置き去りにされた「人」の捜査
-届いた1通の喪中はがき-
師走に入ってから1通の喪中はがきが届いた。川畑久廣さんが11月10日、92歳で亡くなられた。
私が新聞記者2年生で徳島県警を担当していたとき、30代の捜査二課長として赴任してこられた。エリート官僚といってもノンキャリアの警察官から数千人に1人の推薦枠でキャリアになった、いわばたたきき上げの現場捜査官。法律知識、捜査手法、独特な警察用語。駆け出し記者の私に個人授業のように教えてくれた。
15年後の1984年、大阪社会部の記者として私は再び川畑さんと出会うことになる。川畑さんは近畿管区警察局保安部長として、その年起きたグリコ森永事件の広域捜査を指揮する立場だった。そのグリ森事件の捜査をめぐって川畑さんは手詰まり状態にあせる警察庁と激突することになる。
一刻も早くキツネ目の男の似顔絵を公開しろと迫る本庁に対して川畑さんは、似顔絵が犯人と似ていなかったら大変なミスリードになる。情報がキツネ目男に集中して捜査員はそのつぶしに追われる。ブツを追ったり、人間関係に迫る捜査が置き去りにされる―などとして真っ向から対立した。
だが川畑さんは押し切られ、そのせいばかりではないだろうが、事件は未解決のまま時効となった。
時は流れ、いまは似顔絵どころか防犯カメラ映像の全盛時代。地をはうのではなく、上を見てカメラを探せというのが捜査の主流だ。その陰で靴底を減らしながらの聞き込みや、人と人が絡みあった糸を丹念にほぐしていく根気のいる捜査はおろそかにされていないだろうか。
川畑さんに感謝しつつ、さまざまな思いがめぐる年の瀬である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年12月13日掲載)
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