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2021年10月

2021年10月27日 (水)

なんとか法政を仲間に入れてやろう

-コロナ禍の東京6大学野球-

 体育会系理事による不正事件に揺れる日大にふれた先週のこのコラムで〈私も学生スポーツが大好きだ。数年前の秋、神宮球場の空に広がるあかね色の雲の下の東京6大学野球…〉と書いた。その東京6大学野球をめぐって、朝日新聞の安藤嘉浩編集委員が心打つ記事を書かれていた。

 この秋、6大学野球が激震に見舞われた。法大野球部がコロナに集団感染。9月11日開幕予定の秋季リーグ参加は絶望的とみられた。

 安藤さんの記事によると、〈加藤重雄監督も「(私も)半分以上あきらめていました」〉

 監督と助監督が寮で隔離生活を送る部員の部屋に食事を運び、ゴミを回収する日々。だが、そんな法大のために連盟が動いた。9月11日の開幕を1週間ずらした上、法大戦を隔離が解ける10月に集中させたのだ。

 〈「なんとか法政を仲間に入れてやろうという、皆さまの熱い思いが胸にズシンときました」。法大の加藤監督は理事会後のオンライン会見で声を詰まらせた〉

 そして迎えた10月9日の初戦。〈先発した 三浦銀二主将は「連盟関係者、他の5大学のご理解により神宮に立てました」と感謝した〉。記事によると、法大の選手は、はつらつとプレーし、相手校も全力でぶつかっているという。

 安藤さんは118年の6大学野球の歴史にもふれ、戦中、戦後、そして今回のコロナ禍。〈厳しい状況下でもライバルと競い合い、高め合う機会を大切にしてきた〉と書かれている。

 10月31日早慶戦のあと、閉会式を迎える2021年秋季リーグ。法大をはじめ、5大学の選手、応援団は神宮の空を雲を風を、どんなふうに感じることだろうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年10月25日掲載)

 

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2021年10月20日 (水)

いまこそ日大の膿を出すとき

-2億2000万円不正還流-

 新聞記者時代の先輩、Kさんから電話をいただいた。Kさんは退社した後、アメリカで長らく生活、帰国後は日大で特任教授をつとめ、いまはがんの闘病中だ。

 「あの大学は、学部長でも体育会系の理事の前に出ると米つきバッタ。いま膿を出さないと…」。かすれた声が怒りでふるえている。

 大学病院建て替えにからんで、その体育会の理事の井ノ口忠男容疑者らが2億2000万円を不正に還流させたとして東京地検特捜部に逮捕された。還流された金の一部は、これまた体育会系の田中英寿理事長に渡った疑いが強く連日、地検の事情聴取が続いている。

 驚くことに井ノ口容疑者は3年前の日大アメフト部悪質タックル事件に関与。選手らに「真相を話したら、総力をあげてつぶす」と脅して大学を追われた男。それが理事長との体育会つながりで早々と復帰していた。

 私も学生スポーツが大好きだ。数年前の秋、神宮球場の空に広がるあかね色の雲の下の6大学リーグ戦は、いまも忘れられない心地よい思い出だ。だが一方で、体育会つながりを悪用してカネやポストを薄汚く回し合う。これほどスポーツに対する冒涜があるか。

 巨大組織とはいえ、あくまで大学内のカネと人の流れという声もあるようだが、それは違う。私学の中では常にトップ3に入る年間90億円もの国税が助成金としてつぎ込まれているのだ。

 学問を大事にする日大教授陣、職員、そして学生。何よりスポーツをこよなく愛する体育会のみんな。いまこそタッグを組んでこの大学を根本から改革しようじゃないか。司法もメディアも、そして何より国民がしっかりと見続けている。


(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年10月18日掲載)

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2021年10月13日 (水)

減る感染者 増える若者ドタキャン

-無駄になるワクチン-

 コロナ禍をめぐって、ホッとするニュースが相次いでいる。最悪のころ1日2万5000人を超えた全国の感染者は1000人台、25分の1まで減っている日も出てきた。

 なぜこんなに減ったのか。先日NHKニュースでは、医学関係者がさまざまな要因を挙げる中、政府の専門家会議の脇田隆字座長が「若者で増えて、若者で減った」と解説されていた。活発で無症状が多い若者が感染すると一気に感染者が増え、一方で若者へのワクチン接種など対策が進むと全体の感染者が減るという。

 そんな中、私の地元、大阪・豊中のS医師からまたメールをいただいた。

 〈私の医院で予約者の中から6人のドタキャンが出ました。窓口予約ではめったにないのですが、6人はいずれもネット予約の若者で、しかも前日の夕か夜という直前のキャンセルです〉 

メールを読みながら数カ月前、東京で接種会場に列をなしていた若者を思い出した。その若者がなぜ? 

 〈急激に感染が収まりつつあるなか、迷っていた若者が「やっぱりやめとこ」と軽い気持ちでキャンセルしているようです。ただドタキャンですと、キャンセル待ちの人への手配も難しいのです。またワクチンは1バイアル(瓶)6人分ですので無駄にならないようにするのは至難の業です。そろそろこうしたワクチンは医療従事者の3回目接種にまわすということも考える時ではないかと思います〉

 1人ひとりの若者に悪気はないだろうが、いまも世界で数億の人がワクチンを心待ちにしていることを忘れないでほしい。いずれにしろ、油断大敵。コロナ禍対策はいまが正念場、という気がしてならない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年10月11日掲載)

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2021年10月 6日 (水)

押し切られた県警本部長

-佐賀に続き滋賀県警-

 前回の佐賀県警に続いて、今度は滋賀県警がとんでもないことをしでかした。滋賀県の病院で患者が死亡、看護助手だった西山美香さん(41)が無実の罪で12年間服役。2020年再審無罪が確定した事件で西山さんが国と県(県警)を相手どった民事の国賠訴訟で県警が「犯人は西山さん」とする書面を、無罪を言い渡した大津地裁に提出していた。

 この事実に三日月大造知事は滝沢依子県警本部長を呼びつけ、その場で謝罪させる事態に発展した。滝沢本部長は「無罪を否定するものとは思っていなかった」としているが、そんなわけがない。キャリア官僚が地元採用警察官に押し切られ、決裁した光景が目に浮かぶ。

 憤りというよりは悲しくなる。先週書いた主婦暴行死事件で捜査を懇願する親族を追い返した佐賀県警は、遺族が再三、杉内由美子本部長の謝罪を求めたが、県警は面会を拒否。結果、杉内本部長は体調を崩して警察庁に引き取られていった。

 私が半世紀も取材している警察組織は典型的な男社会だ。都道府県警のトップ、本部長に初めて女性が就任したのはわずか8年前。その後、全国27万警察官の中から5人の女性本部長が誕生したが、このうち2人が滝沢さんと杉内さんだ。

 この人たちがいま、なすべきことは、どんな形で無実の人を再び殺人犯とする書面への決裁を迫られたのか。なぜ遺族への謝罪をかたくなに止められたのか。それを明らかにすることだ。

 それが市民県民への責務であると同時に、キャリア、ノンキャリアを問わず、自らの前に男性と同様のフィールドが開けていると信じて額に汗して働く後進に見せるべき姿だと思うのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年10月4日掲載)

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