« 2021年10月 | トップページ | 2021年12月 »

2021年11月

2021年11月24日 (水)

18歳とはなんぞやと考える

-裁判員裁判の目的は?-

 先週に続いて今回も裁判への疑問。市民が裁判に参加する裁判員の年齢が引き下げられ、再来年には18、19歳も対象になるという。裁判員裁判は故意に人を死に至らしめた事件について開かれるので、最高刑死刑もある殺人や強制性交殺人などの裁判に高校生が参加するケースも出てくる。

 その理由として、裁判員は衆院選の選挙権を持つ人から選任されるが、公選法の改正で18歳以上が対象となった。また少年法も改正され、18、19歳でも一定の厳罰が科せられることになった―などが挙げられている。

 だけど、これはあまりに短絡的ではないのか。あらためて18歳とはなんぞやと考える。たしかに公選法と並んで民法も改正され、18歳でもローンを組んだり、住宅の賃貸などさまざまな契約ができるようになった。

 その一方でコロナ禍対策の10万円の給付は「18歳以下の子どものいる家庭」への子育て支援となっている。ここでは18歳は、あくまで子どもなのだ。

 裁判員裁判に話を戻すと、残忍極まりない殺人。目を覆いたくなる強制性交殺人。それらの事件の証拠写真は成人の裁判員でも精神的負担が重すぎるとして最近はイラストにしているケースも少なくない。また取り調べの録画も映像だと裁判員が情緒的になる恐れがあるとして検察官に文字で読み上げさせる公判も出てきた。

 こうした裁判に高校生が入っていく。そのことについてしっかり議論されたのか。最高裁は、7月、HPに掲載しているとしているが、こんな大きな問題にそれでいいのか。

 裁判員裁判の目的は「広く国民の声を反映させること」にあったのではないのか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年11月22日掲載)

 

|

2021年11月17日 (水)

なぜ無罪、なぜ無期なのか

-相次ぐ「主文後回し」-

 「主文は後回し」の判決が2件相次いだ。4日、神戸地裁は求刑無期懲役に対して無罪。9日、横浜地裁は求刑死刑に対して無期懲役を言い渡した。いずれの判決に対しても被害者遺族から「なぜ、どうして?」と怒りの声が渦巻いた。

 2017年、神戸市北区で祖父母と近所の高齢女性3人を包丁で刺して殺害、母親ら2人に大けがを負わせた男(30)に対して、神戸地裁は「自分と好意を抱く女性以外はゾンビだという妄想に支配された心神喪失状態だった」として責任能力を認めず、無罪とした。

 横浜地裁は2016年、勤め先の病院で点滴に消毒液を混入させ、高齢の入院患者3人を殺害したとされる元看護師(34)に対して、対人関係に難がある自閉症状だったことを「被告の努力では、いかんともしがたい事情」と判断。「償いをさせ、更生の道を歩ませるのが相当」として死刑の求刑を退け、無期懲役とした。

 「主文後回し」の理由についていずれの裁判長も「静かに判決理由を聞いてもらうため」としている。だが言い渡しの後、傍聴席には怒りとも悲しみともつかない声が飛び交った。神戸の事件で殺害された近所の高齢女性の遺族は「3人も殺しておいて、無罪なんてことが許されるのか」とコメント。横浜の事件では被害当日が88歳の誕生日だったという男性患者の遺族が「こんな身勝手な動機でも死刑にはならないのか」と無念さをにじませた。

 言うまでもなく、裁判は被害者遺族の思いを掬(すく)い上げるためのものではない。だとすれば、社会が遺族とともにその思いを受け止める術はないものか―。堂々めぐりが続く。 

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年11月15日掲載)

 

|

2021年11月10日 (水)

自暴自棄犯防止に金属探知機が必要では

-京王線乗客刺殺事件-

 衆院選で東海テレビ(名古屋)の開票速報特番に出演中、番組を中断して、東京・調布市を走行中の京王線車内で乗客が刺され、油をまいて放火されたという一報が飛び込んできた。最終的には1人が重体、16人が重軽傷の大惨事。火の手が上がる車内を逃げまどう乗客の映像も流れた。

 「人を殺して死刑になりたかった」というハロウィーンの仮装をした24歳の男。やはり、この犯行は8月、私がこのコラムに「『見せる警備』で抑止するしかないのでは」と書いた小田急線車内に油をまいて刃物で女子大生ら10人を襲った36歳男の事件をまねたものだった。小田急線の男は「勝ち組っぽい女性に腹が立った」と供述している。

 これらの事件後、車内の停止ボタンや非常コック、緊急停止駅でのホームドアの開閉など異常時の対応が改めて検討され、テレビ番組でも取り上げられている。だけど、これらはいずれも事件が起きたあとの乗客の避難や誘導が中心で、事件を未然に防ぐための抜本的な対策とは、ほど遠い。

 とはいえ、京王線の男は刃渡り30㌢の包丁とライターオイル4㍑を持ち込んでいた。都市部で鉄道は通勤、通学をはじめ日常生活には欠かせない。そこでこんな犯行が続発したら社会はマヒしてしまう。

 ここは思い切って主要駅の自動改札機に空港で使用されているエックス線検査機、あるいは携帯電話など小物には反応しない金属探知機を取り付けられないものか。もちろん限定的ではあるが、自暴自棄犯に一定の効果はあるのではないか。

 もはや「防ぎようがないよね」と言っている場合ではないことは確かだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年11月8日掲載)

|

2021年11月 3日 (水)

なんか違うぞ総裁選と衆院選

-報道姿勢を思う-

 戦いすんで日が暮れて―。衆院選は終わった。だが、ひとりの有権者として、そしてメディアに関わっている者として、なんともフラストレーションのたまる選挙戦だった。出演しているテレビの情報、報道番組で選挙戦を取り上げても、候補者が選挙カーで声をからし、有権者とグータッチ。そんな場面を流すだけ。

 それでもまだましなほう。番組によっては、選挙戦はまったく取り上げないところも出てきた。とかく批判の的になる大政党からの執拗で細かいクレームへの対応と、それにかかる時間のロス。ならば一切やめてしまえとなったのだ。

 選管からの選挙公報もあれば、各政党の代表や候補者の政見放送もあるではないかと言うかも知れないが、無所属の候補には政見放送はない。それともう1点。連日、テレビが取り上げたあの自民党総裁選と視聴率をくらべてみたらいい。一体、どれだけの人が政見放送を見ているというのか。

 その自民党総裁選では公開討論の場で、あるいはテレビ番組で、趣向を凝らして4候補にコロナ対策や安保・防衛、男女別姓。フリップや○×式で4候補の考えをわかりやすく伝えてくれたではないか。だけどこちらはみんなが1票を持っている国政選挙と違って、有権者の99%は投票権がない。

 この時代の国政選挙。ここは各地の選管の出番ではないのか。ネットで選管主催の公開討論を配信したらどうだ。国政からその選挙区固有の問題、有権者が寄せた質問について議論してもらい、それをテレビも放映できるようにするのだ。

 選挙は、すんだ。だが有権者とメディアがタッグを組んで、戦いはこれからだ。
 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年11月1日掲載)   

|

« 2021年10月 | トップページ | 2021年12月 »