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2021年9月

2021年9月29日 (水)

佐賀県警に特別監察を

-殺人事件伝えぬ鳥栖署-

 ここ10日ほど九州の新聞、テレビからコメントの依頼が相次いだ。佐賀県鳥栖市で9月10日白昼、79歳の女性が隣家の庭先で頭から血を流して倒れているのが見つかった。13日になって、大分市の警察署に長崎市の長崎大4年の学生(25)が「佐賀で女性をハンマーで殴って殺した。相手はだれでもよかった」と自首、14日に逮捕された。

 この間、ほぼ5日。佐賀県警も鳥栖署もマスコミにはもちろん、近隣住民にも事件を一切伝えていなかった。犯人の学生は自宅で放火とみられる火災が起きたあと、福岡に出て鳥栖市中心部にはタクシーで移動。現場までの1・5㌔で襲撃相手を物色していたという。付近には小中学校6校があり、1校は下校時間直前だった。

 近所にも事件を伝えなかった理由として県警は、遺体の傷から殺人とはわからなかった。また大学医学部の都合で土日に解剖できず、死因が特定できなかった―などとしている。佐賀県警は、頭に2カ所もハンマーで殴られた骨折があっても他殺とは思わないのか。医学部が土日休みなら、凶悪事件の捜査も2日間空白。私の長い事件取材でこんな警察は見たことがない。

 佐賀県警と鳥栖署といえば2019年、主婦が暴力団を装う男女に脅迫されていた事件で、親族が10回以上捜査を懇願しても被害届さえ出させず、結果、主婦は凄惨な遺体で見つかった。

 今回の事件のあとも犯人が市民に無差別に襲いかかったら、県警はどんな言い訳をする気だったのか。2度あったことが3度になる前に警察庁がなすべきことは、一刻も早く佐賀県警の特別監察に入ることだ。メディアは今後を注視している。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月27日掲載)

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2021年9月22日 (水)

桜井さん3度目の「勝った」聞きたい

-布川事件国賠訴訟勝訴-

 無実の罪で29年間服役。事件から43年後の2011年、冤罪が明らかになった布川事件の桜井昌司さん(74)が提訴した裁判で、国の責任を認め、7400万円の支払いを命じた東京高裁判決が先日、確定した。

 いまだ再審が開かれない袴田事件や冤罪が明らかになった志布志選挙違反事件、足利事件…。裁判や報告集会には必ずと言っていいほど駆けつけて「自分の裁判はどうなっているの?」と声をかけられていた桜井さん。自身の勝訴報告記者会見のこぼれる笑顔を見て、この春、獄中で書きためた詩をちりばめたエッセー「俺の上には空がある広い空が」を贈っていただいたことを思い出し、改めてページを繰ってみた。

 〈窓辺に来た鳩の行った先を見たいと思った。思った瞬間、見られないことが、息ができないくらいの苦痛に変わった。「出たい! 手が折れてもいい、鉄格子を破って自由になりたい!」 深呼吸をした〉

 表題の「俺の上には空がある…」はそのとき桜井さんの心を静めた言葉だった。

 その桜井さんは2019年秋、直腸がんが肝臓に転移していると診断された。医師の宣告は「手術は無理。治療しても余命は2年」。

 いただいたエッセーの一文が目に飛び込んできた。

 〈私の口癖は勝つ、必ず勝つ! だった。「無実なのだから勝てないはずがない。勝てる、必ず勝つ」と語り続けた〉

 再審無罪確定から10年。そして、がん宣告から3年目の秋に国家賠償訴訟に「勝った」。いま私は、桜井さんの「勝つ、必ず勝つ!」から今度で3度目の「がんに勝った!」が聞けると信じて、心待ちにしている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月20日掲載)

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2021年9月15日 (水)

コロナ対策だけでも超党派でできないか

-総裁選〝劇場〟に思う-

 メディア、とりわけテレビは自民党総裁選劇場だ。1政党の総裁選びとはいえ、よほどのことがない限り次期首相となるのだから、それもまたむべなるかなだ。

 今週末には候補が出そろい、政策発表。ただ投票は国会議員と党員、党友だけ。一般の有権者は政策をじっくり吟味して1票を投じることはできない。どんなにおいしそうに見えても、絵に描いた餅なのだ。

 だけど本当に私たちは指をくわえて見ているしかないのか。ふと、やりようによっては総裁選を少しは身近に引き寄せられる、そんな気もしてくるのだ。

 特定の候補を応援する気はないが、たとえば岸田文雄前政調会長は感染症対策として「健康危機管理庁」の創設を打ち出している。感染者が減っているとはいえ、いまも7割近くの人が自宅に置かれたまま。コロナ禍は、この国の行政機構の破綻をあからさまにした。

 一方、総裁選で影が薄い野党は4党共闘体制を組むと同時に、立憲民主党は衆院選に向けて公約を発表。その中で首相官邸に「新型コロナウイルス対応調整室」の新設をうたっている。

 だったら、この点は岸田案に乗って超党派で健康危機管理庁設立に協力することはできないか。野党も賛同しているのだから総選挙後にすんなり設立が決まり、感染者が自宅でバタバタと死んでいくこの事態は少しは改善されるのではないか。

 それによって野党の公約も現実味を帯びるし、何より総裁選に票を投じる人たちがどの候補なら野党とも連携、政策を実現できるか考える、ひとつの指標になるはずだ。

 絵に描いた餅も、やりようによって、おいしくいただくことができるのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月13日掲載)

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2021年9月 8日 (水)

人生終盤でのミス 絶対に認めたくない元エリートたち

-池袋暴走事故 実刑判決-

 東京・池袋で乗用車を暴走させて31歳の母と3歳の娘を死亡させ、9人にけがを負わせた旧通産省幹部、飯塚幸三被告(90)に先週、禁錮5年(求刑同7年)の実刑判決が言い渡された。

 飯塚被告は裁判で、亡くなった母娘には「申し訳なく思う」としながらも事故は車の欠陥で起きたと主張してきた。自分は悪くない。悪いのは車、とされた遺族はどんな気持ちだったか。

 同じようなことは3年前にもあった。東京・白金で早朝ゴルフのため女性を迎えに行った当時78歳の検察の元特捜部長が車を暴走させて店に突っ込み、通行人の男性をはねて死亡させた。この元特捜部長も「ブレーキがまったく利かない欠陥車が起こした事故だ」と主張。なぜか官界司法界の元幹部が事故を起こすと、原因は「車の欠陥」なのだ。

 この元幹部たちは自分なりのやり方でここまで上り詰めてきた。そんな自分が人生の終わり近くでミスを犯したなんて絶対認めたくない。それが、こんなかたくなな態度を取らせているように私には思えてならない。

 ちなみにこの元幹部たち、暴走死亡事故だったのに1度も逮捕されたことはない。

 もちろん被告に無罪主張も控訴の権利もある。だが、むなしさばかりが残る裁判。池袋の事故で瞬時に最愛の妻と、かわいい盛りの女の子を失くした男性は「判決が出たら、もう争いはやめませんか。それより事故をどうしたらなくせるかという視点を、ともに持ちませんか」と呼びかけている。

 人生の最終章での被告の5年間の刑期。その1日1日が1歩1歩、この男性の呼びかけに近づく日々であってほしい。いまはただ、そう願うばかりである。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年9月6日掲載)

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2021年9月 1日 (水)

組織犯罪摘発に一定条件「福岡基準」を

-工藤会トップ死刑判決-

 1990年代から2000年初めにかけて、現在、危険指定暴力団となっている工藤会が本部を置く北九州市は「暴力が支配する町」とまで言われ、市民や企業に向けて銃弾が乱れ飛んだ。私も何度も取材し、工藤会本部にも足を踏み入れた。

 先週、福岡地裁は、その工藤会総裁、野村悟被告(74)に死刑、会長の田上不美夫被告(65)に無期懲役の厳刑を言い渡した。起訴された4事件のうち漁協組合長射殺は実に23年も前の事件。しかも、すべての事件に直接証拠はなく、暴力組織の上意下達の人間関係から両被告の事件への関与、指揮命令があったとされた。

 「そんな間接証拠だけで死刑判決か」という批判もあるが、判決言い渡しのあと裁判長に「生涯後悔するぞ」と、声をあげる被告。こうした暴力的組織に壊滅作戦を展開した警察検察の努力は高く評価されていい。

 その一方で、こうした捜査手法、司法判断はどこまで認められるべきなのか、危ぶむ声があることも確かだ。

 弾圧や抑圧に抗議するデモ。あるいは反原発、反基地のピケや座り込み。そうした活動のなかで、だれかが逮捕されるたびに指揮命令があったとしてトップの責任を問われたら、組織は壊滅的な打撃を受ける。

 ここはどうだろう。今回の判決を受けて、万やむを得ず死刑を選択する条件として「永山基準」があるように、組織犯罪摘発について一定の条件をつける。例えば動機、残虐性、指揮命令体制、社会的影響…。こうしたものを組み入れた、いわば「福岡基準」のようなものは作れないか。それは必ずや、日本の司法界に多大なインパクトを与えることになるはずだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月30日掲載)

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