桜井さん3度目の「勝った」聞きたい
-布川事件国賠訴訟勝訴-
無実の罪で29年間服役。事件から43年後の2011年、冤罪が明らかになった布川事件の桜井昌司さん(74)が提訴した裁判で、国の責任を認め、7400万円の支払いを命じた東京高裁判決が先日、確定した。
いまだ再審が開かれない袴田事件や冤罪が明らかになった志布志選挙違反事件、足利事件…。裁判や報告集会には必ずと言っていいほど駆けつけて「自分の裁判はどうなっているの?」と声をかけられていた桜井さん。自身の勝訴報告記者会見のこぼれる笑顔を見て、この春、獄中で書きためた詩をちりばめたエッセー「俺の上には空がある広い空が」を贈っていただいたことを思い出し、改めてページを繰ってみた。
〈窓辺に来た鳩の行った先を見たいと思った。思った瞬間、見られないことが、息ができないくらいの苦痛に変わった。「出たい! 手が折れてもいい、鉄格子を破って自由になりたい!」 深呼吸をした〉
表題の「俺の上には空がある…」はそのとき桜井さんの心を静めた言葉だった。
その桜井さんは2019年秋、直腸がんが肝臓に転移していると診断された。医師の宣告は「手術は無理。治療しても余命は2年」。
いただいたエッセーの一文が目に飛び込んできた。
〈私の口癖は勝つ、必ず勝つ! だった。「無実なのだから勝てないはずがない。勝てる、必ず勝つ」と語り続けた〉
再審無罪確定から10年。そして、がん宣告から3年目の秋に国家賠償訴訟に「勝った」。いま私は、桜井さんの「勝つ、必ず勝つ!」から今度で3度目の「がんに勝った!」が聞けると信じて、心待ちにしている。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月20日掲載)
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