裁判官が見るべきだった男児の生身の体
-家裁に断たれた7歳児の命綱-
報道していて児童虐待ほど胸が痛む事件はない。この子たちは私たちの社会に生を受けて、痛かった、熱かった、ひもじかった―そんな思いしか残さずに短い人生を終えている。
神奈川県大和市で42歳の母親が7歳の次男を殺害したとして逮捕された事件で、これまで以上に私は怒りに打ち震えている。あろうことか、この事件では男児の最後の命綱を家庭裁判所が断ち切ってしまった。
この母親のもとでは、1子長男と2子長女がいずれも生後数カ月で死亡。殺害された3子の次男も生後5カ月で心肺停止となり、一時、児童相談所が保護していた。だが母親のもとに戻った2年後、今度は4子の男児も1歳余りで死亡したため危険と判断した児相が次男を保護したが、母親がこれに激しく抵抗。児相はやむなく横浜家裁に次男の施設内保護を申し立てた。
番組でご一緒した元児相職員の女性も「児相は出来る限りのことはやった」とするこの最終手段だったが、家裁は母親の主張を認め、児相の申し立てを却下。次男は2018年自宅に戻され、翌年8月殺害された。
県と地域の児相は事件後、「母親のもとでの養育が不適切とする資料をそろえられず、残念だった」としている。また厚労省も「家裁の審理は原則、書面。一時保護の正当性を資料で立証すること」としている。
だが、児相の職員に「家で母親に投げ飛ばされて、口から血が出た」と訴えていたこの子は、果たしてどんな思いで家に戻ったのか。
裁判官が見るべきは、書面だったのか。男の子の生身の体ではなかったのか。聞くべきは、まわりの大人たちの肉声ではなかったのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年2月28日掲載)
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