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2022年2月

2022年2月28日 (月)

裁判官が見るべきだった男児の生身の体

-家裁に断たれた7歳児の命綱-

 報道していて児童虐待ほど胸が痛む事件はない。この子たちは私たちの社会に生を受けて、痛かった、熱かった、ひもじかった―そんな思いしか残さずに短い人生を終えている。

 神奈川県大和市で42歳の母親が7歳の次男を殺害したとして逮捕された事件で、これまで以上に私は怒りに打ち震えている。あろうことか、この事件では男児の最後の命綱を家庭裁判所が断ち切ってしまった。

 この母親のもとでは、1子長男と2子長女がいずれも生後数カ月で死亡。殺害された3子の次男も生後5カ月で心肺停止となり、一時、児童相談所が保護していた。だが母親のもとに戻った2年後、今度は4子の男児も1歳余りで死亡したため危険と判断した児相が次男を保護したが、母親がこれに激しく抵抗。児相はやむなく横浜家裁に次男の施設内保護を申し立てた。

 番組でご一緒した元児相職員の女性も「児相は出来る限りのことはやった」とするこの最終手段だったが、家裁は母親の主張を認め、児相の申し立てを却下。次男は2018年自宅に戻され、翌年8月殺害された。

 県と地域の児相は事件後、「母親のもとでの養育が不適切とする資料をそろえられず、残念だった」としている。また厚労省も「家裁の審理は原則、書面。一時保護の正当性を資料で立証すること」としている。

 だが、児相の職員に「家で母親に投げ飛ばされて、口から血が出た」と訴えていたこの子は、果たしてどんな思いで家に戻ったのか。

 裁判官が見るべきは、書面だったのか。男の子の生身の体ではなかったのか。聞くべきは、まわりの大人たちの肉声ではなかったのか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年2月28日掲載)

 

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2022年2月21日 (月)

お茶を濁すわけにも水に流すわけにもいかない

-「1億円選挙買収」疑惑-

 見上げたもんだよ、屋根屋のナントカ。見上げたもんだよ、これでも日本は法治国家―

 月曜朝の文化放送ラジオで腹立たしさのあまり、フーテンの寅さんのこんな口上を口にしてしまった。

 月刊誌の〝文春砲〟が暴いた「1億円選挙買収」疑惑。記事によると自民党京都府連は約10年前から衆参の国政選挙の直前に候補者からその選挙区支部の府議、市議1人につき50万円を納めさせ、それを府連が議員に配っていた。府議、市議が15人いれば750万円。

 広島の県議、市議100人をこつこつまわって28871万円をバラまいて、いま服役中の河井克行元法相が「この手だったらいいのか」と歯ぎしりしそうな話だ。

 だけど文春が入手した府連の事務文書には〈ダイレクトに議員に交付すれば、買収ということになりますのでマネーロンダリングするのです〉と書かれていて、この疑惑は、いわば自白調書つき買収事件。

 だが府連会長を2期つとめ、前回参院選で960万円も支出している二之湯智国家公安委員長は、国会での質問に「私の思いで寄付した。もう7年も前の話で、根拠は記憶にない」。

 それにしても、河井前衆院議員は検察を、二之湯参院議員は警察を、それぞれつかさどる元法相に、現国家公安委員長。これが法治国家の姿かと怒りが込み上げてくるではないか。ここは検察、警察がどう出ようが、先日、広島の県議、市議に「起訴相当」を突きつけた検察審査会の出番ではないか。

 再び寅さん。四谷赤坂麴町、ちゃらちゃら流れるお茶の水―この疑惑、お茶を濁すわけにも、水に流すわけにもいかないのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年2月21日掲載)

 

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2022年2月14日 (月)

「アオダモ」と神宮球場と1000本伐採と

-風致地区「外苑再開発」に思う-

 毎日新聞月曜朝刊、山田孝男さんの署名記事「風知草」で初めて知った。「神宮外苑 危うし」。

 外苑南側の都市再開発で、ここ数年ちょっとした縁で学生時代以来、久しぶりに足を運んだ神宮球場は神宮第2球場と統合されて秩父宮ラグビー場と入れ替わる。エリアで公園面積が3・4㌶減り、そこに超高層ビルが建つ。工期10年。

 山田さんが〈これが丸の内や日比谷なら、そうですか―というだけの話だが〉と書く通り、ここは自然保護を義務づけられた風致地区。なのに驚くのは、その地区内の古木1900本の52%にあたる1000本を切り倒してしまうというのだ。

 神宮球場への郷愁でこれを書いているわけではない。最近では東京ドームや甲子園もそうだが、神宮は学生野球連盟の申し合わせでイニングの間に必ず「アオダモ資源育成の会」からの映像をバックスクリーンに流している。アオダモは木製バットの最高素材。だが最近は北海道の自然林の減少などで枯渇。プロ、アマともアオダモバットを使っている選手は数えるほどだ。

 球場の映像には、スコップを片手に10㌢ほどの苗木を次々に植えていく子どもたちの楽しそうな姿が流れる。だがアオダモが成木になるのは70年。この子たちが植樹した木からできたバットを手にすることはない。

 一方で超高層ビルのため切られる古木は、外苑整備の1920年代に先達が植樹した木だから樹齢約100年。子どもたちは70年先を見据えて植樹し、大人たちは100年の古木を1000本切り倒す。いったい私たちは、どんな国土を次の世代、その次の世代に残すつもりでいるのだろうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年2月14日掲載)

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2022年2月 7日 (月)

現金受け取り議員に「起訴相当」

-検察審査会が大きな1歩-

 2009年、裁判員制度とともに新制度になった検察審査会が大きな1歩を踏み出したようだ。妻・案里元被告の参院選挙で2871万円をバラまいた河井克行・元法相(懲役3年が確定)から現金を受け取りながら不起訴になった広島の県議、市議ら100人のうち、35人について検察審査会が強制起訴もあり得る「起訴相当」を議決した。

 さっそく広島ホームテレビの番組にリモートで出演したが、質問してくる記者から、多額の現金を受け取りながら、なお県議、市議に居座る議員への怒りがふつふつと伝わってきた。

 この検察審査会、これまで安倍政権下の森友文書改ざんも桜を見る会前夜祭も、いずれも強制起訴にはならない「不起訴不当」を議決。その一方で、これまで強制起訴された原発事故の東電トップや福知山線事故のJR西日本幹部は、いずれも無罪。この12年で強制起訴は9件。うち有罪となったのは個人の暴行事件などたった2件。果たして審査会は「民意を検察に」という目的に沿っているのか、疑問視する声も上がっていた。

 だが今回の議決は「議員という公職にありながら、その行為は極めて悪質」とした上で「その責任の重さに鑑み、不起訴は不当である」と、暗にではあるが、起訴しないことを条件に金の受け取りを認めさせた検察捜査を批判している。

 検察が再度不起訴にしても審査会がもう1度「起訴相当」を議決したら議員は法廷に立たされ、有罪となれば失職する。

 議員の行く末もさることながら、モリカケサクラ。民意を裏切り続けてきた検察、検察審査会がこの先、どう出るか。市民は目を凝らしている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2022年2月7日掲載)

 

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