なぜ無罪、なぜ無期なのか
-相次ぐ「主文後回し」-
「主文は後回し」の判決が2件相次いだ。4日、神戸地裁は求刑無期懲役に対して無罪。9日、横浜地裁は求刑死刑に対して無期懲役を言い渡した。いずれの判決に対しても被害者遺族から「なぜ、どうして?」と怒りの声が渦巻いた。
2017年、神戸市北区で祖父母と近所の高齢女性3人を包丁で刺して殺害、母親ら2人に大けがを負わせた男(30)に対して、神戸地裁は「自分と好意を抱く女性以外はゾンビだという妄想に支配された心神喪失状態だった」として責任能力を認めず、無罪とした。
横浜地裁は2016年、勤め先の病院で点滴に消毒液を混入させ、高齢の入院患者3人を殺害したとされる元看護師(34)に対して、対人関係に難がある自閉症状だったことを「被告の努力では、いかんともしがたい事情」と判断。「償いをさせ、更生の道を歩ませるのが相当」として死刑の求刑を退け、無期懲役とした。
「主文後回し」の理由についていずれの裁判長も「静かに判決理由を聞いてもらうため」としている。だが言い渡しの後、傍聴席には怒りとも悲しみともつかない声が飛び交った。神戸の事件で殺害された近所の高齢女性の遺族は「3人も殺しておいて、無罪なんてことが許されるのか」とコメント。横浜の事件では被害当日が88歳の誕生日だったという男性患者の遺族が「こんな身勝手な動機でも死刑にはならないのか」と無念さをにじませた。
言うまでもなく、裁判は被害者遺族の思いを掬(すく)い上げるためのものではない。だとすれば、社会が遺族とともにその思いを受け止める術はないものか―。堂々めぐりが続く。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年11月15日掲載)
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