。警察取材の長い私に折に触れて「組織への批判というのはね、少し距離を置いた所で広い範囲を眺める。そうでないとだれも納得しない。そう、岡目八目、その視線が大事なんだ」と言っておられたことが、いまも心に残っている。

 そんな思いで告白の数年後、原田さんが警察など司法の監視のため立ち上げた組織は市民フォーラムではなく、市民の目フォーラム。

 原田さんに心を寄せる40人に絞ったしのぶ会。コーヒーブレークを挟んだ後半は、その市民の目フォーラムの方々が次々にマイクを握ったという。利美さんのメールは「会は終わったけれど、それは決して終わりでなく、みんなにとって何か小さな始まりだった気がしてなりません」と結ばれていた。

 一徹そうなごま塩頭。いたずらっ子のような笑顔。花に縁取られた原田さんの遺影は「あとのことは、みんなの目にまかせるから」と語りかけておられたような気がしてならない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年6月6日掲載)

 

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