山下彩花さんが命をかけて教えてくれたこと
-神戸児童連続殺傷事件から25年-
ほほ笑みながらピースサイン。山下彩花さん(当時10)の写真になつかしさが込み上げてきた。1997年に起きた神戸児童連続殺傷事件で土師淳君(当時11)の事件の約2カ月前、少年Aに彩花さんが殺害されて3月23日で25年。父の賢治さんが報道関係に手記を公表した。
賢治さんとお目にかかったことはないが、お母さんの京子さんとは何度もお会いした。自宅のリビングには運動会や遠足のスナップと並んで、その年の書き初め「生きる力」の元気な文字が張り出されていた。
冬の夕暮れ。学校からの帰りが遅く心配していると、手袋の片方を拾って交番に届けてきたという。「落とした人も困ってるけど、あの手袋も早くもう片方に会いたいやろなと思って…」。
京子さんは「彩花はそんな心根の子どもでした」と、問わず語りに話してくれた。
事件から20年の手記に〈家族の絆もさらに強くなりました。それらは決してお金では買うことができない宝物であり、彩花が命をかけて教えてくれたことにほかなりません〉と書かれた京子さんは乳がんを患い、その年の6月、61歳で彩花さんのもとに旅立った。
現在39歳。彩花さんから「生きる力」を奪い去った加害者は7年前、遺族の気持ちを踏みにじる本を出版。賢治さんらが謝罪の手紙を拒否して以降、音信をプッツリと絶って、いまもこの国のどこかで生きている。
賢治さんは手記の最後を〈私なりの方法で、今後も「償いと謝罪」を求めていきたと思っております〉としつつ、〈被害者家族に対して償う気持ちがないのでしょうか〉と結んでいる。
寒さが戻り、底冷えのする春である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年3月28日掲載)
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