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2022年5月

2022年5月30日 (月)

組織はだれひとり幸せにできなかった

-連合赤軍事件から50年-

 沖縄が本土復帰した1972年は札幌オリンピック、パンダの来日と明るいニュースがあった一方で、2月に連合赤軍によるあさま山荘事件が起きた。人質を取って立てこもった5人は銃を乱射。警官2人、民間人1人を射殺。10日後突入した機動隊に全員逮捕された。

 あれから50年、BSテレ東の番組で訪ねたあさま山荘は、鉄球が打ち破った壁は修復されていたが、ほぼ当時のまま。私は視聴率じつに89・7%、警察(サツ)まわりの取材の途中、刑事たちとテレビにくぎづけになった、あの日を思い出した。

 だが5人の逮捕後、さらに凄惨な事件が明るみに出る。連合赤軍を革命戦士のための組織と位置づけた彼らは、仲間の些細な言動にも自己批判を迫り、総括と称するリンチの末、殺害。後ろ手に縛ったままの遺体などを群馬の榛名山、妙義山などに14体、埋めていた。

 番組では、そのリンチ殺人に加担、服役した岩田平治さん(72)を取材させてもらった。世界同時革命を掲げた彼らは、より強固な組織へと学生中心の赤軍派と労働者主体の京浜安保共闘を合体させて連合赤軍を結成する。だが連合赤軍は、やがて組織を守るための組織と化して疑心暗鬼の末、仲間を葬り去ってしまった。

 「みんなを幸せにと作った組織が結果、だれひとり幸せにできなかった」。諏訪湖の近くで、いまは静かに暮らす岩田さんのしぼり出した声が心に残る。

 その「組織」を「国家」と置き換えたとき、21世紀の世界はまた同じことを繰り返しているのではないか。

 BSテレ東「NEWSアゲイン~あさま山荘事件から50年」は6月2日(木)午後6時54分から。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年5月30日掲載)

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2022年5月23日 (月)

人の心は壊されても器物以下なのか

-侮辱罪の厳罰化はこの程度でいいの-

 これが厳罰化なのか?

 ネット上の誹謗中傷対策として侮辱罪の刑罰を重くする改正法案が、いまの国会で成立する。それに先がけて、私は元高級官僚の高齢ドライバーの暴走事故で最愛の妻と3歳の娘を失った松永拓也さん(35)を取材させてもらった。

 事故後、悲しみの中で高齢ドライバー対策と交通事故撲滅を訴えてきた松永さんも中傷の被害者だった。ツイッターアカウントに「金や反響目当てで闘っているようにしか見えませんでしたね」「お荷モツの子どもも居なくなったから乗り換えも楽でしょうに」などのメッセージが届いて被害届を提出。22歳の男が侮辱罪で書類送検された。

 私がお会いした日、松永さんは、ネット上で「性格悪い」「生きている価値あるのか」などと中傷され、命を絶ったプロレスラーの木村花さんのお母さんと侮辱罪の問題で国会に足を運んでいた。花さんを中傷した男2人は現行の侮辱罪で書類送検されたが、22歳の女性を死に追い込んでおきながら、処分結果は9000円の科料。携帯電話で通話しながら運転した際の反則金の半分という額だ。

 こうした状況に花さんの母親たちが声を上げ、今国会でこれまでの侮辱罪の「30日未満の拘留または1万円の未満の科料」に、新たに「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を加えることになった。

 だけど悲しみの底にいる人たちをここまで傷つける誹謗中傷に、国会はこの程度の法改正でよしとしたのか。

 ちなみに現行刑法の器物損壊罪は3年以下の懲役・禁錮。国会議員のみなさん、人の心は、壊されても器物(モノ) 以下なのでしょうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年5月23日掲載)  
 

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2022年5月16日 (月)

本土こそ持ち続けたい「結どぅ宝」の思い

-沖縄復帰50年の日-

 きのう5月15日は沖縄の本土復帰から50年の日。それに先がけて4月28日、私は東海テレビの取材で沖縄県最北端、国頭村の辺戸岬にいた。70年前の1952年4月28日は沖縄にとって「屈辱の日」だった。

 この年発効したサンフランシスコ講和条約によって、北緯27度線を挟んで奄美群島は、いち早く本土復帰。取り残された沖縄は、それからなお20年間アメリカの統治下に置かれた。

 だけど条約は奄美群島最南端、鹿児島県与論島と沖縄最北端、国頭村の人々まで分断したわけではない。海上では漁船が手を振り合い、陸では折に触れてかがり火をたいて心を通わせあってきた。

 そんなつらい日々と復帰の喜びが、ないまぜになった4・28。私は、復帰の年に生まれて〝復帰っ子〟と呼ばれ、いま復帰前と復帰後の沖縄を考える「結(ゆい)515」の会の代表をしている比嘉盛也さん(当然、今年50歳)と一緒に記念式典を取材させてもらった。「50」と書かれたそろいのポロシャツ姿で与論と国頭の児童も参加した式では物々交換の時代を思い出して、この日、与論からヤギ2頭、国頭からはやんばるの森の薪が贈られたと知らされると会場に笑顔が広がった。

 あいさつに立った比嘉さんが会場に向かって「ウチナーンチュ(沖縄の人)は好きですか?」と問いかけると、与論の子どもも一緒になって割れんばかりの拍手。比嘉さんは「結515」の結は「結どぅ宝(つながりこそ宝)」の沖縄の思いを表したものだという。その気持ちはこの先、本土こそが持ち続けたい。2時間の式の間、2機のオスプレイが上空を飛んだ会場でそんな思いにかられるのだった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年5月16日掲載)

 

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2022年5月 9日 (月)

メディアに関わる人すべてかみしめたい

-変貌した言論封殺の姿-

 5月3日、テレビ番組では改憲の動きにふれ、その数日前には朝日新聞阪神支局襲撃事件について新聞の取材を受けた。

 3日は小尻知博記者(当時29)が目出し帽の男に射殺され、朝日を「反日」とする犯行声明文が届いた事件から35年。私は取材に、この間、言論封殺の姿は大きく変貌したと指摘させてもらった。

 朝日が数々のスクープを放った安倍政権の森友・加計疑惑では、役人をどう喝。自殺者が出ても証拠の書類を改ざんさせて事実を隠蔽してしまった。後を継いだ菅政権は公安警察出身の官僚を使って6人の学者を学術会議から追い出し、意に沿わぬ学者から学究の場まで奪い取ってしまった。

 権力は一滴の血を流すこともなく、表現・言論の自由を封殺してしまったのだ。

 だが実態は悪寒が走るところまで突き進んでいる。朝日新聞は先日、すでに退社を申し出ていた中堅記者に、あえて停職1カ月の処分を下した。記者は「週刊ダイヤモンド」が安倍元首相に核保有などについてインタビューした件で「安倍氏が内容を心配している。私が安倍氏の全ての顧問を引き受けている」などと言って強硬に記事のゲラ刷りを見せるよう迫ったという。

 もちろん、ハネ上がった一記者のとっぴな所業ではあるだろうが、かつて言論封殺の危機にさらされた朝日に所属する記者が、瞬時であろうと圧力をかける側に立ってしまったことが残念でならない。

 事件から35年の日を前に、朝日は社説で〈日本を言論の暗黒時代に戻すわけにはいかない〉と書いた。5月3日は朝日の記者のみならず、メディアに関わるすべての人が改めてこの言をかみしめる日でありたいと願っている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年5月9日掲載)   

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2022年5月 2日 (月)

国が被害者救済に乗り出すべき

-「あすの会」再結成-

 ジャーナリストとして、さまざまな会の設立や目的を達成しての解散は数多く取材してきたが、解散からわずか4年で会が再結成されるケースは初めてだ。
 
 「全国犯罪被害者の会」、通称「あすの会」がこの春、「新あすの会」として再結成された。2018年6月に開かれた解散総会を取材したが、発足から18年たって犯罪被害者基本法の成立や裁判での被害者参加の実現など一定の成果をあげたこと。何より会長の岡村勲弁護士はじめ会員の高齢化が解散の大きな理由だった。

 だがそれから4年。「今日は苦しいが、あすは必ず良くしてみせる」というあすの会の趣旨どころではない状況が出てきた。日本には「犯罪被害者等給付金」があるが、欧米に比べて極端に少なく、最高でも2900万円、平均630万円。働き手を失った家族は、とても生活できない。

 そこにもっと悪い状況が追い打ちをかけてきた。2019年には36人が死亡した京都アニメーション放火殺人。昨年は小田急線、京王線で「死刑になりたい」「誰でもよかった」という無差別殺人未遂放火事件が発生。さらに大阪のクリニック放火殺人では26人が死亡。いずれも被告の責任能力を問う鑑定が必要だったり、大阪の事件のように被疑者も死亡してしまって、賠償どころではないケースもある。

 ここは海外の一部の国と同様、国がいったん被害者救済に乗り出すしかないのではないか。それにしても、新あすの会でも会長となる岡村さんは93歳。心が痛む。その岡村さんを幹事として支える土師守さんの次男、淳君が殺害された神戸児童連続殺傷事件は、この5月24日で発生25年となる。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年5月2日掲載)

 

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