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2022年4月

2022年4月25日 (月)

学校が子どもの命の最後の場所になってはならない

-東日本大震災 大川小津波裁判-

 私自身、真相の何十分の1も知らなかったと思い知らされた。映画「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち」を見た。

 児童74人、教職員10人が犠牲になった東日本大震災大川小津波被害。石巻市や宮城県、国(文科省)が出した報告書や検証結果。

 破棄された児童からの聞き取りメモ、ねじ曲げられた子どもの証言。実は1度も実施されなかった避難訓練。裏切られるどころか、傷つけられ続けた親たちが最後に選択したのは、長く厳しい裁判での闘いだった。

 吹きさらしの校庭。親たちと、たった2人の弁護団はストップウオッチ片手に北上川方向ではなく、裏山に逃げる時間は十分にあったことを証明していく。

 そんな親たちの耳にいつもこだましていたのは、子どもたちの悔しさがこもった思い「先生の言うことを聞いていたのに!!」だった。

 その思いに2審仙台高裁が応え、最高裁が支持、確定させた判決は「子どもたちの命を奪ったのは教育現場ではなく、国、宮城県、石巻市の組織的過失」とするものだった。

 親の耳にこだましていた子どもたちの思いに、高裁判決は「学校が子どもの命の最後の場所になってはならない」という言葉で応えてくれた。

 私はこのコラムでも民意に沿わない裁判所をたびたび批判してきたが、いまあらためてここに一筋の光を見た思いがする。

 「生きる―」の映画はクラウドファンディングで製作費の一部をまかない、いま各地で試写会を開く一方、劇場公開に向けて努力中という。1つでも多くの映画館が劇場公開に手を挙げてくれることを願っている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年4月25日掲載

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2022年4月18日 (月)

メディアは検証すべき特定少年の実名報道

-19歳男 甲府市夫婦殺人放火事件-

 少し前のことになるが、事件報道にかかわって50年余り、ある種の感慨をもって東海テレビ(名古屋)でニュースを伝えた。

 昨年10月、甲府市で夫婦が殺害され、住宅が全焼した事件で、この家の長女と同級生だった19歳の男を甲府地検が殺人、放火などの罪で起訴。地検は少年法改正で18、19歳が特定少年とされたことから、実名を公表した。番組も少年を実名で顔写真をつけて報じた。

 私はスタジオで、こうした判断はあくまで報道機関に委ねられていると説明。併せてこれまで被害者ばかりが報道されることへの批判が強かったことにもふれた。

 さっそく先週、朝日、毎日、読売などが各報道機関の対応を報じた。それによると、これまで通り実名も顔写真もなしとしたのは東京新聞1紙だけ。対して実名、顔写真で報じたのは、日刊スポーツにも配信している共同通信や産経新聞。それに東海テレビも系列のフジ。TBS、テレビ朝日、日本テレビのキー局。最も多かったのが実名のみ顔写真なしで、朝日、毎日、読売、それに地元の山梨日日新聞、NHKなどだった。

 だが、私はメディアが力を入れるべきは、これからではないかと思う。実名報道で少年の家族が困惑していないか。被害者や地域社会は平静か。何より今後の裁判員裁判に影響は出るのか。メディアが検証すべきは、それではないのか。

 あまり報じられていないが、その裁判員にも4月から18、19歳が加わることになった。今回の事件の19歳の被告を19歳の裁判員が裁くことだってあり得るのだ。

 さまざま、取り巻く環境が目まぐるしく変わっていく、「十九の春」である。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年4月18日掲載)

 

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2022年4月11日 (月)

亡き宮崎学君は戦争を心底憎んだ

-「キツネ目の男」と呼ばれて-

 新聞や雑誌に随分思い出を話したが、改めてこのコラムにも書いておきたい。

 宮崎学君が亡くなった。76歳。京都・伏見のヤクザの家に生まれた彼は、学生運動が燃え盛る早稲田大学のキャンパスで共産党系組織の武闘派として暴れまくった。

 社会に出て20年。彼はグリコ森永事件のキツネ目の男として浮上する。私は社会部の記者として犯人を追う立場。事件は未解決に終わったが、何度「人生、こんなめぐり合わせもあるんだ」と語り合ったことか。

 そんな自身の半生をつづった「突破者」が大ヒットした後も、彼の軸足は常に不当に差別されている人、理不尽にしいたげられている人の側にあった。権力をかさに着てそういう人たちを踏みつける者に、ときには批判を覚悟でアウトローも巻き込んで、火の玉のような怒りをぶつけていった。

 その宮崎君と私を半世紀以上も結び付けたのは、ともに終戦の年1945年生まれで、日本国憲法の下で教育を受け、戦争を心底憎むことにあったように思う。

 彼が2003年から2年余り、東京新聞にコラムを連載していた時にイラク戦争が起き、自衛隊が海外派遣された。そのとき彼は「戦争とは精神と知性の全くの退廃だと考える」と戦争に突き進む人間に、その愚かさをぶつけている。

 だが、その宮崎君の訃報が載った日の東京新聞は、ウクライナ侵攻から1カ月余り。ロシア兵の暴虐の記事で埋まり、〈公開処刑 略奪 暴行 遺体に地雷…〉の黒々とした見出しが並んでいた。

 近しい人たちだけの火葬式。翌日のメディアによる報道。その2日間、東京は札幌よりも冷え込み、花散らしの雨が降り続けていた。

 

日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年4月11日掲載)

 

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2022年4月 5日 (火)

主な活動予定2022年4月~

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2022年4月 4日 (月)

進まぬ3回目と小児接種 国民の望みは

-薄れるコロナの話題-

 ロシアのウクライナ侵攻からあすで40日。いつもコロナについて的確な情報をくれる地元、豊中のS医師から〈そのせいでコロナの話題が薄れてきているようです〉とメールが届いた。

 〈3回目接種を本格的に始めて3カ月。どこの医療機関も昨年の大騒ぎと打って変わって申し込みがかなり減っている印象です。新型コロナはあまり怖くないと思っている方が多くなっていることもあるようです〉

 だが、現実には3月下旬から感染者が前週の同じ曜日を上回る日が続出。なのにワクチン接種は進まず、1回目が接種年齢の80・9%、2回目79・5%に対し3回目は40・5%だ。

 〈3回目接種についての国の広報のまずさと、もう1点、モデルナの副反応の問題が大きいようです。モデルナは1バイアルで15人接種できますが、不人気のため、冷蔵庫から出して12時間以内にこの人数にならないと残りは廃棄となります〉

 S医師は、去年は考えられなかったワクチンロスだという。さらに大きな問題は5歳~11歳の小児接種だ。10万人当たりの感染者は10歳未満が473人と最多だが、ワクチン接種は5・7%にとどまる。S医師は〈小児科医が親御さんからいろいろ意見を聞かれるようですが、様子をみたいという方が多いようです〉という。

 その上でS医師は3回目や小児接種がこんな状態なのに〈国は早々、4回目接種を言いだしています。国民がどの程度望んでいるのか、慎重に議論してほしいものです〉と結ばれている。

 いま私たちは彼の国で日々失われていく命に胸を痛めつつ、自らもいまだウイルスと戦い続けていることを、忘れてはならない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年4月4日掲載)

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